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平安の世に花をさかせて。  作者: 七草せり
2/5

陰陽師のお屋敷

「う……」


大きな光に包まれた後、私はすこし気を失っていたらしい。


「あ、れ? ここうちの竹林……?」


地面に突っ伏していた身体をゆっくり起こし、辺りを見回した。


「うん。ここはうちよね。でも一体何だったのかな、あの大きな光」


立ち上がり、巫女装束の袴に付いた葉っぱなどをはらい落とした。



『ここは貴女のお家ではありません。いえ、貴女のお家で間違いないのですが、すこし違います。

まだ、貴女のお家ではない。というのが正しいでしょう』


上から声が降ってきた。


「まだって何よ? ここはどう見てもうちの竹林じゃない!」


正体の分からない声に反論するのはなんだけど、どう見たってうちだ。


『貴女は平安の世に呼ばれたのです。なのでここは平安時代と言えばわかるでしょうか。大いなる力の元、貴女はこの世に呼ばれました。詳しい話は竹林を出てすぐにある屋敷を訪ね、聞きなさい。私のつとめは終わりました』



無責な発言を残し、声が途絶えた。


「平安時代⁈ まさか!」



あり得ない現実に頭がパニックになる。


「タイムスリップ……」


誰かウソだと言って欲しい。

そんな非現実的な事は起き得ない。そうだ夢を見ているのかも……。


しかし、どう考えても夢ではないらしく、竹林を出た瞬間、思考が停止した……。



「何なの? これ……」



目に映る景色は見慣れない物で、どうしたって私の住む世界にはない物があった。



「……大きなお屋敷」



自分の家の神社はなく、そこは大きなお屋敷が建っていた。

お屋敷と言っても現代ふうではない。

歴史の教科書で見る様な、日本史に出てくる様なそんなお屋敷だ。



「ここに住んでる人に聞くの?」


と言うか玄関どこ?


取り敢えず気を取り直し、お屋敷をの正面、門の前に立った。


「この門って開くのかな?」


木造りの大きな門を両手で押してみた。


ギギギという音と共に案外力をいれずとも開いてしまった。


「よし!」


そっと隙間から中を覗くと絵画の様な庭が目に入った。


「わあ! 凄い…」


つい見入ってしまいそうになる気持ちを抑え、玄関らしき場所を探すが見つからない。



「ごめんくださいーい」


控え目に声をかけてみたが、果たして言葉は通じるのだろう?


そんな疑問を持ちながらも中を進んで行くと、「誰だ⁈」


意外にも理解できる言葉が耳に入った。



「ああ、良かった。誰かいた」


取り敢えず一安心し、声のする方へと顔を向けると、これまた普通の男の人が立っていた。



「あ、お邪魔してます! あの、私………」


「ああ、師匠の話していた者か。中へ入れ」


せっかく事情を話そうと思っていたのに、遮られてしまった。

でもまぁいいか。説明する手間が省けた。


しかし、どう見ても私のいた時代とさして変わらない男の人だな。平安時代って顔の造りってこういう物なのかな?


私の疑問を他所に、男の人は屋敷の中へ案内してくれた。



「へぇ……。平安時代ってこういう家なんだ」


キョロキョロするのは申し訳ないと思ったのだが、気になって仕方がないので見せてもらう事にした。


あ、簾ってこうなってるのか。へぇ。廊下が長いな。


あれこれと見ている内に、奥の部屋へと通された。


「ここで暫く待つ様に」


そう言って男の人は行ってしまった。


一人藁みたいので作られた座布団?に座り、ここでも周りを見渡してしまった。



「へー。色々な巻物がある。まあ見ても分からないんだろうけど」



ひとりブツブツ言っていると、「やっと来ましたか。お待ちしておりましたよ」



穏やかな声と共に、綺麗な顔立ちをした男性がこちらへやって来た。



「天后も気がきではなかったでしょう。少し無理なやり方をなさったようだ」


そう言って私の目の前に座った。



「あ、あの?」


「よくぞ来て下さった。柚葉殿。私は安倍家の陰陽師です。で、向こうにいるのが我が弟子の珠光(じゅこう)です。今度(こたび)はお呼びたてしてしまい申し訳ない」


丁寧に頭を下げた。


頭に恐らく烏帽子というのだろう。それを被り、服装についてはよく分からないけれど、神主さんみたいな格好をしている。


珠光という人も、この人よりちょっと見劣りしてしまうが、同じような格好だ。



「あ、あの……? 言葉って分かるんですか?」


「特別な術をかけてますからね。問題ないですよ」


「私の事、ご存知で?」


「天后、まぁ神様みたいなものですが、教えてくれました。随分前から呼んでいたのですが、中々気が付いてくれないとおっしゃっていました」


「はぁ……。すいません。で、何故私がここに?」


「さくっと言えば、歴史が変わってしまう可能性があるからです」


「歴史がですか…」


「貴女の時代にも影響を及ぼす事態です」


「えー! それは困る!」


「ですので、貴女のお力もお借りしたくお呼び致しました」


「で、ですが私には何にも力なんてありません!神社の娘というだけで……」


「いえ、貴女は天帝に選ばれし者です。ここにいる珠光もその一人。内なる力の持ち主なのです。

……今から少し前の事、この世に異変が生じました。遡る事藤原四家のうちの一家、その家の家臣が主人思いなのでしょう。天に祈りを捧げ、藤原の他家、強いては朝廷に怨みを持ち続け、遂に異国の悪しきものと縁を結んでしまいました」


「全く余計な事をしてくれたよ!」


それまで黙っていた珠光さんが舌打ちをした。


この人、平安の人?



「まぁ珠光。話を聞きなさい。……その悪しきものが堕天使なるものらしいのです。この国、ましては唐にも、何処にも居ない、遠くの国のものでしょう。何故そんなものと縁を結んでしまったかは分かりませんが、とにかくその家臣は永遠の命を与えられ、今も生きながらえています。そして、遂には大きな力を手に入れてしまったのです……」


「堕天使? 何で堕天使……」


ここは天狗とか武将とかなんかじゃないの?

堕天使って言ったら……。まさかね?


「で、でも何故堕天使かは分からないですが、陰陽師さんとか、その天帝さんとか神様とかにお願いすればいいじゃないですか! 内なる力と言われても分からないし、大体堕天使って危ないでしょ⁈」


「選ばれし二人だからこそ、悪しきものを倒せると。勿論私達も力の限り尽くします。けれど、貴女達二人は古の時からの選ばれし者。異国の悪しきものさえ歯が立たぬと」


「言い伝えですよね? ただの」


「珠光……。天がそうおっしゃっているのです。

私の占いもそう出ています」


「分かってますよ。師匠。ですが……。そちらのお姫様に何ができると?」


「……それは分かりませんが、二人力を合わせよと」


「な、何よ! 私だって訳分からないんだから!」


「まあまあ、落ち着いて。白湯でも飲んで良い作を考えましょう」


そう言うといつの間にかお盆の上にお椀みたいな物を載せた女の人が優雅な仕草で私の前に白湯を置いてくれた。


もしかして、式神ってやつだろうか?


涼しい顔でお椀を持ち、白湯を飲む安倍家の陰陽師さん。

本当に大変な事が起きているのでしょうか……?

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