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田村くんが銃を手に入れた

作者: 山野佐月

 田村くんは普通の中学生である。

 と周りの人間は思っているが、

 実際はそんなことはない。そもそも『普通の中学生』というのは本当に存在するのだろうか?

 私は最初と最後に出てきて意味深なことを言う謎の存在に過ぎないから、答えはわからないが……。

 因みにこの世の賢人は必ずこういう──────

 ───────普通の定義による。

 そんな答えが返ってくる程度には、賢い者にとっても難しく、まためんどくさい問題であるということだ。

 まあだがそんなことはどうでもよくて、

 ここで重要なのは、今回のお話の主人公である田村くんは、周りから普通だと思われているという点だ。

 学校生活を送ったことのある人間ならば、それが、そういう認識をされていることが、どれだけ彼にとって苦痛なのかは……わからないでもあるまい。

 普通とは平凡だ。

 人に自己紹介する時は普通ですとアピールをして、人から普通だねって言われたらムカつく。

 それが普通の人間だ。しかしこれは人間の普通ではない。そこを履き違えてはならない。

 そこを履き違えると、差別主義者になる。


 前置きが長くなると本編も長くしなくちゃならないという強迫観念が嫌いなのでそろそろ本題に入ろう。

 つまり何が言いたいかというと、

『平凡だなぁ』と、彼は見下されているのだ。

 彼の学園生活は決して悪いものではないが……ストレスが溜まるのである。そしてストレスというのは、

 悪魔の大好物だ。

 ほんの2日前、田村くんの住む街ではヤクザ同士の抗争があった。そしてその副産物が──────


 〈gun〉

 俺、田村。どこにでもいる普通の中学生だ。

 サッカー部に入ってるんだけど、今日の練習は白熱して帰るのが遅くなってしまった…もうあたりも暗い。

 あ、因みに、夕暮れがオレンジ色なのは、オレンジに変色してるんじゃなくて他の色が出てないだけなんだ。

 暗くなって空が青い今は関係ないことだけどな。

 …まあそれはいいとして。

 俺は家に真っ直ぐ帰っていた。

 だが…トイレに行きたくなってきた。

 バス停でバスを待ってたが、来るまであと10分あったから、近くの公園のトイレに入ることにした。

「ふいー」

 この時はまだ予想もしていなかった。

 問題が起きたのは次の瞬間だった……トイレを終え、トイレットペーパーの紙が少なくなったので、俺は隣の個室に替えがあればそれを持ってきておこうと思ったんだ。

 そしたら。

「…….…………⁉︎」

 替えのトイレットペーパーが置かれてある台に、本来こんな場所にあっちゃならないものを発見したのだ。

 黒くて恐ろしいもの。

「…拳銃…⁉︎」

 まさしく人殺しの道具であった。

 俺は動揺した。だがこの時点ではまだ事態を楽観視していたのか、俺はすぐに落ち着いた。

「い、いやいや…」

 俺はこう思った。エアガンか、モデルガンだろう。

 まさか本物のそれがここにあるはずもない。

 そして不用意なことをしてしまったのだ─────

 ─────触ってしまった。

 安心するために。

「え………………これって……え?」

 本物だった。

 詳しくなくてもわかる。銃弾が入っていたのだから。

 俺はまた動揺した。

 この後どうするべきか⁉︎

 まずは警察に通報するべきだろう……

 そしたら何も問題はない。なかったのに……

 俺はまた馬鹿なことをしてしまった。

 指紋がついたから、俺は銃刀法で捕まってしまう!

 と思ってしまった。

 そして現実逃避…バスの時間を気にするようになった。

 もうお判りだろう。

 俺は何だかんだあって、拳銃を家に持ち帰ってしまったのだ。誰にもバレないように…一番下の引き出しの奥にしまった。


 〈listen〉

 ちらつく。

 あの銃がちらつく。

 俺は朝、登校して…クラスメイト達を見渡す。

「タムタムおはー」

「おはー……」

 こいつも。こいつも。こいつも。

 誰も家の引き出しに銃を持っていない。

 そういう視点で見ると…クソっ、悪い意味で世界が変わったようで、気持ち悪い。

「あ、タムタム、ちょっといいか?」

 すると右から声がした。

 そいつは俺の友達…クラス委員長だった。

 品行方正で真面目で真っ直ぐで、賢いやつだ。

 名前は鈴木という。

「お前んちの拳銃、悪いんだけど貸してくんね…?」

「……ええ!!!!!!????」

 大声を出したのでクラスメイトの視線が俺に集まった。

 しまった。

「どしたのタムタム」

「あ、いや…ごめんなんでもない」

 クラスメイトには聴こえてなかったのか…?

「タムタムごめんな、嫌ならいいんだ」

 なんだその反応は…!

 まさか…あ、聞き間違いか…?

「ごめん俺、聞き間違えたと思うんだ。もっかい言ってくれ」

「⁇…いや、夏休みの練習の日程を変えてもらいたいんだが…今部員みんなにアンケートしてるんだ。これ」

 そう言って彼はメモを見せてきた。

 日程表。

 途轍も変哲もない。

「……」

 ちらつく。あの銃が。頭の中に……

「あータムタムー、銃がさー」

「!?」

「ど、どしたの……?」

 脳裏に焼き付いて離れない。頭がおかしくなりそうだ……このまま教室にいたら……発狂しそうだ!

 聞こえる言葉が全部怪しく聞こえる!

「ご、ごめん……俺ちょっと調子悪りぃみたいだ……」

「マジぃ?保健室行く?」

「あ、自分で行く…先生に言っといてくれ」

「オッケーオッケー」

「タムタム大丈夫!?」

「マジ?風邪だってよ!」

「……」

 クラスが騒がしくなった……

 風邪なんかじゃない。あれは……俺を、クラスメイトを疑ってしまうように変えた。

 悪魔だ。


 〈have〉翌日の朝。

 俺は早朝のランニングを日課にしている…だからそのついでに、拳銃は川に捨てよう、と決意した。

 ああ、そういえば最近、プラスチックごみが問題になっているらしい。川から海に…海から魚たちにプラスチックが渡っていって、最終的に毒を持って人間に帰ってくるらしい。

 まあ、金属はプラスチックじゃないから、関係ない話だけど……

 俺は丁重に指紋を拭き取って、何重にも隠して河川敷まで来た。とは言っても、ここは橋の上だ。

 この辺りは監視カメラがない。

 人通りも少ない…格好の場所だ。

 だがまあわからない、実はお天気カメラでも回っているかもしれないから、俺はスマートフォンを落とした演技をすることにした。

「……」

 つばを飲み込む。

 さあ、捨てよう……と、うっかり落とすような素振りをしようとする……

 が。何故だ……落ちない。

「…………」

 落ちない。

 まさか…俺はこれを捨てるのを、勿体ないと思っているのか…?あんな嫌な気分にさせたこれを……?

「………………」

 これは殺人の武器だ。

 それが目的で作られた…これを使うということは、どんな理由があれ人に殺意を向けるということだ。

 殺意を向けて…『殺せる』ということだ。

 捨てなければ…俺は実質的に、人殺しの権利を持つことを了解したということになる。

 いや……でも……

「……………………………………待てよ」

 警察官は拳銃を持っているよな。

 それに、人に殺されそうになったら、正当防衛になるし……それに、殺人の武器でも、使わなければただの鉄くず…持つことに罪があるわけじゃない。

「…………」

「……」

「…」

 持つだけなら……

 ……

 例えばいつか、エイリアンが…もしくはゾンビが……いや、強盗が、そうだ…お母さんとかお父さんを襲うかもしれない。

 ……これがあれば、命を守れるんだ。

 そうだ。子供の俺にはその義務がある。

 それに、人殺しの武器なんてそこらじゅうにあるじゃないか…別に銃じゃなくても、包丁でも、岩でも、

 なんなら重力でだって、人は殺せるんだ。

 銃だけが特別じゃない。

 凶器は使わなければ……ただの物質。

 そうだ。

 そうだ。

 きっとそうだ……これは両親のためなんだ。


 〈suicide〉俺は銃を捨てなかった。

 それから半年…俺は普通に学校に通うことが出来ていた。幻聴も幻覚もなく。

 ……だがしかし、学校では、大変な事が起きていた。

「う、うぅ……」

「なんで……なんでこんなことに……!」

「……w」

 鈴木が死んだ。俺の銃は関係ない。

 自殺だ……俺たちは遺書には、両親の虐待と学校のいじめに耐えられなくなったと書いていたらしい。

 噂に聞いただけで、それが本当かは知らないが……だがしかし、思い当たる節がないでもない。

 あいつは時々、サッカーをしている時に動きがおかしい時があった。

 転んで怪我をした…と、毎回言っていた……しかし、あれは本当だったんだろうか。

 あれは、虐待だったんじゃないか。

 それだけじゃない。

 あいつは真面目だから…どうしても周りから舐められていた。だけどそれはいじめとかそういうものじゃなかったように感じていた……でも、

 裏でいじめられていたんじゃないのか?

 俺は怒りで頭がおかしくなりそうだった。

 そしてまたちらついてくる……あれが。

 だが。

「……」

 不思議と、俺はこの時落ち着く事ができた。

 鈴木が止めてくれたのかもしれない。

 だがこの事件で俺は思い知った。

 もっとも手軽な凶器は、言葉なのだ。

 虐待は家族のことだから、あまり詳しいことはわからないが、いじめ…それが本当ならば、その犯人にはとても心当たりがある。

 休み時間にいつも教室の右後ろに集まる女子グループ。あいつらだ。

 俺は激昂したが……『銃』を使わなかった。

 そして。

 さらに数ヶ月後────

 ──────その時はやってくる。


 〈time〉

 銃を手に入れてから8ヶ月が経った。

 俺の意識からはもう、それは消えつつあった。

 そもそも引き出しはあまり使わないのだ……今では、あれが本物だという確信も消え失せた。

 ひょっとしたらやっぱりモデルガンだったかもしれない……

 そういえば、『本物』というのはやはり異質で、本当の意味で真似など出来ない…らしい。

 切れ味のない刀に…モデルガン……

 それらはやはり作り物の雰囲気しか持たず、本物の、存在するだけで悪意を孕んでいるような雰囲気は出せない……らしい。

 もうほとんど忘れたことだから、関係ない…関係ないけれど。俺はそう思っていた……

 違った。

 感情……が。人間から離れるわけがなかったのだ。

 俺は田村。普通の中学生だ。ただみんなと違うのは……俺は今、いじめを受けている。

「がっ…!」

「チョーシ乗ってんじゃねぇオラァ!」

「マジウケるw」

「……!!」

 直感で理解した。鈴木はこいつらに殺されたのだ。こいつらに……すぐ隣にいた、良い子ちゃんのフリをしていたクラスメイトに。

 だが俺には、やり返す気力がもうなかった。

 俺は荒れていた。

 別に不良になったわけじゃない。

 気性が荒くなって……色んな余裕が無くなったのだ。同時にサッカーの成績も悪くなって、それが原因で親との仲も悪くなりそうになっていた。

 そして教師も……何を言っても聞いてくれなかった。自分の教室で問題が起こっていることを、なんとかして無視したいということがもうひしひしと伝わってきた。

 めんどくさそうな表紙をされるのだ。

『みんな思春期だからね…』

 俺が、あれを思い出すのには、十分な理由だった。

「〜〜!!!」

 俺は急いで家に帰り、銃を持ち出してまた急いで学校へと走り出した。

 もちろん厳重に隠して、見つからないように。

 当然あの橋も渡る。俺は思った……

 あの時は、誰も殺したくなかったから、捨てなかった。だが……捨てないでよかった。

 今、殺したい奴は山ほどいる!

 6発なんかじゃ足りない……慎重に相手を選ばなくてはならない。まずは俺と鈴木をいじめた奴らを……男子を殺してやる。

 あいつらがいなければ、女子なんて恐るるに足らない。それで……まあいい、何発使うかは決めないでおこう。

 時間もまた早かったから、

 俺は朝そうしているように走ってそのまま学校へと向かった。この道には、サッカー部の使うランニングゾーンもある……

「…!」

 魔の坂道。ここでいつも先輩に引き離されて……

「……!!!」

 そう、下り坂が来る。俺は頑張って追いつくんだけど……その後スタミナが切れて、

「…………!!!!」

 ……スピードが落ちたところで、後ろから来た鈴木と何か話したことがあったっけ……

『お前は凄いなぁ。先輩に勝とうとするなんて。俺なんか最初から諦めちゃって、駄目だよなぁ』

「…………」

 その時だった。

「あ、おい!田村!」

 声がした。男の声だった。

 俺が振り向くと、そこにいたのは……

「お前!最近部活に来ないと思ったら…どうした?こんなところで。大丈夫か?」

「……先輩……」

 この場所で、いつも遠くに見ていた先輩が、俺の後ろからやってきた。

「…先輩こそ、なんでこんな時間に…?3年生の練習時間はまだ始まってないんじゃ……」

「あはは、まあ俺才能ないからさ、人の倍はやらねえと全然付いてけないんだこれが」

「!」

「じゃ!気が向いたら来いよ!」

 先輩は……走り去っていった。俺はまたいつものように遠目に見ていた。

「……サッカー……」

 俺は何分間か考えることをやめて、後ろ姿を見てぼうっとしていた。

 最近はいじめられていて、中々部活に行けていなかったけど……そうだ、色んなものが嫌いになったけど、まだ好きなままの物があった。

 ……………………

 ………………

 …………

 ………

 ……

 …

「先輩、そろそろ引退だよな…?」

 今すぐに部活に戻らないと、一生先輩に勝てない。駄目だ。あんな…下らない奴らの為に時間を使っている暇はなかった!

「………………」

 俺は手元の銃に目をやった。

「……もう要らないな、これは」


 〈imitaion〉

 川に戻ってきた。俺は、ずっと前にするはずだった動作を行う……今度こそ本当に、おさらばだ。

 今後一生絶対に関わらないことを誓って、

 捨てる決意をする。

 いや、今は決意も要らない。

 そういえば、銃にも種類があって、中には泥水に落としてもすぐに使えるものがあるらしい。

 恐ろしいものだ……だが本当に恐ろしいのは何かな。それは一体何のための機能なのだ……

 まあなんであれ、もう銃は捨てるのだ、

 いまや関係ない話だ……

 そして。

 俺はこっそり取り出して、放り投げる用意をした。色んなことを思いながら……

 俺は、ようやく普通の中学生に戻る。

 いじめも、乗り越えてみせる。

 そして、いつまでも普通と思われているようでは駄目だ。特別に…特殊に…いい意味でそうなって、

 誰からも舐められずに、

 誰にも負けないようになろう。

 最後にもう一度銃を見た……

 ……と。この時俺は大発見をした。

「ん⁉︎」

 銃に掘られたローマ字…漢字に直すと、

『宝富』。おもちゃ会社の名前だった……

「…………偽物だったのかよ……」

 俺は川に放り投げた。

 実にくだらない話だった……どうして今まで気づかなかったんだ、恥ずかしい。

 何が……本物のオーラだ。

 ……ああ、でもあれがオモチャなら、プラスチックがあった可能性も上がるよな……

 川に捨てるべきじゃなかったかもしれない。いやそもそも不法投棄は駄目なことだけど……

 まあでも考えても仕方ないので、

 とにかく俺は家に帰ることにした。

 いや……この後部活に行こうか。どっちにしろ、俺は今までよりも前進できる気がした。

 こうして、1つの銃の物語は幕を閉じた。

 俺は一歩ずつ、前に歩き始めた。

 中学生活は、まだまだこれからだ!


 〈end〉

 結局、ただのモデルガンだったようだ。

 しかし、彼は心の中で完全なる本物の銃という認識を持っていたから、あのまま先輩に出会えずにいじめっ子の元に来たら、そして、もし銃が本物だったならどうなっていたか……それは怖いところである。


 でもまあ心配することは全くない。

 これは創作だから、いくら人が死んでも現実には何も影響しないからね。

 現実のとある国では、ほぼ毎日銃撃事件が起きて、だいたい毎年10000人以上死んでるけど、

 この作品はフィクションで、実在の人物や団体などとは関係ないから、ね。

 家の引き出しに殺人道具があるのも、

 1つの自由なんじゃない?


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