1 辺境テルツォ・モンドの勇者、ピリポ!
今日は、16才の誕生日。いつもなら、となりの家やご近所の同年代の友だちを集めて、ささやかなパーティを開くところなんだけれど……。
「ピリポよ! いよいよ今日、そなたを辺境テルツォ・モンドの勇者と認める!」
目の前に立つ白ヒゲの老人……うちの村の村長が、大きな声で俺に向かってそう告げた。
集まっているのは、見張りを除いた、村人全員といってもいいくらいのひとびと。おとなりのヨームさんとこも、ご近所のプラッツさんもサンディさんも、みんなみんな揃って、この村の広場に来ている。
俺の一挙一動を、息を飲んで見つめるひとびと。
「さあ、ピリポ。これから『剣の授与』の儀式を始めます」
村のなじみの神官さん、ザインさんがおごそかにそう言った。
ええと。確か「剣の授与」っていう儀式は……。
俺は、村長にずっと聞いてきたことを思いだす。
……世界には、勇者と呼ばれるひとびとが、ときどき生まれることがある。神さまの祝福を、ふつうのひとよりも多く与えられた存在で、神官には分かるのだという。勇者となったひとびとは、世界を旅して、各地の困りごと……たいていは、邪悪なモンスターが住み着いてしまったので何とかしてほしいという願いらしいけど……その退治なり、依頼を引き受けるなりして、世界の役に立つ者となるんだそう。その勇者としての証が、今から行われる「剣の授与」という儀式で得る、勇者となった人の体から現れる剣だ。それぞれの勇者にひとつだけ現れるものらしい。
今! まさに、行おうとしているこの儀式だ!
俺はちょっとワクワクしていた。俺が勇者になることは、生まれたときから決まっていた。神官のザインさんが、俺の両親にそう告げたからだ。だからと言って特別扱いをする親ではなかったから、俺はふつうの男の子として、おとなりさんやご近所さんの子どもたちとずっと仲良くやって来た。
16才になると、周りはもう親の手伝いを始めている友だちも出ていたから、もし、あーやっぱり勇者じゃなかったわーなんて言われると、ちょっと困る年齢だった!
良かった! この日がついにやって来て!
俺は感慨深げに、村長と神官のザインさんの前に歩み出た。
ザインさんが、俺の両手を取る。
「さあ、深呼吸して体の力を抜いて……。言うのです『剣よ、わが前に』と」
おお! ものすごく勇者っぽい!
俺はザインさんに言われたとおり、深呼吸をした。そしてリラックスしてから、ついに唱える。
「剣よ、わが前に!」
ぱああっ、と俺の手が光った。ふわりと何かが現れる。
……それは、ひとつの剣の……「柄」だった。