癒されたくてモフモフを願ったらわたしに獣耳が生えた、そうじゃない。
たしかに癒しがほしかった。
癒しといえばモフモフだという趣味嗜好に素直に、わたしは行動した。ここで訪れたのがペットショップなどではなく神社であったことがもうだいぶ精神を病んでいた。お稲荷さんの石像を見て毛並みの想像などしていたのだ、あれは石だバカ。
そして熱心に「モフモフモフモフモフモフ」とお祈りをした結果──
──今、わたしの頭の上には獣耳が揺れている。
「違う!!!!」
違った。びっくりするくらい違った。
まず柔らかくて可愛い動物に触れるというイメージからして違うし、一応自分の獣耳に触れるという応急処置も試してみたが、ただの己だった。癒しは他者から与えられなければならない、これだ。
夜の神社。もうペットショップなんて閉まっているだろう。
二つに一つの賭けにわたしは負けたのだ。
でもまあペットショップの方でなくてよかったかもしれない。こんな精神状態で買われたらペットが可哀想だろう。
ペットとは一つの命なのだから大切にされるべきだ、うん。
……わたしの命の扱い雑すぎない? ねえ弊社??
こんな夜の神社に誰かがやってきた。
灯りもなく暗い境内に浮かびあがるような白金の長い髪、げっヤンキー?
女子高生のようでセーラー服なんだけど、スカートが極端に短くてあられもなく着崩している。
絡まれても困るので木の影に隠れる。
ヤンキー(疑惑)さんはキョロキョロ周りを見渡すと、大木の下で背伸びをして、腕を上げる仕草をした。
なんだろう?
…………!
輪になった縄が木からぶら下がっている。
さすがにそれは見過ごせなかった。
「やめなさい!」
「……!」
階段を駆け下りてタックルするように押し倒すと、彼女の手が縄から離れた。
よかったああああ!
それからまじまじと見てしまった。白金髪がなじむ色白の肌に可愛らしい顔立ち。まん丸の緑眼はマスカラの気配もなく、ヤンキーなんてとんでもない。
柔らかそうな手足はすらりと、ズタズタに裂かれたセーラー服から覗いている。
さすがのわたしの頭も正確な判断をした、明らかにイジメからの自傷だわ……。
わんわんと泣き出した彼女、わたしはバッグに入っていたペットボトルのお茶を差し出して話を聞いた。想定通りの胸糞悪さ。
落ち着いてきた彼女はわたしの獣耳に興味を示した。
やっぱり気になる?
「いいなあ」
そ、そっかあ。ごめん興味本位で触られるのはちょっとお断り。何気に敏感ぽいし。
それから彼女はなんと神社にお参りをして「モフモフモフモフモフモフ」と唱えた。
……いいのかなあ……
そして頭の上には立派な獣耳が生えた!
「やっぱり生えるんだ。わたしのよりふわふわモフモフみたい、それは……いいなあ……」
「今、いいなあって言いましたね?」
ん?
な、なんだその狩人のようでいてすがるようなズルイ目は。
交換条件はこうだ……白金獣耳を触りたくばそちらの黒獣耳も触らせてくださいと。
可愛くて柔らかくてあたたかい他者、わたしたちが求めていたのは似ていたのかもしれないなあ。
神社の片隅でじゃれあった。癒される。
ときたまここで触れ合うことを約束した。
帰路、大木の端で狐の尻尾が揺れたことにはこのときのわたしたちは気づかなかった。