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16話『貴族社会の理不尽』

今日は朝から図書館に籠っている。

いつもの倉庫を追い出されたから。

でも、今日に限っては有難い。

ドロドロした感情の処理が出来ないから。


2日前の夜、ミレイユ先輩のパーティーが帰還した。

そこには、ミレイユ先輩の姿は無かった。

昨日、朝から学園騎士隊が捜索に出発した。


比較的浅い階層で先輩は発見され、3の鐘がなる頃には治癒科棟に運ばれた。


学園の迷宮は11階層しか無い。

それは、騎士隊が定期的に産み出された魔物を狩り、迷宮核には防衛機能に力を消費させ、迷宮核自体が力を取り込み、深度を増したり危険な魔物や罠が作られぬように調整しているからだ。


騎士隊とは言うが、実態は学園から依頼された冒険者である。

本当の騎士団と違い、不真面目な奴らもいる。

あまり実入りの良い仕事では無いこともあり、手を抜いていたのだろう。


それが災いした・・・

危険な罠を排除出来ていなかったのだ。


先輩のパーティー構成は、公爵家長男の魔剣士、伯爵家次男の重盾士、子爵家長男の治癒士、そして侯爵家長女の炎魔術士であるミレイユ先輩の4人パーティーだ。


魔剣士が公爵家の権力を振りかざし、方針は全て決定していたようだ。


盗賊系や狩人系の斥候職を連れていないのは、平民に多い職(貴族には騎士系,魔術士系や商人系が多い)と言う印象で低く見られて弾かれたのだと推測出来る。

貴族故の傲慢さのために命を危険に晒すが変わることは無いだろう。公爵家のプライド故に・・・

罠を食い破れる強者か、斥候職顔負けの知識と経験を持っているなら違っただろう。


だから転移罠に掛かり、魔物待機部屋へと転送された。


途切れること無く襲い掛かる魔物の群れ。

いくら(B)級職で組まれた成績上位パーティーとて、消耗と疲労に勝てない。

消耗品も全て使いきり、ボロボロになりながらも罠をはね除けたが、先へ進むことは不可能と判断し、帰還することにした。


その決定は最適解だろう。

あと1階層下に降りれば踏破となるが、守護魔物(ガーディアン)と戦うには消耗し過ぎたから。


3階層まで戻り、消耗したとは言え、現れる魔物は緑小鬼(ゴブリン)程度となった時、疲労と安堵から生存欲求が爆発したのだろう。


先輩は・・・


襲われた・・・


パーティーメンバーに・・・


丸一昼夜・・・


彼らは欲求が満足し我に返った。

そして傍らで意識を失った先輩を見て、三人は逃げるように走り去ったようだ。


先輩は朦朧としていたようだが、意識はあったらしい。

その後、一人取り残された先輩を緑小鬼(ゴブリン)が見つけ・・・


凌辱された。


発見された時は、緑小鬼(ゴブリン)は居らずローブをボロボロにされ、右手首の先からは無く、左脚は脛の半ばから切り落とされ、左の乳房も抉られていた。

不幸中の幸いは、魔物の子を孕まなかったことだろう。


昨晩、私は先輩と面会した。

面会謝絶と聞いてはいたが、私には会ってくれた。

その時に教えてくれたのだ。

いつも妖艶でありながら暖かい先輩が、沈鬱な表情でポツポツと語ってくれた。


犯されたことは、公けに出来ないと。

相手は公爵家の長男とその取り巻きだから・・・


先輩の家は侯爵家とは言え、歴史のある家では無い。

商才があり、資金力で成り上がったのだそうだ。

歴史だけしか取り柄の無い家に嫌われているらしい。

パーティー内でも、人の目に付かない処では従者のような扱いであったらしい。


だから、訴えても味方をしてくれる家が少なく裁判で負けるのだと。


涙をこぼしていた。


貴族社会も職業差別と同じく理不尽だ。


翌朝、件の公爵家長男が周囲に語った虚言を聴いた。

内容はこうだ。

・消耗した状態で緑小鬼(ゴブリン)の群れに遭遇した。

・退路を切り開くので精一杯であり、救出は出来なかった。

・彼女も自分のことは良いから逃げろと言った。

と・・・


(はらわた)が煮えくり返ると言う経験を初めてした。


だがそれよりも、先ずは先輩を治療したかった。

侯爵家の当主、先輩の父親から治癒科と練魔科に治療要請が入った。

金に糸目は付けないとの言葉と共に。


練魔科では、侯爵家への恩を売り付けるため、倉庫に籠り回復薬を作っている。


そして、今に至る。


私は別のアプローチを検討している。

回復薬では、たとえ上級回復薬の品質Sでも欠損は治らない。

直せるのは、職業:聖女の回復魔法か、品質B以上の万能回復薬(エリクサー)だ。

王宮筆頭錬金術師級の腕が必要なのに、あの教諭が作れる訳が無い。もちろん今の私にも作れない。


さらに、侯爵家から指定されているのは品質A以上だ。

少しでも傷無くそうと娘を思う親の気持ちなのだろう。使用するのは女性なのだから。


聖女派遣は教会が出し渋るだろう。

王家ならば要請を受けるだろうが、一貴族の要請では動かない。

聖女自身は慈悲深い性格と噂だが、要請があったことさえも聖女の耳に入らないように情報統制しているだろう。


腐っている。どこの世界も欲にまみれた生臭坊主はいるものだ。


神は余程のこと(例えば世界が滅びかける)とか無い限り手は出せないと言っていた。


何にせよ、期限は3ヶ月だ。


3ヶ月が経つと欠損状態が正常であると、身体が認識する。

そうなると元には戻せない。

とは言え、3ヶ月で私が万能回復薬(エリクサー)を作れるようになるとは思えない。

今は他の方法を探している。


この図書館は蔵書が多く、先の書物のように読めないからと、禁書級の書物が多数ある。

これを片っ端から読み漁るんだ。



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