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BLOOD STAIN CHILD Ⅱ  作者: maria
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四十八章

 ミリアが兄妹合作のオムライスの入った弁当を持って(最後のケチャップはミリアの強い希望でリョウに任された。開ける頃には無残に跡形もないであろうハートである。ミリアは嘆声を上げた。)が、意気揚々とS高へと出かけて行くのを見届けた後、リョウは漸くのろのろとスーツを引っ張り出し、着替え出した。そこに約束通り、弁護士が来訪する。

 「勝てますよ。」弁護士は玄関に入るなりそう口を開いた。

 「はあ。」リョウはそう肯くのだか溜め息だかわからぬ声を漏らし、リビングへと招き入れた。「まあ、そこに座ってくださいよ。」ソファを顎で示した。

 「さては、信用してないんですか?」弁護士は鼻で笑う。

 「だってさあ、この間あんたが言ったこと……。」台所でペットボトルのコーヒーを注ぎつつ、リョウは答えた。

 「たしかに黒崎さん、あなたはバンドマンで収入も不安定で嫁もおらず、おまけに家も狭くて、反社会的な長髪で……、」

 「もう、いいっすよ。」リョウは慌ててコーヒーを弁護士の前に勢いよく置いた。

 「ありがとうございます。」弁護士は出されたコーヒーを遠慮なしにぐびぐびと飲むと、「いやあ、あなた見た目によらず、勝てる証拠が山ほどあるじゃないですか。嫌だなあ、何にも言ってくれないんだもの。」と言って微笑んだ。

 リョウは疑い深い目で弁護士を見る。

 「学校関係者、音楽関係者、全員あなたの強烈な味方ですよ。資料もほら、この通りごっそり。」と言って弁護士は重たげな黒い鞄を開けて見せた。「普通はねえ、相手の人格攻撃は裁判官の心証を悪くする恐れがあるからあんまりやりたかないんだが、あの人は酷いねえ。鬼だよ。」

 リョウはごくり、と生唾を呑み込んだ。

 「やっぱ、酷ぇのか……。」

 「ミリアさん以外にもあちこち父親違いの子供五人も作って、全員施設送りですよ。今もそれらとはまた違うのと一緒に住んでいるし。ダメだね、世の男は見たくれに騙されて。」

 「見た目よかったのか、あいつ。」リョウは遠くを見つめながら言った。

 「だってミリアさんそっくりでしょう。絶対三十過ぎには見えませんよ、気付かなかったんですか。あ……。あなた、もしかして女じゃなくって男が好きなタイプ?」

 「女好きだよ。」リョウは不貞腐れたように言った。「気違い以外は。」

 「内面重視なんですねえ。」弁護士は妙な納得の仕方をする。「とにかく」弁護士は声を張り上げて言った。「日頃黒崎さんがミリアさんにしてあげている事柄を、ミリアさんがここにやってきた、つまり小学校一年生の時から順追って、素直に正直に、言ってもらえばいいですから。打ち合わせなんか、しなくていい。時間の無駄だ。後は私が、」弁護士はにやりと笑って、「倒します。親権剥奪は難しいかもしれないですけれど、監護権と相手との接近禁止は勝ち取って見せますよ。」と言って、鼻で笑った。

 リョウは半信半疑ぐらいの眼差しで、「マジで?」と問うた。

 「マジです。」弁護士は眼鏡の蔓をくい、と上げる。

 「それって、これからも、……その、今まで通り、ミリアと、暮らしていけるって、こと?」恐る恐る尋ねる。

 「そうです。」眼鏡の奥で瞳が輝いた。「あのねえ、実は私当初やる気あんまりなかったんですよ。だって、あなたの見た目で職業で、義理の妹の監護権が欲しい、でしょ? 絶対無理だと思ったよ。でも日頃お世話になっている社長がうるさいから、渋々受けたんだ。でも今私は、かつてないエネルギーに満ち溢れている。ミリアさんを養育するのはあなたしかいないと確信しているからだ。こうなったら絶対勝つんです。決まってるんです。」弁護士はそう力強く説くと、ふふ、と堪え切れないとばかりに含み笑いを漏らし、「じゃあ、昼過ぎに裁判所でお会いましょう。場所はわかりますよね?」

 「ああ。」

 「言っておきますが、バックレたら即、負けですよ。」弁護士はそう言って立ち上がり、玄関へと歩いた。

 「わかってるよ。」リョウは顔を顰めつつその後を追う。

 くるりと振り向いて、「それから、万が一にも、バイクで事故ったりしないでくださいね。」と付け加えた。

 「縁起でもねえこと言うなよ。」

 弁護士は微笑む。「では、あとはその容姿だ。顔付きだけでも神妙に慈愛深く、してきてくださいね。それでは、先に行っておりますので。」

 弁護士は素早く頭を下げると、さっさと玄関を出、足取りも軽く階下に降りて行った。

 リョウは暫く呆然と玄関でその足音を聞きながら立ち尽くしていたが、やがてはっとしたように玄関先に置いたいた財布とバイクの鍵をポケットに突っ込むと、慌てて家を出た。

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