『無双』の日々
声が鳴り響く教室で今日も学校が始まる。
僕の名前は早見 読、ただの高校生だ。別に僕がラブコメの主人公になったり、超能力を手に入れて変な組織に絡まれたりするかと言うとそんなことは一切ありえない。なにせイケメンでもなく、スポーツも好きでは無い。ただ、僕がこの日本で1番、脳のスペックが高い、という所だけ普通ではないが、日常というものを送れているので問題ないだろう。
既に大学レベルまでなら完璧にこなせる。そんな僕は本来この授業なんかにも出る必要が無い。
でも僕はここにいる。だって、こんな僕にも予測が出来ないようなことをする超人達がここにくるからだ。
僕は彼らと一緒になって、何かをする訳では無い。彼らに何かされる訳でもない。彼らには干渉しない、僕は傍観者だ。
これはそんな傍観者の僕の日常の日々だ。
「さて、来週文化祭があるのは知っているな」
と、時無先生が教卓の前で喋る。
そして喜ぶ名もなきモブ達。もしかしたら名前があったのかもしれないが、もちろん作者の方が覚えていないのでモブとして呼ぶ。
「もちろんロボット作るよなぁ?」
「ばっかじゃないの? ここがどこか分かってるの? 進学校よ、進、学、校。工具なんてゼロに等しいわよ」
「ロマンだろ?」
「文化祭にロマンを求めないで!」
とまあ、さっそく巨大ロボットを作って世界を救うなんて馬鹿が出る。それを律儀に黒板に書く先生は先生でどうかしてる思うが、だからこそ面白い。現実は多くの人間の思想が交差する。1人の文才では再現できないのも仕方ない。本は本で天才共の狂った価値観がわかるので大好きではあるが現実もそれと同じくらい面白い。
本好きな子も、1度は現実に目を向けた方がいいと思う。
「確か再来先生が、文化祭で小説を売るとか言ってたのでこっちも対抗して何か売りませんか?」
おお、まともな意見が出た。
でも悲しいかな、何かを明らかにしないとこのクラスでは戦争が起きるのだよ。
「ならロボットだな」
「小学生は黙っていやがれ!」
野球部がロボット少年を金属バットでフルスイングする。
綺麗に後頭部を撃つ。当たり前ながら鈍い音を立てて吹っ飛ぶ。
普通の人間なら即死していてもおかしくない。
「いってぇな。何すんだよ」
「ロボット以外の意見を出せたら謝ってやるよ」
どうやら彼はギャグ漫画の主人公らしい。一コマ分の時間があれば全快する能力を持っているみたいだ。
ただ、頭にはロボットしか住み着いてないらしくロボット以外の意見が思いつかない。
ついには頭から煙を出して黙ってしまう。
「あの、お化け屋敷とかは、どうですか?」
お、またしても普通の意見が
「この教室、すごく、霊、や怪異が、取り憑いて、いるのでいいと思うんです」
前言撤回。そういえば霊感持ってる子もいた気がする。
しかし毎日の大半を過ごし、飯まで食ってる部屋に幽霊なんてものがいるのは少しゾッとするものだ。まあ、あいにく僕にそんな感情はないが。
幽霊なんて非科学的なものだよ、っと普通の天才なら言いのけて科学的に証明してくれるだろうが、彼女の守護霊がいつも様々なことをやってくれているので、幽霊などいないと証明するには彼女が念動力者だと証明しなくてはいけない。
「幽霊に驚いてショック死とかあるそうだから、幽霊さんに一言言わないといけないけど、面白そうね」
もちろんこれも書き込まれる。
だが心配することは無い。今黒板の中には常識では考えられないような催し物が並んでいるが、結論はいつも
「では、1番多かったカフェに決定します!」
とても普通で平凡なものに落ち着く。
僕と一緒にこれを見ている君たちはこんな個性豊かなクラスでカフェをやることに疑問を抱くのだろうか。
だが現実として個性豊かな彼らもわかっているのだ。
非日常なんて面白くもなんともない。みんなと一緒に遊ぶ日常こそがもっとも楽しいのだと。
日常を心の底から楽しみ、日々を幸せに生きている彼らは、自分たちがどれほど素晴らしいことをしているかなんて知らないのだろう。
偽りの非日常を綴った紙の束よりも遥かに予測不能なものが日常にはあるのだ。
「おい、早見。さっきから本を開いて黙ってるけど楽しめてるのか?」
形だけ開いていた本に一瞬だけ目を落とす。そこに書かれているのは勇者が魔王を倒し、姫を助ける物語。だが顔を上げれば30人以上の思想を持った仲間達がお互いに干渉し合って歪で真っ直ぐな物語を作っている。
無双なんかよりもよっぽど楽しい夢想の物語がすぐ目の前にある。
ああ、もちろん。楽しんでるよ。
(リーフィンさんが傍観者だっていうとこ書いてるけど無気力少年も傍観者っぽいね。書いてみようかな)
私「GWコラボします! というか無気力少年の無双の日常書きたくなった」
先輩「じゃあ俺魔王勇者の日常の旅書くぞ」
という本当の思いつきで出来上がりました。
楽しいですね。