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神器遣いと竜姫の闘舞(ダンス)!!  作者: いぬぶくろ
神器遣い
12/42

「絶滅ってどういうことですか!?」

「そのままの意味だ。竜人は、私しか居ない。言っていなかったか?」


 宮前さんではなく、クラエスが何の気なしに答えてくる。


「そんなこと、今まで聞いたことないぞ! だってお前、父さ――あっ、えっと……戻って来た時に『我々(・・)の尊厳』とか言っていたじゃないか!」

「そうだ。私だけ(・・・)が待ち望んだ物ではない。我々(・・)が長い時を待ち望んだ物だ」


 今まで、竜王――クラエスの父親の魂を、一族やその周囲の竜人が待っているような口ぶりだったが、それは死んだ者も含めて待っていた、ということだったのか……!


「あぁ、そうそう。ここでは別に獅童さんが国宝を盗んだことを隠さなくても良いから」

「なっ!?」

「その様子だと、もう彼女(クラエス)から聞いているんでしょ?」

「知って……いたんですか……?」


 さっきから……いや、昨日からずっと色々なことがあり過ぎて脳が処理できなくなってきている。

 父さんの後輩で、父さんの無実を一番に訴えていた恩人が、ずっと父さんのことを疑っていた?


「初めは信じられなかったけど、獅童さんのことを知り、この研究をしていれば自ずと答えは出てくるわ」


 再び、頭をハンマーで殴られたような衝撃が襲った。酷く裏切られた気分だった。


「勘違いしてほしくないから言っておくけど、私は何も嫌がらせのために幸徒くんに嘘を言っていたわけではないわ。だって、そうでもしないと守れなかったから。幸徒くんも、瞳ちゃんも」


 頭では、宮前さんが言っていることは正しいと分かるし、あの時は真実に気づいても俺たちのために「違う」と言い張らなければいけなかった。

 裏切られた、と思うのは筋違いだし、そんな風に思ってしまうことこそが、宮前さんに対しての裏切りとなってしまう。


「私のことを嫌いになっても構わないけど、どうか、獅童さん――お父さんのことだけは嫌いにならないであげて。獅童さんのせいで色々、苦労をしてきたと思うけど、あの人は不器用なだけだから」


 少しだけ悲しそうに声を震わせ、宮前さんは言った。それを隠すように宮前さんは立ち上がると、研究室に備え付けてある冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、俺たちにくれた。


「何が言いたいか、何がやりたいかは分かった。成年後見人という立場もあるけど、何より私は家族として幸徒くんがやろうとすることを後押ししたい」


 それはつまり、クラエスの魂を籠めることが出来る神器を貸してくれるということだ。

 しかし、その目はやや暗かった。


「高出力型――竜核式神器は、私がここに就職した時には全て作られた後だった。今は、メンテナンスの為に戻って来た神器の消耗した部品を取り換えるくらいしかしていないの」

「つまり、それはどういうこと?」

「私は、竜核式神器を作ったことがないの」


 今日、俺が意気込んでやって来た理由を全てひっくり返すようなことを、宮前さんは胸を張って答えた。いや、そこは胸を張って答えて欲しくなかった!


「じゃあ、神器は作れないってことか?」


 俺と同じく期待してやって来たクラエスが無遠慮に聞いた。だが、宮前は悪どい笑みを浮かべながら首を横に振った。


「竜核式神器は、魔力核式神器と構造はほぼ一緒なの。ただし、竜核式の方の神器は竜人が作ったものを流用しているから、人間には作れないと言われていた(・・)。でも近年、科学の発達によって魔力式神器も、強力な魔力を封じ込めるために、今まで以上に頑丈な物が必要となって来た。私は、それを研究しているわ」

「つまり、人工的に竜人が作っていた神器が作れる――と?」


 俺の質問に、宮前さんはニヤリ(・・・)と笑った。


「えぇ、そうよ。ただ、神器は失われた技術(ロストテクノロジー)で作られた特殊な物だから、完璧に同じ物をつくれるわけではないけど」


 宮前さんは、昔から凄い人だと思っていたけど、まさかこんなことをするような人になっていたとは。

 薄ぼんやりとした記憶を掘り返してみると、当時、高校生だった宮前さんは父さんの指導のもと、神器遣いとしての教育を受けていた。

 ちょっと失敗するたびに、泣いて悔しがっていたのを見て、俺は常々「なんで大人が泣いているんだろう」と思っていた。あっ、いや、思い出さないでおこう。宮前さんが睨んでいる。


「丁度いいことに、幸徒君が持つことになる竜核の魂の持ち主は生きている。頑丈な魔力核を作るつもりだけど、魔力の制御が出来なくて核が暴発してしまう可能性がある。魔力核に竜人の魂を入れればその可能性は格段に上がるけど、そのストッパーとなる竜人(クラエス)が居るから問題ないと判断する」


 何かの研究結果の裏紙を使って、竜核式神器と魔力核式神器の違いを絵に描いて説明してくれる。神器遣いの授業は受けているが、専門的過ぎて分からなかった。。


「ただし、そのまま使っていれば国内に存在しないはずの121基目の竜核式神器になってしまうから、魔力核式神器との切り替え方式で行こうと思う。こうすれば、疑われてもただの魔力核式として押し通ることができる。無理矢理、奪おうとしてきたら私の名前を使っても良いから」


 大体の方向性が宮前さんの頭の中で決まると「神器を見せて」と宮前さんに言われた。すぐにズボンのポケットにしまっていた、俺の神器を宮前さんに渡す。


「何で外れているの? 無理矢理、竜人の魂を籠めたの?」


 先も言った通り、神器は咄嗟の使用や盗難を考えて胸に張り付いている状態が常だ。だから、こうして外れている状態は壊れているという理由しかない。

 その壊れてしまった理由を、宮前さんはすでにクラエスの魂を籠めてしまったからだ、と判断したようだ。


「元からこんなんですよ」


 そう一言つけくわえてから神器を渡すと、宮前さんは俺の神器を耳元で振り始めた。先ほどクラエスが振っていた時と同じように、カラカラ、と神器から音がする。


「呆れた。修理もせずに使っていたの?」


 宮前さんは、呆れ顔で大きなため息を吐いた後、ジトッとした目で俺を見てきた。


「修理しても、戻ってくるのはこの状態ですよ」


 なぜこんな状態で神器を使い続けていたのか答えると、宮前さんは先ほど以上の大きなため息を吐いた。しかし、先ほどと違ってその顔には汚らしい物を見るような感情が混じっていた。


「先に謝っておくとね、私、幸徒くんのことを馬鹿にしてた。成年後見人制度で保護者になってから、私のところには幸徒くんたちの学校での成績は逐一来るの。でも、その成績は散々なもので『獅童さんの息子なのに、何でこんな簡単なことも……』ってずっと思ってた。でも、違っていたのね。大人の汚らしい正義感(・・・)のせいで、幸徒くんがこんな嫌がらせをされていたなんて」


 語気は平坦にしているが、表情は今まで見たことがないくらい怒っていた。しかし、それもすぐに崩壊した。

 「気付かなくてごめんなさい」と話している途中から宮前さんは目と顔を赤くして、話し終える頃には手で目元を隠していた。

 消沈したように、数分間そのままの状態で荒く息をしていると、不意に顔をあげて俺を見た。


「ごめんね。私、研究室にこもり過ぎていたせいで、最低な奴らと同じ馬鹿になっていたみたい。忙しい、っていうくだらない(・・・・・)理由で恩師の――いえ、私の大切な家族を蔑ろにしていたなんて……」

「そんな……。宮前さんの仕事は、大事なことじゃないですか。俺よりもずっと優先してもらわないと」

「家族を守ることよりも大切な仕事なんて無いわ。それに、保護者になるのだって、私から名乗り出たのに、『幸徒くんは一人でも大丈夫』って都合よく思って」


 宮前さんは唸りながら自分の髪の毛を掻きむしった。可愛い顔でそんな狂った行動をされると、かなり狂気度が増して恐ろしい。

 それに、保護者だのなんだの言っているけど、宮前さんはまだ20代半ばだ。少し歳の離れたお姉さんといった感じで、保護者と呼ぶには法律上は正しくてもなんだか違和感がある。


「保護者として、子供の成績は良くなってもらわないとね。それに、獅童さんにも申し訳がたたないし」


 「あんまり見ちゃだめよ」と一言付け加え、宮前さんは胸元――Yシャツのボタンとボタンの隙間に指を入れると、細いケーブルを出して来た。

 少しだけエッチなシーンだったが、そのケーブルが何か気になり凝視してしまった。しかし、それがいけなかったのか、俺が見ているのに気づくと宮前さんは顔を真っ赤にした。


「だから、見ちゃダメって言ってるでしょ! 本当は技術秘匿のつもりで言ったのに、本当に男の子って……」


 ブツブツと抗議の言葉を吐きながら、宮前さんは白衣で胸元を隠した。

 そんなつもりは全くなかったのに、何故か俺がスケベ認定されてしまった。

 しかも、俺の隣に座っているクラエスからも、「んっ、んん!」と咳ばらいをされ、やや非難めいた視線でこちらを見てきた。


「それは何か聞いても問題ないか?」


 視線で俺に注意をしていたクラエスが、宮前さんが使っているケーブルが気になったのか質問した。


「神器のロックを解除するための――まぁ、鍵みたいなもんね」


 ケーブルを俺の神器に接続すると、言い終わるよりも先に核を固定する留め具が外れた。

 そして神器を逆さにすると、中央にはまっていた核が、コロリ、と簡単に外れた。それと共に、細かくなった破片が大量に宮前さんの手と膝の上にこぼれ落ちた。


「うわー、すっごいボロボロ。核にもヒビが入ってんじゃない」


 「ほら見て」と言われて宮前さんから核を受け取ると、表から分からなかったが、裏は崩壊といっていいほどヒビがたくさん入っていた。それ以上の割れを防ぐためか、一番、大きなヒビにはゴム系接着剤で簡易修理がされていた。


「緊急時の修理方法で、変な修理をされた物は多く見て来たけど、ここまでのはさすがにないわね……。核が外せるのは、国から修理の資格を得た専門の職人か、私たちみたいな研究者だけだから、これをやったのはそれなりの地位がある人間って訳だけど……」


 核の状態を見た宮前さんは、よほど腹に据えかねたのか般若のような顔で怒った。それよりなにより、あんなボロボロの核でも強化素体が顕現できるんだな、と感心してしまう。


「もう、これは新品にした方が早いわね」

「でも、それだと学校の許可がないと……」


 神器は国家技術力の結晶だ。壊れたり古くなったからと言って、燃えないゴミで捨てることはできない。

 もちろん、替えの神器が必要なので古い物と交換という形で渡される。しかし、新品を受け取るためには、使用者を管理している組織に交換理由と許可者立ち合いの元で、新品と交換されたという書面を交わさなければいけない。


「そんな物は必要ないわ。たまたまこの研究所付近で壊れて、それをたまたま居た神器の研究員が修理しようと思ったけど、あまりにもボロボロだったから新品を渡した。新品を渡したのは――そうね、山田君でいいかしら。こんなゴミを使わせていたんだから、学校側も表ざたにしたくないからそんなに追及はないと思うわ」


 いうやいやな、宮前さんは受話器を持ってどこかへ――たぶん、山田さんへかける。

 しかし、「山田君? 私――」と言っただけで電話が切れてしまった。宮前さんは、嫌われているんじゃないか?

 そんな心配を胸に秘めていると、電話後5分もしない内に白衣を着た研究員がお盆に飲み物とお菓子を乗っけてやって来た。


 眼鏡をかけた天パの髪の毛。むっちりとした体形によく似合う、素朴な顔。宮前さんが「山田君、やっほー」と言ったので、この研究員が先ほど電話した山田さんだと分かった。

 山田さんは、宮前さんの前にはブラックコーヒーを置き、俺とクラエスの前にはホットココア。テーブル――というか作業台の上には、お菓子のバラエティーパックが置かれた。

 テキパキとティータイムの用意をすると、山田さんは静かに外へ出て行った。


「宮前さん……。まさか、いつも――」

「山田くーーーーん! 私、勘違いされちゃうから! こういうことされると、家族に勘違いされちゃうからっ!」


 宮前さんが必死で山田さんの名前を呼ぶと、ドアから再び、のっしのっし、と山田さんが入って来た。


「ココアの方が良かったですか?」

「違うから! ちょっとお願いがあっただけだから!」


 呼び戻された理由を、飲み物が気に入らなかったためと勘違いした山田さんが、再び出て行こうとするのを宮前さんが必死で止めた。

 落ち着いたところで先ほどまでのやり取り――いち部を伏せた状態で――を説明すると、山田さんは簡単に「いいっすよー」と了承してくれた。


 こういった仕事を知らない俺でも、神器に関してはかなりのセキュリティや、新品を貸与するための書類申請が必要だと分かる。

 しかし、山田さんの許可を口頭で貰った宮前さんは、ファイルから書類を取り出すとそこに貸与理由と年月日を書き、自分の机から出した『山田』と彫られた印鑑を押した。

 もちろん、宮前さんは山田さんじゃないし、山田さんはすでに退出した後だ。


 宮前さんから話を聞いた時に山田さんが「名前使っていいですよー」と簡単に答えて出て行ったのだが、これがよろしくない行為だと、高校生の俺でも分かる。

 目の前で行われる行為……。これは、見なかったことにしなければいけない。


「はい。書類には幸徒くんの名前を書いておいた(・・・・・・)から、これでこの新品の神器は幸徒くんの物になったわ」

「あっ、ありがとうございます」

「ふふん。保護者として当然のことよ」


 胸を張る宮前さんには申し訳ないけど、俺の心は犯罪の片棒を担いだんじゃないかという気持ちでいっぱいだった。


「良かったな、ユキト。これで本当の力を発揮できるぞ」


 しかし、隣に座っていたクラエスが新品の神器を手に入れたことを喜んでくれたので、次の循環には、先ほど行われた行為なんてどうでもよくなった。

 そしてすぐに、クラエスの魂を入れる作業に入った。研究施設の検知器を使い、竜人の魂を核に籠めるとどのような変化が起きるのか、といった数値を取りたいらしい。


 クラエスの魂を入れ終えると、ただの強化型の魔力核が竜核になった。

 大きな変化は自分で感じられないが、これでスタートラインにつけた、という気持ちでいっぱいになった。気持ちの問題だろう。

 抑圧されてきたぶん、一気にかたをつけてやろうと思った。


 判子の代押し

 書類に判子を押すという、日本独自の文化。

 サインではないので、代わりに誰でも押すことができるので、代押しによる事件も度々発生している。

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