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漆黒の聖騎士  作者: 鷹峰
三、紅蘭の舞姫
21/39

三、紅蘭の舞姫(22)

 ――『僕』は、夢を見ていた。

 毎晩、暗闇に閉ざされた世界にそれは繰り返される。


 ――「何をしているんだ?」

 ――「そうだよ!こんな所で立ち止まって、……らしくないなぁ」


 途切れ途切れに届くのは、『僕』を呼ぶふたつの声。

 声の主に、心当たりはなかった。

 それでも。

 その声はどうしようもないくらい懐かしく、そして心地好く、僕の心へ染み込んでいく。

 まるで息を吸うように、

 当たり前で、しかし、なくてはならないもののように、

 『僕』は、その声を受け容れる。


 ――「早く早くー!おいてっちゃうよっ」

 ――「ほら。……いくよ」


 手を、差し伸べられたような気がした。

 僕は知らず、その相手へと手を伸ばし――


 そこで。

 いつもなら、夢から現へと引き戻される。

 しかし今日だけは違った。

 その夢には、続きがあった。


 ――「……っ……ひっく……ひく……ッ」


 暗闇に支配されていた世界に、

 人影らしきものが薄っすらと浮かび上がった。

 蹲っている人影は、金髪の少年。

 歳の頃なら七、八歳くらいだろうか。

 彼は、大事そうに『何か』を抱え、声を殺して泣いていた。


 ……どくん。


 鼓動が、『僕』を大きく揺さぶる。

 まるでその先に待つものを、拒絶するように。

 『僕』は息苦しさの中、拒む足を一歩ずつ少年へと運ぶ。

 軋ませていた歯が、知らずかたかたと震えだした。

 彼の傍へと辿り着き、その腕が抱きかかえていたものを見て、


 思考が、完全に凍りついた。


 ……どくん。


 全身が、それを理解することを拒んでいる。

 握り締めた手に爪が食い込み、血が滲む。

 視界にひろがるものを直視できず、『僕』は顔を逸らした。


 少年のちいさな腕が抱えていたのは、

 ――更にひとまわりちいさな、幼い少女。

 生気のない肌。力なくしな垂れた腕。

 そして……そこに伝う、赤銅色の雫。

 それは、ひとつの残酷な解答を導き出していた。


 ――「……い、」


 少年の唇が、僅かに動く。


 ――「……許さない……っ……絶対に、あいつ等を許さないッッ!!!」


 少年の口から吐き出された、憎悪の言霊。

 呼吸が、できなかった。

 『僕』は、少年へと手を伸ばし――


 夢は、

 そこで……途切れた。




「――ッ……は、はぁ……」

 気がつけば、青年は肩で息をしていた。

 身を起こしぐいと額を拭えば、じっとりと脂汗が滲む。

 なんとはなしに手を結んだり開いたりを繰り返し、それからぼんやりと天井を仰いだ。

 ――あれは、誰だったのだろう。

 そんな思考を中断したのは、とんとん、と肩を叩かれる感覚。

「……どうした?顔色が悪いぜ」

 近い距離から、やや抑えた声があった。

「ああ……ロウか。

 すまない、起こしたかな?」

 聞き慣れた声の色に、知らず安堵の息を漏らす青年――ブラック。

「ンなことより。

 随分うなされてたぜ、どうかしたのか?」

「夢を、――見たんだ」

「夢……?」

 声を更に潜めて、ロウは問い返す。

 ブラックが口を開こうとしたそのとき、

「――いたぞ、あの女だ!」

 どたどたとけたたましい騒音が、窓の外から聞こえた。



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