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兄妹と姉弟の姉妹交換  作者: 明日key
プロローグ
1/22

プロローグ 姉妹交換生活を始めました


   ◆


 俺、小岬熱彦こみさき あつひこには、ひとつ思うところがある。

 姉ちゃんが欲しい。

 とかく生まれる順番、そして男女どちらに生まれたかについて聞くなら、兄として生まれた人間は「姉ちゃんが欲しかった」と嘆くことが多い。これは批判の有無などどうでもいい、圧倒的に多い答えだ。アンケートでYESの答えが占めるほどだ。賭けていい。

 え、一人っ子として生まれた男はどうなのかって? 姉妹に挟まれ二番目に生まれた男だったらどうなのかって? そんなこと知るか。

 ともあれそれが世の常。

 かくいう俺もその一人。運命の悪戯で兄として生まれ、姉が欲しいと懇願した。

 一日、俺は彼女と出会った。

 初夏の公園。

 亜麻色の長い髪をした彼女の残り香がかすめて、少し右手を伸ばせば届く距離で、彼女が俺の隣を軽い足取りで通り抜ける。

 そんな美人の容姿から、大人の女性であることはわかった。

 もし、あの人が俺の姉ちゃんだったら……。

「お兄ちゃん! なに鼻の下を伸ばしてるの!」

 突然、左の頬を思い切りつねられた。文句を垂れるのは妹の糸月いとつき

 下から俺を見上げているクセに、チョー上から目線だ。

「うるせえよ」

 ボーイッシュなショートカットで、こざっぱりして、男に間違えられそうな顔で。ことあるごとに俺に対し反抗を重ねる奴だ。

 少しは兄に対して尊敬の念は持って欲しい。

 妹の尻拭いを、いつも俺がやってるんだからな。たとえば……。

 キャッチボールに付き合わされたときも、お隣さんのガラスをぶち割って、こいつ逃げやがった。

 自分のケツくらい自分で拭けよ妹よ。そう思いながら振り返る。落ち着いた風景の中、容姿端麗な女性が離れていく。

 グーパンチを腹に食らう。

「お兄ちゃんの好みはだいたいわかった」

 妹がにやにやと笑う。


   ◆


 僕は、浅木未来治あさぎ みきはる

 弟に生まれ、姉貴、織鶴おりづる姉ぇがいる。僕に一挙手一投足を指摘してくるんだ。

 姉の近くにいるときは、僕は父親といるとき以上にぴりぴりしている。

 父親の車をホースの水で洗う。ボンネットに水を当てる。

 朝の六時に父親の車を洗う家庭なんてうちぐらいだ。

 この早朝、誰も起きているわけが……。

 と思っていた矢先、道の向こうから駆け足の靴音が聞こえてくる。

 僕の家は坂道を上ったところにある。女の子の頭が坂道の地平から出てきた。

 小さな容姿で、息を弾ませてのジョギング。

「おはようございます!」

 心が躍り、僕は「おはよっ」と笑顔を返す。

 手を振りながら僕は、彼女の後ろ姿をいつまでも見送った。

 その不意を突いて、軽いげんこつが降ってきた。

「いてっ」

 振り向くと、姉貴がいた。

「よそ見するな!」

 気づけば、アスファルトの路面を水浸しにしていた。

「はいはい、わかってるよ。姉貴」

「はい、は一回で十分!」

 二度も小突かれた……。

 この姉がいなければ、どれだけ僕は生活しやすいか。


   ◆ 


 ――あの人が、俺の姉ちゃんだったらどれだけいいことか。

 ――あの子が、僕の妹だったらどれほどいいだろう。


   ◆


 スマホのアラームが鳴らないうちに、一階から駆け上がる音で目を覚ます。バタンとドアが開かれ、布団を剥ぎ取られた。

「なんだよ、糸月。夏休みなんだから、もう少し寝かせろよ!」

 目をこすって不満をぶちまけようとするが、顔を見て糸月ではないことに気づく。

「織鶴さ……いや、姉ちゃん……」

「朝だぞ、熱彦あつひこ

「おはようございます」


   ◆


「いってきます!」

 僕はバッと布団から這い出た。慌てて時刻を見ると、目覚まし時計は五時三〇分ちょうど。

 姉貴に一発殴られるかと思いきや、部屋の傍らにいたのは細身ながらも元気いっぱいな、あの子。

「糸月ちゃん」

未来治みきはるお兄ちゃんはゆっくりしてていいよ。あたしは早朝のジョギングだから、ついでに挨拶しただけ」

「おはよう」

 寝ぼけ眼でようやく思い出す。夢にまで見た生活がついこのあいだ始まったのだ。


   ◆


 ――僕の姉貴の織鶴。

 ――俺の妹の糸月。

 ――糸月ちゃんは僕の妹に。

 ――織鶴さんは俺の姉ちゃんになった。

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