二、攻砦戦(11)
目まぐるしく通り過ぎていく景色は、速度を落とすことを知らない。
聳える砦が、徐々に眼前へとひろがっていった。
相手に視界がないと知りながらも、吟遊詩人はす、と様になる所作で前方を指差す。
「このまま真っ直ぐ進めば、砦よ」
「判りました。軌道がずれたら、指示をお願いします」
OK、任せて――と軽く返す声を、肩越しに聞いて。
離れた場所からも響く馬の足音が、ブラックに皆の無事を伝え続けていた。
そして。
砦との距離は目と鼻の先という辺りで、変化が起こった。
「敵襲ーーーーッ!」
恐らくは中に潜む兵士だろう。誰かの叫び声を合図に、壁に設置されていたランプが一斉に点火される。
間髪置かず、
――ひゅひゅんっ!!!
風を切る疾い音が、雨の如く降り注いだ。
「予想通り……かしら、ここが集中的に狙われてるみたいね」
「その分、皆への攻撃が減ります」
ぽつりと呟くジャスティンの声に、剣を一閃させブラックは答える。
――ほんとうに、総て引き受けるつもりなのか。この青年は。
「なるべく、僕の後ろに隠れていてください」
麗人はそれ以上、言葉を持たず。なれば今は、彼の両目に代わることが役目と結論づけた。
しゅ、と。
風を切る音が、今度は別の場所から。
それは、
さながら、ひとつの画。
降り注ぐ矢の雨が、吸い込まれるようにして一振りの剣に斬り伏せられていく。
「う、そ……」
出発前、ロウの言っていた通り。
彼は難なく矢を防ぎながら、砦へと突き進んだ。
ジャスティンは目を皿にして、相手の出方を伺う。
矢窓から一斉に連射しているのは間違いない。
であれば、チャンスは一瞬。
弓兵たちが、矢を補充するタイミング。そこで攻撃の手が必ず緩む。
その瞬間を――
「ブラックちゃん、体勢を低く!
――撃つわ!!」
次の刹那。
どおおおぉぉぉぉぉぉぉんッッ!!
扉が開かれたことを告げたのは――
けたたましい爆発音と、崩れ落ちる瓦礫の音だった。