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BLOOD STAIN CHILD Ⅱ  作者: maria
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七章

 「あいつ、マジで何なんだよ。」

 ミリアの後を追って家を飛び出してきたものの、姿を見失って途方に暮れたリョウが、しかし速度は落とさず隣のユウヤに語り掛ける。

 「いつまでもバカでいいと思ってんのかよ、高校行けねえってことの意味が、まるで解ってねえ。」

 「リョウさん。」ユウヤも周囲に隈なく目を向けながら、注意深く語り掛ける。「でも、いきなりろくに知らない人間にあれは、可哀想ですよ……。」

 「だって、事実は早く知らせた方がいいだろうが。とにかく末期的なんだからよ。」

 「でも年頃じゃないですか。いきなり知らない男に0点の答案見られたら、パンツ見られたぐらいの恥ずかしさはありますよ。」

 「てめえ!」リョウが突然いきりたち、ユウヤの胸倉をつかみ上げる。「ミリアのパンツ勝手に覗き見たのか! ふざけんな、ぶっ殺すぞ!」

 「違いますよ!」ユウヤは思わず大声を出す。「何でそういう解釈になるんだ、意味わからん。とにかく、ミリアちゃんは傷つきやすい年齢なんだから、もうちょっと言動を気遣ってあげないと。」

 ユウヤに促されて、リョウは再び今度は歩き出す。

 「傷つきやすいのは俺の方だ、馬鹿野郎。……初めてあいつに引っ叩かれた。」と言ってリョウは自分の右頬を撫でる。

 「ミリアちゃんはいつまでも子供じゃないんですよ。赤の他人に酷い成績ばらされたら恥ずかしいし悲しいし。それに、将来のことだって色々考えを巡らしているはずですよ。」

 「デスメタルバンドでギター弾くってのが、あいつの将来の希望だぞ?」

 「……でしょうね。」じっとりとユウヤはリョウを睨んだ。

 「んなの、絶対ダメだろ。どこの大口狙いのギャンブラーだよ。」

 「仕方ないですよ、目の前にいる、一番の憧れの人がそういう人なんだから。考えればわかるでしょうに。」

 リョウはぎょっとしてユウヤを見下ろした。

 「はあ? 何であいつが俺に憧れるんだよ。俺は一兄貴として、親代わりに面倒見てるだけだぞ。」

 今度はユウヤは目を見開いてリョウを見上げる。

 「何であんだけ魅力ある曲書ける人が、女の子一人の気持ちもわかんねえんすか。……ミリアちゃん、ライブの打ち上げの時、将来はリョウさんと結婚するんだって嬉しそうに言ってましたよ。」

 「そのネタはミリアの鉄板なの。」リョウはケッという奇妙な声を出し、「お前らが嬉しがるからミリアも図に乗って、延々そのネタ引きずってるだけ。」

 「ネタ、っすか。」

 ユウヤはそう呟いて溜め息を吐くと、突如「……いたあ!」とボーカリストとして十分な声量でもって前方の駅に向かい、叫んだ。

 リョウは慌てて四方八方を眺める。

 ユウヤは再び駅の方向を指さし、大声を上げた。「いたあ、ミリアちゃん!」

 リョウが咄嗟に走り出した。

 「信号、赤!」

 そうユウヤが叫ぶのにも構わず、歩道の向こうで電車を眺めながら立ち竦んでいたミリアの所まで一気に道路を走り抜けると、リョウは後ろから抱きすくめた。「早まるんじゃねえ!」

 二人はそのままうつ伏せに倒れ込んだ。

「幾らバカだって死ぬことねえだろが。バカは悪くねえ! バカにだって人権はあらあ! ああ、俺が悪かった。勉強が死ぬ程嫌いだったら、金輪際、誰に頼まれたってしなくっていい。デスメタルバンドのギタリストでいいじゃねえか。十分立派だ! 誰だ博打なんて言った奴は。人生博打で結構。てめえの人生やりてえことやらねえで死んで、誰が責任取ってくれんだよ。なあ!?」

 ミリアは訳が分からず、自分に覆い被さったリョウを何事かと目をぱちくりさせて見上げた。するとすぐに頬に涙が伝い出す。「ごめんなさい。……頬っぺ、痛い?」と言ってリョウの右頬に恐る恐る掌を当てる。

 「痛くねえよ。俺はデスメタルバンドのリーダーだぞ。女子供に殴られて痛ぇとか、そんなやわじゃねえ。」

 ミリアは唇を震わせながら、「ごめんなさい。」と再度繰り返した。そして手に握りしめられた白いハンカチで涙を拭った。そして一瞬そのハンカチをじっと見詰め、そしてうんと一つ肯き、微笑んだ。「……ミリア、モデルになるの。」

 「そうか、モデルか、いいぞ。てめえの人生てめえで決めて、大いに結構。……ん、モデル? え、モデル?」

 ミリアは泣き笑いの顔で、手に持った名刺をリョウに見せた。「貰った。」

 リョウはさっと奪い取って名刺を凝視する。それを信号が青になってから渡って来たユウヤも後ろから覗き込む。

 ――asia models 代表取締役社長 榊田 春樹――

 「何だこりゃ。」

 「モデルになる。だから高校やっぱいいの。」

 「ふ、ざ、けるなー!」リョウの、大砲もかくやとばかりの怒号が駅前に響き渡った。

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