18話『旅の食事の充実化』
侯爵家に報告をした翌日。
旅に必要な物を買うために東区へ来ている。
学園は勿論サボった。
倉庫番しかすることが無いし、社交休暇前に戦闘系、生産職系を問わず実技が無いようで、倉庫は施錠されている。
休暇前の浮かれた気持ちでの実技は、事故を起こすことが多いようで座学がメインである。
私は座学への参加が認められていないので堂々とサボれる。
「さて、何を買うか・・・」
食料や野営に関する物は向こうで用意してくれると言うので甘えることにしたが干し肉とかの保存食のみでは味気無い。
何を作るにしても材料は必要だ。大量に購入するとしよう。
オラル(=玉葱)、キャル(=人参)、ニラン(=大蒜)、ザワル(=キャベツ)、セルル(=セロリ)、ダンシャク(=ジャガイモ)、周辺が草原なだけに山菜やキノコ類は見かけない。
「何気に地球の言語に似てるよね。ダンシャクなんて品種名そのままだしさ。」
ダンシャクの由来だが、豊かな土地は王の名の下に高位貴族から順に拝領されるものであり、男爵領となれば自身で辺境を開墾した土地を拝領することが多い。痩せた土地では葉物野菜は育て難く、土地を選ばず、収穫量も多いジャガイモが救世主となる。男爵領で必須の作物と言うことで、ダンシャクと名付けられたようだ。
まぁ、店主の受け売りであるので、本当かどうかは定かでは無いが。
肉類は魔獣肉がメインのようで、動物の肉は狼ぐらいしか無い。畜産業もあるのだがコストが高く、庶民には回らない。
なので購入したのはオーク肉と狼肉・・・
大量にあったのに腐らせて捨てた狼肉を買うことになるとは、勿体無い精神の根付いた元日本人としては忸怩たる思いな訳で・・・
取り敢えず、使えそうな材料や香辛料等色々買った。
寮へと戻り(と言っても、本来は授業を受けている身であり、寮長に見付からないようにコッソリとだが)購入した材料を料理用バットに種類別に置いて行く。
まずは、コンソメスープから作る。前の世界ならコンソメキューブを買えば済む話だが、此方の世界では売ってない。個人的に作ったものだがコンソメキューブは作成済みである。本来ならば、焼き色の着いた肉と切った野菜を鍋に入れ長時間煮込むことで完成するのだが、魔法の使える世界では作るのが楽なのだ。
まずは、
①『水生成』で雑味の無い水を作り出し大鍋に入れる。
②『温度操作』で大鍋の水から湯を沸かす。
③必要な材料を『乾燥』し『粉砕』して大鍋に溶かし入れる。
④大量に作った粉末エキスを大鍋に溶かし入れ塩等で味を整える。
⑤大鍋の中のコンソメスープを『温度操作』で急速凍結する。
⑥大鍋から凍ったコンソメスープを取り出して適度な大きさの立方体に『切断』する。
⑦凍ったコンソメキューブの周囲を『圧力操作』で真空状態にする。
これで、コンソメキューブ内の凍った水分が昇華され、フリーズドライの出来上がりだ。
次は調味料だ。
①先に作ったコンソメキューブ数個を少な目のお湯で戻す。
②香味野菜も『乾燥』『粉砕』で足しこむ。
③香辛料を粉末にし、軽く『焙煎』し、コンソメスープにしっかりと『均一化』して溶かし込む。
④糖粒(=砂糖)を軽く『焙煎』しカラメリゼし、ワイン酢、塩、アプル(=林檎)をすりおろし加える。
⑤『温度操作』で軽く煮込む。アクは丁寧に取り除く。
⑥『熟成』する。
『熟成』は対象物の時間を操作するため、膨大な魔力を必要とし、使えるとしたら(A)級職業かつ高位階並みのステータス持ちぐらいらしい。
⑦『温度操作』で常温に戻し、瓶詰する。
ウスターソースの出来上がりだ。
醤油が無いので少しちがうかな?とも思うが、味見をしたところで、違いを理解出来ないので良しとする。
醤油は作りたいが、麹菌を見つけていないので仕方ない。
他にも禁断のカレースパイスも作った。
部屋の匂いが凄いことになったが『拡散』してなんとかなった。
他の寮生は授業時間中で誰もいないので助かった。
カレースパイスの香りを嗅がれていたら大騒ぎになってただろう。
「こんなもんかな?」
魔法を使って調理するから、各工程にかかる時間がものすごく短いし、調理器具を殆ど使ってないから洗い物も少ない、魔法様様だね。
でも食の充実化はこれぐらいにして、装備の見直しや強化もしないとね。
時間は、まだお昼を過ぎたぐらいだけど、今から出かけるのもな〜ってなるよね。
一旦、家と定めてる建物に帰ってきたら、また出掛けるって気が起きないよね。
装備関係はまら明日で良いや。