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BLOOD STAIN CHILD Ⅱ  作者: maria
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二章

 リョウが帰宅すると、「おかえりなさい。」と、ミリアは笑顔でリョウを出迎える。「学校、楽しかった?」

 「お前なあ。」

 リョウは顔を顰める。無論ミリアが嫌味などで言っているわけではないことは、わかっていた。これは自分がいつもミリアに投げかけている言葉そのものだったから。

 リョウはミリアをソファに座らせ、着慣れぬスーツのジャケットを放り投げると、「こりゃあ、何なんだよ。」と、担任教師に手渡された期末テストの答案をテーブルに叩き付けた。ミリアは驚いて飛び上がる。

 「何で、テストに猫なんだよ。」

 「可愛い?」ミリアは微笑む。「こっちが白ちゃん、こっちが茶色ちゃん。」

 「馬鹿か! お前、よく聞けよ? 今のままじゃ高校行けねえとよ。わかる? 高校生になれないの! 馬鹿過ぎて!」

 ミリアはリョウの怒りに任せて固く握られた拳をそうっと取ると、微笑んで「ミリア、高校行かないもん。」と言った。

 「はあ?」

 「リョウとギター弾くの。ずっと一緒。」

 それか、とリョウは地団太踏みたくなった。自分には、ギターがあると思っていやがる。しかし僅か十五歳やそこらで人生の選択肢をギター、それもデスメタルバンドのギターなどという大博打のみに掛けるなど、何があっても許せたものではない。確かに自分もファンも、ミリアのギターを何度も激賞し賛美したものだが、それがまずかったか、と今更ながら後悔の念がふつふつと沸き起こる。

 「このご時世、高校ぐらい出ねえでどうすんだよ! ギター一本で食ってけるわけねえだろ、アホが!」

 ミリアは一瞬目を丸くしたものの、すっと人差し指でもってリョウを指差す。リョウは苛立った面立ちで、「俺はなあ! たまたま、運が良かっただけ! 俺をマネすんじゃねえよ!」と怒鳴った。他の何者でもない、自分というミリアの直近のモデルが悪かったのだ、そう思えば怒りの矛先は向かう当てなく、何とも遣る瀬無い。

 「あのな、よく聞け。俺だってなあ一応高校っつう所は出た。出ねえとバイトも出来ねえかんな。今までやった引っ越し屋、お好み焼き屋、それから定食屋その他諸々、言っとくが高校行かねえとそういうのもできねえんだかんな。お前どうやって食ってくんだよ。一生俺といる気か、んな訳ねえだろ、大体俺のが早く……。」

 「一生リョウといるの。」ミリアは悪びれた様子もなく微笑む。

 リョウは一瞬怯んだ。

 「リョウのお嫁さんになるの。」

 リョウは目を丸くして、しかしもう何も言う気がなくなり溜息吐きながら立ち上がると、無言でジャケットを拾い上げ、そのまま寝室に入り、いい加減窮屈でたまらなくなったスーツを脱ぎ始めた。そしてリビングにいるミリアに向かって、「お前、このままじゃギター禁止だからな。ライブにも出さん。俺が全部、弾く。」と言い放った。

 ミリアは蒼褪めた表情で、寝室のドアを勢いよく開け放つ。

 「嫌!」

 「お前、し、閉めろ!」

 トランクス一丁のリョウが慌ててミリアを押し出す。ミリアは目の前でバタンと閉ざされたドアに頬を押し付けてそのままずるずると、座り込んだ。

 「ライブ、出たい! ギター、弾きたい!」

 「おお、おお。そうか。じゃあ、勉強やれや。」扉の向こうでリョウは忙しくチノパンを履きながら、そう煽る。「三十点取らねえと、ギターにゃ一切触れさせねえからな。」

 ミリアはドアに凭れ横座りしながらエプロンの裾で、涙を拭った。

 なぜ突然リョウはそんなことを言い出すのか、ミリアにはわからない。ミリアは高校には行かず、リョウの隣で一層ギターに精進するつもりだった。リョウもそれを望んでいるはずだと思っていた。そしてリョウの大好きなギターに邁進し続けていれば、そんな自分をもっともっと愛してくれるものだと信じて疑わなかった。ミリアは全ての期待に裏切られ、夢を打ち砕かれた絶望でいつまでもそこに泣き続けた。

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