表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒の聖騎士  作者: 鷹峰
一、辺境の勇者
9/39

一、辺境の勇者(9-10)

 木々の間から差していた木漏れ陽は既になく、淡い藍の色が覗くのみ。

 からからと愉しげに笑っていたジャスティンは、思い出したようにぽつりと呟いた。

「ところで、急がないと拙いんじゃなかったの?」

「いやお前が言うなよ」

 突っ込みを入れるロウの隣で、目陰を差し砦を見据えるラグナ。

「そうだな、娘さんたちに何かあっても大変だ」

 危惧する言葉。続いたものはブラックとラッドの首肯だった。

「ええ。……まぁ、そうそうおかしなマネはしないと思いますが」

「そうやろな。無傷で連れ帰ったっちゅーことは、商品にでもするつもりなんやろし」

 ――『商品』。

「ンだとっ!!?」

 がっ!!

 色を生し、ラッドに掴みかかろうとするロウ。

 しかし、その手は虚空を掴んだ。

「わあ待て待て待たんかいッ!!俺にキレてもしゃあないやろ!」

「待ってくれ、ロウさん。彼の言うことも一理あるんだ。

 俺は、そういう目に遭っている村を幾つも見てきた」

 諌めようと近寄るラグナだったが、結果としてますます火に油を注いでしまう。

「『見てきた』だぁ?

 てめぇは――それを見過ごしてきたのかッッ!?」

「ロウ!やめるんだ!!」

 ラグナの胸倉を両手で掴み、激昂するロウ。

 顔を覆い蒼ざめるジャスティンから遮るようにして、ブラックはつかつかと進み、青年たちを引き剥がす。

「しゃあないやろ。ひとりの人間がどうこう出来る話やない。

 それに、兄さん独りで殴りこんだかて犬死にがオチや」

 本来、この人数であの砦を攻め落とすのやって無茶な話や――と、

「そう……でしょうね」

 僅か、俯く盲目の青年。しかし、直ぐさま顔を上げればこう続ける。

「それでも――僅かでも、可能性があるなら。

 僕は、そこに賭けてみたい」

 静寂は、ほんの一瞬。

 それから。

 ふたつみっつ、やや遅れてもうひとつ。それに頷くものがあった。

 ……判っていても、やるせないものがある。

 しかし、だからこそ――彼等はここへ集った。それも紛れもない事実なのだ。

 面白くなさそうに地面を蹴るロウをちらとだけ見遣り、ブラックは説明を再開する。

「先程も話しましたが、砦に入ってからは二手に分かれます」

「ああ、そうだったな」

 先を促すように、ラグナの相槌が入る。

「ロウとジャスティンさんは、娘さんたちを助けに牢へ向かってください。

 場所は……ロウ、判るかい?」

「あー……ガキだったし、入ったっても建造途中だったからなぁ……」

 渋い顔で考え込むロウ。その後ろ、声は意外な場所から飛んだ。

「正面の門から一番奥の階段で地下に入ったら、牢屋に行けると思うで」

「!?」

 驚きに満ちた顔が振り向く。光を点さないはずの瞳は、しかし相手をしっかりと見ているようで。

「このテの砦は、よう取引しとったさかいな」

「取引した、って……もし違ったらどうすんだよ?」

「いや。囚人に逃げられないよう出入口から遠い場所を使うのは、理に適っている」

 思案顔で、ブラックは顎に手を宛てる。

「そうか!裏手が湖なら余計に逃げ場はないし、牢屋へと通じる道としては最適なのか」

「そういうことになりますね」

 ぽむ、とラグナが手を打つ。設計者が聡明な人物とあれば、なおのこと合理的な建造をされているに違いないだろう。

「じゃあ、アタシたちは真っ直ぐ奥に進んでいけばいいの?」

「ええ。なるべく僕たちが敵の注意を引きつけますから、構わず牢へ直行してください」

 任せて頂戴――と、朱を差した唇を上げるジャスティン。

「しくじんじゃねぇぞ!」

「こちらの台詞だよ。

 敵の将を討ち、迎えに行くまで。――何とか持ち堪えてくれ」

「持ち堪えるってことは……籠城?」

「ええ。戦場に不慣れな娘さんたちを連れ歩くより、狭い通路に陣取って戦った方が――」

「地の利がない砦内で、拘束されているかもしれない人質と動き回れば、俺たちも彼女たちも危険に晒されることになる――うん、見事な作戦だ。

 俺は君やラッドさんと一緒に、敵将を捜せばいいんだね?」

 一歩進み出て、剣の柄に指をかけるラグナ。一同をぐるり見回し、こう最後に添えた。

「――剣聖ヴァユの加護が、我らにあるように」

 聳え立つ城砦を、若者たちは挑むようにして睨め上げる。

 刃物にも似た玲瓏な月灯りが――その所業を暴くよう、建物を照らし出していた。


 さく、と。靴が古枝を踏む乾いた音を立てる。

 宵闇の色彩へ染まっていく辺りを見上げ、ロウはその三白眼を細めた。

「今日は、月も細い。案外巧くいくかも知れねぇな」

 楽観的な彼の様子に、馬を撫でながら釘を刺すラグナ。

「だが、油断は禁物だ。

 ブラックさんがさっき言ったように、俺たちは斜走しながら砦に向かおう」

「ああ、わーってるよ」

 ブラックは嘶く馬たちを落ち付かせるよう、優しく首に触れ、

 ばさり。

 その背に騎乗する。

「彼等は今頃、束の間の勝利に酔いしれているだろう」

「絶好のチャンスってやつだな」

 に、と口の端に笑み。まるで立入禁止区域に忍び込む幼い悪戯小僧の面差しで、ロウは手綱を引いた。

 先程より一段、重い蹄の音。

 ふたつみっつと重なりゆくそれは、勇壮な行軍曲マーチにも似て。

 徐々に加速する旋律は、

「さあ。――行くとしよう」

 ラグナの言葉を合図として、一斉に駆け抜けた。

 ――僻地ではじまりを告げた、ちいさな行軍曲。

 それがやがて何を巻き込み、どんなオーケストラを奏で、何処まで響き渡ることになるのか。

 未だ誰も、知るものはないけれど――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓ランキング参加中 気に入ったらぽちっとお願いします
アルファポリス(週1回)
NEWVEL
長編小説検索Wandering Network

ブログもだらだら更新中!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ