5 勇者ピリポと人間になった竜、ルチカは対話する!
「うわっわっ」
俺は変な声をあげてしまった。だって……今までドラゴンがいたその場所に、燃えるような赤い髪を肩の下あたりまで伸ばした、ものすごく可愛い女の子が立っていたからだ。
金色の瞳に、小さな鼻と、ピンク色の唇。体は全身がウロコに覆われていて、手足が人間の姿をしている。おなかもそこだけ人間の肌があって、うん……どちらかというとぽっちゃり体形。ドラゴンのときもおなかはぽってりしてたから、そりゃそうか。あとは、形の変わらない竜のしっぽと背中についたコウモリの羽根。頭に一対の角。三分の二がドラゴン、残りが人間ってところだ。
「わああ!」
女の子が慌てた。
「お……お前! オレに何をしたっ!?」
紛れもなく、女の子の声。って……えええ!? 言葉、通じる!?
「驚くのはこっちだ! 君は、さっきのドラゴンなのか……?」
「当たり前だろう! この人間みたいな格好になったのは何だ! 魔法か!?」
いやいや。俺はほとんど村人そのいちとして育ってきたんで、そんな器用な魔法、まだ使えないよ! かろうじて、剣がすこし扱えるくらいだもの。
「いや……この『ミカエルの剣』の力だと思うんだけど」
俺は、再び柄だけに戻ってしまった自分の剣をしげしげと見つめた。
「なんだと。ミカエルの剣を持っているってことは……お前、勇者か!?」
「あ、ああ。先日勇者になったばかりだけど、一応。俺の名はピリポだよ」
「ピリポか。オレの名前はルチカだ」
女の子はニッと微笑んだ。うん、可愛い。
「ドラゴンから人間に出来るなんて、すごい剣を持っているんだな、ピリポ! もう一度オレを切ってみてくれよ」
「え。いいのか?」
「ドラゴンなんて、もううんざりだ! 嫌われるし親には捨てられるし」
ええ。もしかして、このルチカっていうドラゴン、とても悲しい子……!?
「……分かった。俺ももうすこし、この剣の力を見てみたいしな」
俺は、剣をルチカに向けた。パアアッ、と再び光の切っ先が現れる。ルチカが俺のその剣を、自分にもう一度、刺した。
ふたたび光に包まれるルチカ。
次に現れたのは、コウモリの羽根も一対の角もトカゲのしっぽも消えて……。ウロコが、胸とヤバイところだけ隠した、あとは人間の体になったルチカだった!
おいおい。ちょっと、目のやりどころに……困る。
「すごいな! もう一回切っても……」とルチカ。
「ス、ストップ、ストップ! これ以上切ったら、ルチカは素っ裸になってしまうよ! 女の子なんだから、それはダメだ」
俺の方があわててしまう。
「……ピリポ! オ、オレのことを女の子扱いしてくれるのか!?」と潤んだ瞳になるルチカ。
いや、だって可愛いし。
「当たり前だろう! 俺のマントを貸すから、そのあぶない水着みたいな格好は隠してくれ」
俺は自分のマントをルチカに渡した。
「あ……ありがと……」
パサッ、とルチカがマントを羽織る。
なんだ。礼も言えるし、このルチカって子、ものすごく根はいい子なんじゃね?
「ありがとな、ピリポ! 親にも女の子扱いされなかったオレを、人間にしてくれるなんて!」
ルチカが、俺にきゅっと抱きついた。
ぐきがきぼきっ。
妙な音。全身の痛み。あー、これ骨折れたかも。やばいわー。さすがドラゴンパワー!
「ピ、ピリポ……!?」
倒れた俺を、おろおろとして抱き起こすルチカ。ああ、なんか今までの人生の走馬燈が見えそう。
俺が意識を失いそうになったとき。ミカエルの剣がふわりと浮いて、洞くつの床に横たわる俺のところへと飛んできた。パアアッ、と、今度は俺の体を光が包み込む。
ん……!? 折れた骨が……戻っていく……!?
しばらくすると、元の元気な状態にすっかり戻った俺の体があった。