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BLOOD STAIN CHILD Ⅱ  作者: maria
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六章

 ミリアは混乱していた。一方的に同業者を連れて来て、自分の汚点を晒すなんて。日頃必死にギターの練習をし、ステージ上では無敵の存在になれているというのにまるで台無しだ。それに成績云々はリョウと二人だけの内緒ごとではないのか。勝手に秘密を赤の他人に暴露するだなんて、あまりに、酷すぎる。

 そもそもいつも優しく、何をしても褒めてくれるリョウが、成績が悪いがためにギターを弾かせないだとか、ライブに出さないなどというのは、一体どういう了見なのだろう。そんなに勉強が大切なのか。食べていけないなどと言うけれど、本当にそんなことあるのだろうか。そんなこと、今までリョウは言ったことがなかった。何で心変わりをしてしまったのだろう。もしかすると厳つい容貌を持ったテクニカル男性ギタリストが見つかって、都合よくバンドから追い出すつもりでもあるのだろうか。

 リョウと結婚をしたいのに。それさえも否定された。法律って何だろうか。ミリアには一つもわからない。今度社会の先生にでも聞いてみようか。本当にリョウと一生添い遂げることはできないのだろうか。

 ミリアの双眸からは大粒の涙が溢れ出す。喉の奥がごつごつと痛んで、遂にわあわあ声が出始める。道行く人がミリアを見る。ミリアは少し恥ずかしくなって、電柱の陰に身を潜め制服の袖で涙を拭った。美桜の家に行こうか、と思いついたものの、美桜は平日は毎日塾に行っているので家にはいない。ミリアは今度は孤独感にさえ泣きたくなってきた。

 それに慣れないサンダルで随分駆けたために、足の甲が痛み出す。そして昔、こんなことを始終繰り返していたことを思い出す。父親に殴られた時、理由もわからず出ていけと言われた時、女を連れ込んでいる時、いつも外を当てもなく歩き続けた。ミリアはその時の思いがフラッシュバックし、遂に道端にしゃがみ込んで激しく嗚咽を漏らした。

 そうだ。自分は、リョウの頬をぶった。初めて、叩いた。大好きなリョウ。始めた会った時から大好きだったリョウ。もう二度と、許してもらえないかもしれない。元々帰る所もなく天涯孤独の所を、親でも無い、血も半分しか同じではないリョウに面倒を見て貰っているというのに。リョウの優しさを、当たり前だと、思った。

 ミリアは激しい慟哭に息苦しくさえなってくる。

 そこに、ミリアの肩を叩く者があった。ふと顔を上げると、白いハンカチが目に入る。ミリアは涙を再び袖で拭うと、目の前にいたのはグレイのスーツに身をまとった、中年の男だった。

 男は穏やかな笑みを浮かべながら言った。「涙を拭いてください。黒崎ミリアさん。」

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