12話『武具が揃えば(後編)』
区切りの良い所まで書いてたら、いつもよりは少し長くなりました。
それでも3000文字程度ですけど
リィ~ンゴ~~~~ン・・・・・・
昼2の鐘が背後から聞こえる。
角兎に逃げられてから1時間程が経ったぐらいだがアレ以来獲物にお目にかからない。
今いるのは『ルータム』の東門を出て東進している。都市の西は酪農、南は畑が広がり人の手が加えられているため、野生動物が少ないと思ったからだが、見渡す限り獲物の姿は見えない。
このまま進んだら夕方の閉門までに帰れそうもない。
方針転換が必要だった。
「さて、どうするか?」
現在地より北と東は草原が続く、北に進路を代えて森に向かう?いや、森までは馬車で2日かかるって聴いた。馬車でってことは人で言う早歩き程度の早さのはず、それで2日かかるんだから森に着くことはできないな。
「獲物を探しながら、北に向かって進んで回り込み北門から帰る・・・か。」
歩く事暫し、ちょうど『ルータム』から北東の位置に差し掛かった頃、北の方から何やら争う音が聞こえる。
今の位置は音がする方向からすれば風下に位置する、腰をかがめながら慎重に進む。
「ゲギャギャ!」
「グルルゥゥ」
「ガルゥ!!」
灰色の毛並みをした狼が2匹と1.5リム=1.5mの身長をした緑色で節くれだった肌をし、尖った耳と鼻の人型の物体。
そう『ゴブリン』と言う魔物が対峙し威嚇し合っている。周りには狼の死骸が4つとゴブリンの死骸が2つお互いを狩るべき獲物=食料として争っているようだ。
ゲームでは最弱の魔物としてお馴染みのゴブリンだが状況を鑑み、現実としての強さは野生の狼2匹=ゴブリン1匹のようだ。
さて、初心者としては複数との戦闘は避けたいところだ。だけど獲物に出会う事がこの後もあるのか?と思えば経験を積む上で介入が得策だが、しかし・・・
狼とゴブリンの睨み合いも、そう長い時間では無く直ぐにでも戦闘が再開されるだろう。
「やるか。」
*************
ドサッ、ドサッ。
「ゲギャ?」
今まで睨み合っていた狼2匹が、唐突に倒れこんだ事に首を傾げるゴブリン。
状況が読めていないのであろう。私としては2対1での戦闘より1対1の方が集中できる分、安全と判断し、先に錬成術で狼2匹を仕留めたにすぎない。考えてた方法が効いて良かったと思う。
しゃがみ込んだ姿勢から立ち上がり槍を構え相手の動きをよく見ながら進む。
「グギャー!」
こちらの存在に気付いたのであろう。此方を威嚇しながら駆けてきた。ゲームや漫画でのゴブリンは武器、棍棒や錆びた剣を持っていたりするけど、実際は武器を持っている方が稀なのだろう。爪を武器に引っ掻きを行おうと手を振り上げている。
ガラ空きの胴体目掛けて槍を突き出す、槍の穂先が少しの抵抗を受けるがズブリと突き刺さる。何とも言えない感触が手に伝わり顔を顰める。槍に貫かれたゴブリンは少しビクついた後、手をダラリと下ろした。
短剣に手を掛け引き抜き身構える。こと切れる瞬間に最後の足掻きで攻撃される可能性があるからだ。
残心・・・暫し観察するが動く気配は無い。
「念のためにっと」
短剣を横薙ぎに振るい首を切り落す。先程の槍の貫通力もそうだが短剣の斬れ味が凄い。
研ぎをしてくれたザカルドさんの腕が凄いのであろう。
にしても、武器を振るうのは中学生時代に、少しの間剣術道場へ通っていた時ぶりなのだけど、短剣とはいえ重い武器を片手でブレずに振るい、刃筋を立てて一閃しゴブリンの首を斬り飛ばすとは、このホムンクルスの身体もすごい。けど、何より平然と槍を突き刺し首を斬り飛ばすことができる精神が凄いよね。『胆力』先生を取得しておいて心底良かったと思うよ。普通ならパニックになってあっと言う間に殺されてるはずだし。
「さて、戦闘は問題無しとわかったけどコレどうしようか?」
周囲には狼が6匹とゴブリンが3匹の死骸。
「やっぱり解体しないとダメかな?多分『胆力』先生のお陰で解体のグロさも耐えれるだろうけど・・・」
取りあえず時間も有ることだしやってみるか!の精神で狼の解体に取りかかる。
練習も兼ねて、ゴブリンに倒された狼から解体することに。どうやらこの狼は、顔を引っ掻かれ首を噛まれた様だ。首の肉が削げているから動脈も一緒に切れたのだろう、回りに血が飛び散っており、最早血ぬきは不要なようだ。
余り血濡れの場所で解体したくは無いので狼の死骸を引き摺り少し移動する。
マジックバッグから麻紐、布、水をはった桶等々の道具を用意する。
先ずは、足首を切り落として輪切りなった所、内皮に短剣を突き刺し、内側から外側へと切り進むように刃を動かす。胴体へ向かって切り進むが牛や豚よりも脂が少ないから、刃が滑ることは少ないがそれでも何度か脂と血を拭き取りながら全ての足から胴体へと切り進めた。
次に首を落とし、同じように刃を動かし首から腹へ、そして肛門へと進む。
割いた腹から手を入れ、内臓を傷つけ無いように気を付けながら引き出す。
直腸を麻紐でキツく縛り麻紐と肛門の間を切る。膀胱も麻紐で管を縛り、切り取る。同じ要領で、胃と食道も処理し全ての内臓を掻き出した。
次は皮を剥いでいく。皮を引き上げながら短剣を滑らせて行く。短剣だと小回りが効かないから解体し難い。
「解体用ナイフも用意するんだった・・・」
そんなこんなで、皮も剥ぎ終わり肉をパーツに切り分けていく。
肉を入れるビニル袋の様な物が有れば良いのだが、勿論そんなものは無いので布にくるんで行く。
狼を解体し終わった瞬間に、頭に言葉が浮かび上がる。
『錬成術スキル『解体』が解放されました。レシピ集の解体項に『獣目』『四足獣類』『狼種』『灰色狼』が追加されました。』
「えっ?レシピって加工品の登録だけじゃなかったんだ?って言うよりも、スキルって修練して獲得するものじゃ無いのか?解放ってどう言うことだ?」
まぁ覚えたとなれば使わなければ勿体無いし、ならば早速試してみると言うことで、残りの狼の死骸へ近づく。
やり方は解らないので取り敢えず死骸に触れながら「解体」と唱えてみる。
目の前で死骸が先ほど行った解体作業の手順通りに変貌して行く。速さは2倍速くらいかな?これ以上の速度で出来るのかな?
このスキルどうやら、自分が行った動作をレシピ集に記録してその手順を自身の手を使わずに早送りして行うようだ。私自身『並列処理』のスキルがあるのだから同時に複数匹処理できるかもしれないのでやってみる。
結果は、出来た。
1回に同時解体できる数は2匹。処理速度は2倍。自身に『解析』を行った結果分かった事だ。
もっと早く気付けば検証する項目を減らすことが出来たんだが・・・まぁ解体対象に手で触れる必要が無く、手を翳すだけで良いってことは検証で知ることが出来たのだが。
後、レシピ集に登録された解体手順なども新たに知識を取得したりすれば更新され『解体』スキルに反映されるようだ。実物を解体せずとも知識だけでも登録されるようなので冒険者組合で解体の様子を見学させてもらえば解体できる種類が増えるだろう。その『解体』スキルにもレベルが有り、此方は処理速度が速くなって行くようだ。
ちなみにゴブリンは魔物特有の魔石しか取ってません。魔石は生物タイプなら心臓に付着しているのが一般的で簡単でした。ちなみにゴブリンもレシピ集に登録されてますよ『人目』『亜人類』『小鬼種』『ゴブリン』とね。一応、『人目』なんだね。なんか複雑・・・冒険者組合で、討伐証明部位とか学べば次回からは解体時に入手するでしょうね。
マジックバッグに全て収納し帰路へとついた。