脅迫状
今日もまた個性豊かな仲間達が教室を自分色に染めあげようと騒いでいる。
「その彼らに負けないくらい尖ってるあなたは参加しないのかしら」
そんなことを言ってきたのは月夜だ。周りのクラスメイトに負けず、強情で頭も切れる女狐みたいな女の子だ。
「僕は傍観者だ。ただここで、ボーッと変わりゆく日々を眺めているだけだ」
何もしない、ただ、眺めて口を出すだけの存在。それが僕だ。
みんなと一緒にバカ騒ぎをする気力もなく、この中に入って客観的に見れる自身もない。現実を楽しむには傍観者が1番適切だろう。
「それにあなたみたいな天才は現実なんてつまらない、本の方が面白いなんて馬鹿なことを吐くものだと思っていたのだけど」
「確かに本は面白いよ。僕の知らない世界が広がっている。でも僕の知っているこの世界は、僕の予測を軽々と超えていくからな」
納得したのか、してないのか、恐らく自分でも分かっていないようだが、もう聞きたいことはないようだ。
「はーい、みんな注目!」
僕からスタスタと離れた月夜が教卓に手を付きながら叫ぶ。
「どうも学校宛てに脅迫状が届いたみたいなのよ。それでその犯人を見つけぶっ殺、失礼、ちょっと懲らしめないと文化祭がなくなってしまうの」
おい、そんな面白そうなことどうして黙ってたんだよ。さっき伝えてくれてもよかったのに。
そんなことを思ってるうちにクラスメイトが月夜の元にぞろぞろと集まってくる。
「もちろん、手伝ってくれるわよね?」
と、冷徹の笑みを浮かべる月夜さん。
「当たりまえだろ? これはもうロボットを出動させるしかねぇ案件だな」
「お前はとりあえずロボット出せばなんとかなるって思ってるだろ。ちょっと黙っとけ」
鋼の棒が空を切った気がするけどいつもの事なので置いておく。
「どんな、手紙が、届いたか、分かります、か?」
「こんな手紙ね」
と、月夜が脅迫状をいくつか取り出す。
って、ねぇ、どこでそんなもの手に入れたんだ?
しかも原本だよな。
「んあ? なんだこれ? 小説を書くな、より後意味わかんねぇぞ、ロボットしか読めねぇのタイプの手紙か?」
「んな手紙あるわけねぇだろ。横に読むんだよ。バットで殴んぞ」
「でもロボット君のおかげで縦読みで本心が書かれているタイプの手紙だってわかったわね。死ねとかばっかの単調な悪口だと思っていたわ」
これは驚いたな。まさか赤点以外取る気がないロボット君が解くとはな。
というか名前なんだっけ?
……まあ、ロボット君でいいか。
「ん、確か、文芸部は本を、売るん、ですよ、ね」
「そうよ。となると文芸部の敵か、後は」
突然月夜がこちらをちらっと見て瞬きしだす。
えっ、まって? まさかモールス信号とか?
めんどくさい事すんなよ。
えーと、
『あなたはやってないわよね』
って感じか。仕方が無いのでこちらも瞬きモールス信号で返す。
「ごめんなさい、分からないわ」
いや、分からないのかよ。じゃあ最初から使うなよ。
とは言っても返事をしない訳にはいかないので紙に小さく書いて見せる。視力はいいらしいし、見えるだろ。
「ふーん、じゃ、やっぱり文芸部を恨んでいる人か、文芸部の中で書きたくない人か、どちらかかしらね」
ありがとう平成、よろしく令和