二、攻砦戦(18)
階段を下りていた三つの足音は、いつしかひとつ減っていた。
よく反響する足音に紛れ。
行商姿の男がひとり、最上階へと舞い戻っていたのである。
隊長の骸を転がし、その顔を確かめ――男は首を捻った。
「はて、見覚えのある面やないねんけどなぁ」
腕を組み思案するが、思い当たる節はなく途方に暮れる。
金属に覆われた肉塊は既に温度を失っており、その口が真実を語ることはけしてなかった。
男は気づいていない。
自らが、大きな思い違いをしていることに。
「どこぞで顔でも見られたんかいな……
なんで、こない田舎の騎士崩れが俺の名前なんぞ知っとったんやろ」
そう。
彼は、隊長が己の名を告げようとしたものと勘違いしていたのだ。
「……うーん。どこぞでドジったんか?俺」
ドジを踏んだとすれば、それはつい先程なのだと。そんなことは知る由もない。
ばさり。
ターバンと付け髭を剥がし、その場に投げ捨てる。
「あかんなぁ……新入りの素性を調べにフォーレーンに来たっちゅうんに。
またうっかり妙なことに首突っ込んでもーた……」
何かをしでかした悪ガキのように、ぺろりと舌を出す。
「こら、また後であの我儘小僧に何言われるか判らへんな」
かしかしと癖のある髪を掻きむしり。
困ったわー、と、さして困っていなさそうな顔で言う。
「まあええ、乗りかかった船や。
この辺りで金蔓になるっちゅうたら……レドフリック伯あたりかのう」
――確か、女癖の悪さではちょっとした有名人や。間違いないやろな。
細めたままの双眸が、狭い窓から領主館の方角を睨む。
「丁度ええ、渡りに船ちゅう奴っちゃな。
こっちはこっちで――『パニッシャー』本来の仕事場やないけ」
に、と口の笑みを濃くして。
男はひょいと、射撃用の小窓から姿を消した。