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BLOOD STAIN CHILD Ⅱ  作者: maria
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三十八章

 女の言葉は果たして偽りではなかった。リョウはある日、ポストに家庭裁判所からの通知を発見した。驚くより怒りを覚えるより、ミリアに見つからなくてよかった、と思ったのが最初である。今やミリアは受験間近、ギターさえ休んで勉強に専念している。

 封を開けると、案の定ミリアの親権にかかわる訴えが起こされたため、調査官によるリョウとミリアとの面談を経て裁判を行うと、それぞれ日程までも記されていた。リョウはさすがに気落ちして、テーブルで一心に勉強に取り組むミリアをちらと見下ろした。

 さすがに全てを内密にしておくことは、できないのかもしれない。深々と息を吐くと、意を決してリョウは呼びかける。

 「ミリア。」

 ミリアはふと、ペンを止めて大きな瞳でリョウを見上げる。

 「なあに。」

 「あのな、」何と説明をしたらミリアが心惑わされることなく済むのか、リョウにはわからない。母親の来訪時には、あれほどの興奮状態に陥ったミリアである。溜め息を吐くと、「あの母親がな、裁判所にお前の親権巡って訴えを起こしたんだと。」と、飾らぬままに言った。それが、ミリアに対する誠実さであるとも思われた。

 ミリアの形相が一変する。

 「それで、一応、裁判所の人がミリアにどっちと暮らしたいのか、確認をしてえようなんだ。」

 ミリアは何かを言おうとして唇を震わせる。

 「そんなに時間はかからねえみてえだし、その人、うちにわざわざ来てくれるみてえだから、ちょっと、その時、話をしてもらって、いいか?」

 ミリアは再び唇をぐっと結ぶと、目を見開いて肯いた。

 「じゃあ、来週の日曜日、お前が撮影から帰った夕方ごろなら大丈夫って、返事しとくわ。だから、撮影終わったら、早く帰ってきて。まあ、全然大したことじゃあねえよ。じゃ、俺、ちょっと今から夕飯買ってくるから。勉強頑張れよ。」と何気なさを装い家を出た。


 アパートを離れるなり、すぐさまリョウは早速社長に電話を入れる。母親が遂に訴えを起こした旨と、弁護士の紹介を願い出る。社長はおそらく同室にいたのであろう秘書に命じ、即座に弁護士との面会の予約を入れさせた。リョウは何度も感謝の言葉を述べ、電話を切る。そしてライブ直前でさえも感じたことのないかつてない緊張感と不安を、ミリアの前ではおくびにも出さぬまま、弁護士と会うその日を迎えることとなったのである。

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