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BLOOD STAIN CHILD Ⅱ  作者: maria
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五十八章

 「俺はよお、本当にお前が高校受かってくれて、嬉しいんだよ。わかるか? この気持ち。」

 リョウは真っ赤な顔をして騒ぎ立てる。ミリアはその傍でにこにことリョウを見上げ、答える。「わかるわ。」

 「嘘つけ! わかるわけがねえだろが!」

 ミリアはびくりとして身を竦める。

 「俺はな、あのクソ野郎とは違うんだよ。お前をちゃあんと、幸せにしてやるの!」

 ミリアはリョウの隣へ移動し、腕を絡ませる。「嬉しい! ……どうやって?」

 「何だってやんだよ、クソッタレ!」リョウはそう言って、最早氷も入れないばかりか、ウイスキーを瓶ごと呷る。やはり父親と同様にアル中の気があるのかしら、と少々ミリアは心配になる。

 「髪如き惜しいか? 惜しくなんかねえ、んなもん放っといたって生えてくらあ。ついでにスキンヘッドにしてやってもいいぐれえだ。なんなら頭皮だってくれてやらあ!」

 「頭皮いらない。」ミリアは今度は急にげんなりしてリョウを見上げる。

 「そうかよ。でもな、俺はお前を幸せにする。もう、これは、決定事項だ。誰人にも覆させやしねえ。」

 「きゃあ!」ミリアは歓声を上げる。「幸せに、してね。」

 「あっはっはははは。」大声で笑うと、「欲しいものがありゃあ、なんだって言えよ? きんきらドレスの一枚や二枚、屁でもねえよ。遠慮は無用だ!」

 「……欲しいもの、ない。」

 「ねえだあ?」リョウはミリアを睨む。「ねえわけ、ねえだろが! じゃあ、どっか行きてえとか、食いてえとか、見てえ聴きてえ、何かあんだろ? 何でも言え!」

 ミリアは焦る。「ずっとずっと、リョウと一緒にいたいの。だから、ずっと、ミリアといてね。」

 リョウは詰まらなさそうな顔になり、瓶をテーブルにごつんと置く。「そんだけか。」

 「じゃあね、」ミリアはリョウに縋るようにして「キスしてもいい?」

 リョウは顔を顰め、「まあ、いいけどよ。」言い終わらぬ内にミリアはリョウの頬にキスをした。リョウは再びウイスキーを呷る。

 「お前、発情期かなんかか?」

 ミリアは慌ててリョウから身を離す。「違う。リョウが好きなだけ。」

 「そうか……。」どこか一点を見詰めながらリョウは呟く。「まあ、発情してもクソ野郎に引っかかんじゃねえぞ。んなことしやがったら、俺は許さねえかんな。」

 「引っかからない。リョウがいるもん。」ミリアは話の嚙み合わなさに脱力し始める。

 「あのな、お前がいなくなったらバンドが立ち行かねえんだよ、そこはわかってんな? 俺はお前以外とツインギターを奏でる気はさらさらねえ。だから!」突如声を張り上げると、「結婚して遠くに行くとか、俺は断固、許さねえからな。無責任だろ、てめえ。」

 「ミリアは、リョウと結婚するんだもん……。」最早今のリョウには何も伝わらないと思いつつ、それでも言わずにはいられない。ミリアは呟くように言った。

 「そっか!」リョウは急に元気を取り戻したが、みるみる気落ちする。「でも実はな、俺には金がねえんだ。」リョウはミリアを睨み上げるようにして、「スウェーデンに連れて行くには、もう十年ぐれえ、必要なんだ……。すまねえ。俺は、……ダメな人間だ。」

 ミリアはそっと再びリョウに寄り添う。「いいの。一緒にいられれば、いいの。」うふふ、とミリアは含み笑いを漏らす。「スウェーデン、いらない。」

 「そっか! ありがとうな!」リョウは急にまた元気を取り戻すと、ミリアを抱き締める。

 「ミリアはいい彼女でしょう? 付き合ってよかったでしょう?」

 「ああよかったよかった! で、何、お前は俺の彼女なのか?」

 ミリアはいきり立つ。リョウのパーカーの首元を掴むと、「リョウが言ったの! 付き合うって、言ったの! 何で忘れるの? 酷い!」と叫んだ。

 リョウは頭を抱え、必死に頭を巡らす。そして、片目を苦し気に瞑りながら言った。「でも、……お前は俺の妹じゃねえか?」

 「妹じゃない。彼女。」ミリアはきっぱりと言い放つ。

 リョウはしばし考え込む。「……そうか。すまん。忘れてた。」

 「もう! 忘れないでよね!」ミリアはリョウの膝に乗り上げると、ばんばんと胸を叩いた。


 リョウはそれからもなんだかんだと騒ぎ立てると、そのままソファで寝込み始めた。ミリアが揺らしても揺らしても、起きる気配はない。

 ミリアは途方に暮れながら自分は風呂に入り、一人ベッドに潜り込もうとしてリョウを心配そうに見下ろした。このままだと風邪をひくかもしれない。仕方なく寝室から毛布を引っ張ってきて、リョウに被せる。そしてはっとなってミリアは目を輝かせた。そしていそいそとリョウと同じ布団の中に潜り込んだ。

 ソファは都合よく狭く、それに酒を飲んだリョウはとても暖かい。ミリアはそっと腕をリョウの背中に回し、胸に顔を当て、目を閉じる。鼾の響きが心地よい。ミリアもやがて、幸福な眠りについた。

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