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No.3に案内されたのは、シックなジャズバーだった。まだ開店前なのか店内は静まり返っていた。
ボスはその2階のプライベートルームにいた。机を挟んだ向こう側の大きな革張りのソファーにゆったりと座っていた。
「ボス、連れてきました」
No.3がそう言うと、俺をボスの前に押し出した。
「僕に会いたかったんだって?何の用だい?」
ボスの銀縁のメガネがキラリと光った。
「組織を抜けたい」
そう俺が口にした瞬間、緊張を孕んだ空気に包まれた。
「何故かな?理由を聞いてもいいかな?」
ボスの口調は柔らかなものだったが、目力が強くなった。
「殺しに飽きたんだ。ついでに組織にいるのも嫌になった」
「ダメだよ。君には組織にいてもらわなきゃ困る」
「別に俺じゃなくてもいいだろう。この世の中、金のためならなんだってする奴が掃いて捨てるほどいる」
「そうだけど、僕は君を手放す気はないよ」
「何故だ?」
「君の残酷な殺し方が好きだったよ。だから、君がどんな殺し方をしようと僕は注意をしなかった。最近は変わったみたいだけど、君の本質はそうそう変わるもんじゃない。組織を抜けても、どこかで人を殺すよ、君は。なら、組織の依頼で殺すほうが効率的じゃないか」
「俺はもう、人を殺さない」
「それはどうかな」
「もう違うんだ。前の俺とは」
「それは君じゃなくて、僕が決めることだ。君が使い物にならなくなったと分かった時には、君を捨てるよ」
「今はまだ、使えると?」
「十分にね。この話はこれでおしまい。帰ってくれないかな。僕は忙しいんだ」
茫然としていた俺はNo.3に引っ張られながら、部屋を退室した。