二、攻砦戦(12)
轟音とともにたちこめる爆煙を狼煙に、五人は砦中へ雪崩れ込む。
黒煙で視界が霞む中、ラグナは皆の無事を確認するよう、目を凝らす。
「けほっ……ブラックさん、怪我はないか?」
「ええ、大丈夫です。それより、上に行く階段を!」
ラッドも目を凝らし、建物の様子を見回している。
かん、と小気味の良い音。それから、
「おっしゃ、俺たちも行くぜ!
敵は俺が蹴散らしてやっから、遅れんなよ?」
「ふふっ、頼もしいわね。威勢のいいコはおねーさん大好きよ♪」
暢気にウインクなど送るジャスティンに、ロウはうへぇ、と舌を出す。
しかし、がぢ、と舌を噛んでしまった彼は、結果的に沈黙した。
「――ロウ!
なるべく早く片付ける……だから、無茶はしないでくれ」
「へっ、心配なら無茶される前に終わらせやがれっ!」
「大丈夫よぉ。あたしが見張ってるから♪任せて頂戴〜」
そんな騒がしい声も、徐々に遠ざかっていく。
「やれやれ……一歩間違えれば死と隣り合わせだというのに」
苦笑交じりに嘯くラグナを、まあまあ、と宥めるラッド。
「こんくらいでええんちゃう?
……あんまり深刻になりよると、却って死神さんに気に入られてまうで」
それもそうですね――と、些か表情を和らげた顔が返す。元来心配性な質なのだろう。
「お。向こうに階段があるで」
行商姿の男が指差した方角に、ぼんやり階段らしきものが見てとれた。
「よし、そちらに――」
「いたぞ!奴らだっ!!!」
人影が幾つか、こちらへ近づいてくる。声は男のものだ。
「交戦しながら上に向かおう!
なるべく、ロウさんたちから遠ざけるんだ」
ラグナの声にひとつ頷き。ブラック、ラッドは男たちを誘導しつつ、徐々に上り階段との距離を詰める。
「砦を根城にしてる割に、数が少ないな」
「村娘を浚う手口といい……
もしかしたら、近隣の貴族の飼い犬かもしれへんな」
追ってくる男たちを振り返り、怪訝そうに眉を顰めるラグナ。
「フォーレーン正規軍の鎧も着とるところを見ると――
はー。この辺を任された一小隊が、貴族に尻尾でも振ったんかいな」
「…………」
ラグナとラッドがそんな言葉を交わす中。
ひとり黙したブラックは、階段へと繋がる扉を勢いよく蹴開ける。
べきゃっっっっ!!!
ぱら、……ぱらり。
鈍い音、続いて木片が剥がれたような音が幾つか、床におちる。
「ど……どないしてん?」
「……いえ、なんでも」
思わず表情を引き攣らせるラッドの傍を、憮然とした面持ちがすいと通り抜けていく。
何か気に触ることでも言っただろうかと、顔を見合わせ首を捻る二人。
ブラックは彼等に構うことなく、敵兵の様子を伺っている。
「追手も増えていないようです。
この場で彼等を迎え討って、指揮官の元へ急ぎましょう」
光を失ったはずの瞳が、追ってくる足音の方角を鋭く見据えた。
さながら――黒光りする刃物の鋭利さをもって。