弱くて続きから
やっちゃった。
「……ん、ふぁーあ。……ここどこだ?」
寝て起きたら全く知らない場所に居た。
窓一つないくらい部屋だ。
俺は立ち上がり辺りを見回そうとする。
「おっとっと、なんだ?酔ってはいない筈だけど……え?」
立ち上がる際に、大きくふらつき転びそうになる。
足に違和感を感じ下を見てみると、そこには本来あってはならない物が存在した。
「……おっぱいだ」
触っても取れる気配はない。
感覚もある。
正真正銘のおっぱいだ。
「あんまり大きくないな。……あぁ、背が縮んでるのか。違和感の正体はこれか」
先ほど転びかけた事に納得する。
……んなわけあるか。
「なんじゃこりゃぁああああああ!!!!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
落ち着きを取り戻した頃。
「とりあえず、この見覚えのない部屋を出るか」
扉はある。
ノブをまわしてみると、普通に開いた。
「また部屋だ。……何かあった形跡はあるけど、何もないな」
床に少し埃が付いている所を見るに、数日前の時点で物は全て無くなっていると見ていいだろう。
「そういや寝る前は何してたっけ……う~ん、思い出せん。一旦記憶の整理をしてみるか」
俺の名前はユリウス、住所不定無職の自称剣士だ。
数年前から剣聖などと呼ばれてしまっていたが、正直俺は好きじゃない。
まぁあの称号のお陰で俺に勝負を挑んでくるアホが増えたから言い金稼ぎになって助かっていたけども。
普段は魔物を倒してそれをオークションに入れて生活費を得ている。
「あっ、荷物……あるわけないか」
悲報、全財産消失。
俺の金は銀行ギルドと言う組織に預けていたため、それの登録カードが無ければ俺は金を引き落とせない。
「んー、お金もない、武器もない、眠る前の記憶もない。……ここで考えてもしょうがないな。さっさと出口を探そう」
何もない部屋を通り、更に奥にある扉を開ける。
ガチャッ……
「……ん?」
ガチャガチャ……ガチャガチャガチャッ!!!!
「あ、開かねぇ……」
鍵がかかっているかと思いきや、鍵穴がそもそもない。
「ていうかこっちが内側だから、こっちが閉める側じゃないのか?いや、閉じ込める為の部屋だとしたら関係ないか」
どうあがいてもこちらから扉を開ける術はない。
……訳でもない。
「俺は剣士だ。だが、剣が無ければ戦えない訳じゃないぞ」
体に魔力を巡らせる。
身体に慣らす様に、少しずつ、魔力を多くそして早く巡らせていく。
「ふんッ!!」
狙いを澄まし、拳を扉に叩き込む。
ドゴォッ
「…………」
扉に穴が開いた。
しかし、その先にあったのは……分厚い金属の板だった。
拳の形に凹んでいる。
「痛ッつぅー…………」
拳を見ると、皮膚は赤く腫れ、少し出血している。
「あう……なんか変な声が出た」
少し涙ぐんでいる気がする。
おかしい、いつもならこの程度で泣く事なんてないのに。
というか、この程度の鉄板だったら殴れば吹き飛ぶのに……
「あぁ……身体の運動能力が落ちてるからか」
しかし、参ったな。
「俺、自力でここから出られないのかな……」
身体から力が抜けて膝から崩れ落ちる。
俺はペタリと床に座り込んだ。
とてつもなく心細く感じる。
心の奥からよくわからない感情がこみあげてくる。
それと同時に涙が落ちそうになる。
「変だなぁ……一人なんて慣れてる筈なのに……身体が変わっただけでこんなになるかなぁ……?」
何が剣聖だ、情けない。
今の俺には、感情の制御すら出来ない。
「誰か、助けてくれないかなぁ」
ガリッ!
「……ん?」
扉の方から音がした。
先ほど殴った木の板で塞がれていた鉄扉だ。
パラパラと欠片やら埃やらが床に落ちていく。
ドコ、ガリッ、バキッ……ガリガリガリッ!!
鉄の扉が奥の方へと引っ張られていく。
そして……
ドゴォォオオン。
鉄の扉が倒れた。
「隊長!木の板で塞がれてます!」
「さっさと壊せ!慎重にな!」
「「「「了解!!」」」」
複数人の男の声が聞こえる。
そして木の板が外された。
「……街の衛兵?」
「え?」
「なんだ、どうし……女の子?」
見られてる、扉の所からめっちゃ見られてる。
「君、ここの部屋に他に人はいるかい?」
「え?居ないけど……」
「そうか……」
「あの、それじゃあさっきいきなり扉に浮き出てきた拳の跡って……」
み、見られてたぁッ!!
がっつり反対側に居たぁ!!
「ちょっといいか?この扉を殴ったりしたか?」
隊長と呼ばれた人がそう聞いてきた。
「あ、えっと、き、気づいたらここに閉じ込められてて、何もないし、扉開かないしで……むしゃくしゃしてやった」
言っちゃたああ!!正直に言っちゃったああ!!
「そ、そうか」
めっちゃドン引きしてるぅううう!!!!
ヤバい、この状況、どうやったら切り抜けられるッ!?
「えぇっと、気づいたらここに居たんだな?」
「は、はい」
「……えぇ、被害者一名救助ってことで」
「あ、はい。名簿に入れときます」
「俺はこの子を保護……あぁうん、保護するからお前らは引き続きここの捜索をよろしく。指揮権はジーメオンに引き継ぐ」
「「「「了解!」」」」
めっちゃ微妙そうな感じで保護されたぁああ!!!!
もう胃が痛いよ。
「嬢ちゃん歩けるか?」
「えっと、ちょっと今身体に力が……」
「はぁ……そうか。悪いが、失礼するぞ。よっと」
「え?わわわわッ」
え?これもしかしてもしかしなくてもお姫様抱っこだよな?
マジで!?このまま連れていかれるの!?
「すまん、嫌だよな。でも今背中に剣背負ってるから、おぶったり出来ないんだ。諦めてくれ」
「年上のお姉さんが良かった」
「……年上のお姉さんじゃ無くて悪かったな」
「ホントだよ」
「叩き落とすぞ」
あ~もうどうにでもな~れ~☆
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ほれ、スープだ。ゆっくり食べろよ。全く、何日も食ってないんならそう言えよな」
「知らんもん。何時寝たのかも覚えてないし、いつからあそこにいるのかも覚えてない」
現在、俺は衛兵の詰め所に居る。
詰め所に運ばれた後、直ぐに治癒しに診察され、手の怪我を治してもらい、何日も食事をとっていない事が発覚した。
「はぁ、変な嬢ちゃんだな。名前は?」
「ユリウス」
「男みたいな名前だな?」
「悪かったな」
「悪かねぇよ。似合ってんじゃねぇか?」
「そんな事より、ナイフとか無い?」
「ナイフ?何に使うんだよ?」
「髪が長くて邪魔なんだよ。斬る」
「はっ!?ちょっ、待ってろ!なんか丁度いい紐でも持ってくっから!」
「えぇ、いいよ」
「お前自分の事鏡で見た事ないのか!?絶対後悔するからやめとけって!いいから待ってろ!」
隊長は部屋を飛び出していった。
「……後悔するってどういう意味だ?」
後で鏡で確認してみるか。
ちょっとしたら隊長が戻ってきた。
「ほら、持ってきたぞ。後ろ向け」
「ん」
「全く、良かったな。ここに女の隊員が居てよ。髪を結うための紐くれるってさ。ほれ、出来たぞ。後ろで纏めちまったけど、良かっただろ?」
「おぉ、邪魔じゃない。おっさん手際いいね」
「娘が居るからな。あとおっさんじゃない。俺はまだ二十代だ」
なんだろう、老けている訳ではないが、こう、おっさんくさいと言うか。
「そういや、この街に住んでる剣聖様もユリウスって名前だったな」
「ユリウスなんてよくいるだろ」
「確かにな。それに、剣聖様が有名になってから一気に増えたみたいだぜ?」
「いい迷惑だな。真似したって剣聖になれる訳じゃないのに」
「冷めた奴だな?……そいうやよ、知ってるか?」
「何が?」
「いなくなったんだよ。剣聖様がな。行方不明らしい」
「へぇ」
これはいい事を聞いた。
「何時から?」
「丁度一週間前だ。街を出た形跡が無くてな。何かあったんじゃないかって噂だ」
「ふーん、もういないかもな」
「街に?」
「この世に」
「なんてこと言いやがる。ま、剣聖と言っても人間だしな。死んでもおかしくねぇか」
「そうそう、人間だもの。何があるか分からんよ」
こんな風にな。
「……なぁおっさん」
「おっさんじゃない。ハワードだ」
「じゃあ、ハワード」
「いきなり呼び捨てか」
「衛兵だし、剣は使えるだろ?」
「ん?あぁ、これでも隊長だしな。そこそこ使えると思うぞ」
「ふふ、そうかそうか」
俺は今無一文、持ち物は着てる服だけ。
こんな時どうするか。
「なぁ、賭けをしないか?」
「賭けだと?」
「そう。勝負内容は、剣だ。そうだな……こっちが負けたら全てを上げよう」
「全てってなんだよ」
「文字通り全てだ。俺をくれてやる。今はかけられるものがこれ位しかないからな。で、こっちが勝ったら一週間生活にかかる金を負担してくれ」
「おいおいおい、賭ける物が釣り合ってねーし、そもそも賭けにならねぇだろ?」
「何故?まさか俺が一方的に負けると?逆だ。負けるのはそっちだ。何ならこっちは素手でもいいぞ?」
「……言ったな?」
掛かったッ!
「もちろん、今更なしとは言わないさ」
「だがちゃんと剣で勝負しろ。これは剣の勝負だからな」
「紳士だねぇ」
「余裕だな?」
「余裕だからな」
「衛兵をなめたら後悔するぞ」
「俺は相手を侮らない主義なんだ。初めから本気で行くよ?勝負は一瞬だ」
「あぁ、俺の勝ちだ」
「フフフ」
「ハハハ」
いやぁ、ホント、これだけはやめられないよなぁ。
剣聖ユリウス
人類最強格と言われるミスリルランクの冒険者にも勝利経験あり。
子供の頃から地元では有名であり、『剣の遊び人』と呼ばれていた。
兵士冒険者問わず賭けを仕掛け、必ず勝利を収める。
勝負事が大好き。
ミスリル冒険者のシドと仲が良い。
シドもまた、勝負好きの剣士である。