二、攻砦戦(13)
ロウとジャスティンは、足音を忍ばせ階下へと進んだ。
討伐班の陽動が功を奏したのか、現時点で敵の気配はない。
「予想通りの場所に階段があって助かったぜ」
「ええ、そうね」
「これで、階段は違う場所でした――じゃぁ段取りが狂っちまう」
オーバーな所作で肩をすくめるロウ。
攻砦の真っ只中でも、やはり変わらず緊張感はない。
しかし階段の最下段に辿り着くと、彼ははっとして壁際に身を寄せた。
「踊り場、じゃねぇな……。
どうやら到着みたいだぜ」
壁に張りつき、二人はじっと目を凝らして様子を伺う。辺りは殆ど灯りがないため暗く、目が慣れるまでにやや時間がかかってしまった。
「そのようね。さっき、ブラックちゃんも言ってたけど……」
「はいはい、わーってるって!何度も言うなよ、耳タコだぜ」
んもう、なんて片目を瞑るジャスティンの隣で、かしゃん、と棒が勇んだように啼いた。
「けどよ、どうすんだ?
いきなり雪崩れ込んだんじゃ、捕まってる娘たちを人質に使われるかも知れないぜ」
「それが問題ね……」
「警戒されずに近寄れりゃ……なんとかなんだけどな。
どうせ、中に居んのは二人くらいのはずだ」
その言葉に、ジャスティンは首を傾げる。
「二人くらい……って、どうして?」
「見張りってのは、だいたい二人一組で交代制でやるんだ」
ロウは人差し指を立て、こう解説した。
見張りが一人では囚人に買収される可能性がある。とはいえ、三人四人と見張りに人数を割くほど、小隊に人数的余裕はないことが殆どだ。
「対応の遅さからすりゃ、この砦に二小隊いるとは考えらんねぇからな。
見張りは多くて二人。下手すりゃ一人だ」
ほう、と思わず感嘆の息が漏れる。
「見直したわぁ。アナタ、意外と軍のことに詳しいのね」
「ん?
……あ、ああ……一時期ちっとな」
傭兵みたいなもんさ――と添えて、はたはたと手を振り彼は会話を切り上げた。
やや怪訝そうな顔をするも、ジャスティンがそれ以上問い質すことはなく。
そう、と。短く返事が届くのみだった。
この乱世。人に話したくないことだってあるだろう――そう考えたようで、やや強引に会話を引き戻す。
「要は、油断させてアタシたちのそばに見張り番を誘き寄せればいいのよね?」
「まぁ、そうなるよな」
何か策でもあるのかよ?と言外に含ませ、眉を寄せるロウ。
「それなら、さっきアナタが用意した作戦を使えばいいじゃない♪」
「はぁ?」
不敵な笑みを浮かべウインクを飛ばす吟遊詩人の姿に、青年の背中を一筋の冷たい汗が流れた。