三、紅蘭の舞姫(20)
と、思いきや。
「待ちやがれ、オカマ野郎」
ぴたっ。
「〜〜何ですってぇぇぇぇッッ!?」
麗人はえらくあっさり立ち止まった。
血相を変えるジャスティンには構わず、ロウはずかずかと詰め寄る。そして、
「テメエ、独りで領主の居城に乗り込む気だろ」
そこにいる全員に届くはっきりした声で、そう尋ねた。
「それは……、」
「領主?どういうことだ、ロウ」
聞きとがめる親友に、それがよ、と大仰に肩を竦め。
砦で救出できず、領主のもとへ連れて行かれた娘たちが数名いること。そして、そこにジャスティンの仲間がいるかも知れないことも。ロウは一同に説明した。
「何だって……!?」
「で、だ。こいつらを無事村へ送り届けてから、仲間を助けに行くつもりだったんだろうけどよ――
生憎、そういうワケでまだ終わっちゃいねぇんだ。
……その『数名』も助け出すまではな!」
鼈甲色の三白眼が、真っ直ぐに吟遊詩人を見据える。ジャスティンは目を合わせることができず、逡巡ののち俯いて黙りこくった。
「ロウさんの言う通りだ!こんな酷い仕打ち、繰り返させる訳にはいかない。
それに――」
一段、ラグナの声が沈む。
「キャラバンの仲間を捜してたなんて……初耳だ。
そんな大事なことを、どうして今まで――」
長い時間という程ではないにせよ、道中を共にした間柄である。麗人を見遣る彼の瞳は、どこか寂しそうなものだった。
「……ゴメンなさい。でも、これはアタシの個人的な、」
「――っつーわけでよ。おばちゃん、皆。
悪り。急用ができちまった」
ちょっと片付けてくる――と、ロウは勝手に宣言する。
「ちょっと、ロウちゃん?人の話を――」
聞くつもりはない。
「ご馳走はまた今度、腹一杯食わして貰うからよ。
ちったあ時間あるし、ゆっくり準備しててくれていいぜ?」
現在の村にそんな蓄えがないことは十も承知で、大きく手を振ってみせる。
「ロウに話したのが運の尽きだな。
勿論、僕も同行させて頂きますよ?ジャスティンさん」
片目を瞑る相棒に、ロウは満足そうな視線を送る。
さらに。
「満場一致――ですね。
村の皆さん、すみませんが俺たちは先を急ぎます」
娘さんたちもゆっくり休んでください――と、一片の労いを添えて。
ラグナはぺこり会釈し、身を翻す。
「……ロウ、」
「悪いな、おばちゃん。
――行ってくる」
何か言いたげな恰幅の婦人を、遮るように詫びを入れるロウ。
「もう、あんたって子は……。
判ってるよ、どうせあたしが止めたって行くんだろう?あの子といいアンタといい、言い出したら聞かないんだから……ねぇ。
……ね、ロウ。絶対に無茶はしないでおくれよ。無事に帰ってきておくれ。頼むよ――」
そのままおいおいと泣き崩れてしまう婦人。
誰も何も、かける言葉を持ってはいなかった。