二、攻砦戦(14)
がらんと静まり返った中に、すすり泣きがいやに響する。
地下牢には十数名ほどの娘たちが、震えながら身を寄せ合っていた。
大柄な見張りの男は、退屈そうに大欠伸をしながら彼女たちの様子を眺めている。
「ち、ゼヴェッツの奴め……
今頃、上でカードゲームでもしてやがんだろうな」
忌々しげに呟くと、男は掌中の銅貨を睨みつけ、握り込む。
「考え直さずに表にしておきゃよかったぜ」
ついてない、とぼやきながら。男は、座っていた椅子の背凭れへ重心を預ける。
二、三刻ほど前。
牢番を言い渡された二人の兵士は、一枚のコインに自らの数刻を賭けた。
投げたコインが表か裏か、当てれば見張りを免れる――と。不満げな顔で牢番をこなしているこの男は、要するにその賭けで相棒に負けたのだった。
牢番というのは、退屈な仕事である。当然、兵士たちも好んでやりたがる仕事ではない。
武力があれば脱走を試みる。財力があれば交渉を試みる。しかし、この囚人たちはどちらも持ち合わせていない。
かといって『商品』である村娘たちに手を出すわけにもいかない。『傷モノ』になれば、市場価格は暴落するからだ。
扉の前にただ居るだけ。退屈で退屈で、首が船を漕ぐ。
うつら、うつら……と意識が溶けそうになっていた頃合。
若い声が、男を現実に引き戻した。
「おーい、俺だ開けてくれ!」
「……ん?」
男は眠い目を乱暴に擦り、一度首を傾げる。それからおお、と立ち上がり、出入り口へと向かった。
「どうかしたのか?」
「侵入者の中に女がいたんだ。
上玉だから放り込んどけって隊長が……コラ、暴れんな!」
「放しなさいよッ!」
「はははッ、女の手綱も握れねぇんじゃ尻に敷かれるぜ」
下卑た笑いを浮かべ、男は扉を開け放つ。
そして、視界に現れた長身の麗人に、ひゅうと口笛を吹いた。
しかし。
「ほぉ、コイツは確かに上玉――ッ!?
だ、誰だ、てめぇ!!?」
思わず麗人に目を奪われ、傍らにいる男に見覚えがないことに気づくには少々時間を要しただろう。
「……ごめんあそばせ」
その隙を麗人――ジャスティンが見過ごすはずがなかった。
ジャスティンはすかさず、男の急所を蹴り上げる。
激痛にもんどり打つ男の後頭部に、ロウは槍の柄を振り下ろした。そのまま男は星を飛ばし、動かなくなる。
「ごめんね☆」
この上なくイイ笑顔で、ウインクを投げるジャスティン。
「ったく、えげつねぇことしやがるぜ……」
相手を気絶させてやったのは、せめてもの情けだったのだろう。彼は手際よく見張り兵の男を縛り上げ、麗人を一瞥する。
あぁら、自業自得よぉ――と、からから笑う声が答えた。