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あれから数週間経っても、赤い爪の女からの連絡はなかった。
あいつ・・・。
その間、殺しの依頼は5回もあった。
どうなってる・・・。
今までは月に1回あるかないかだったのに、今月は多すぎないか?なあ、あんたもそう思うだろう。
俺は足元に転がっている御遺体に心の中で話しかけた。
「額に一発の銃弾。最近は綺麗な殺し方をしやがる。そんなに俺のキスが欲しいのか?」
背後から連絡していた掃除屋が、そう声をかけてきた。
「お前のキスなんかいらないよ」
「だったら何故最近は普通の殺し方をする?まあ、後片付けは楽でいいが・・・、お前変なものでも食ったか?」
「さあな」
「教えろよ。気になるだろう」
「うるさいな」
「なあなあ、組織の中でも噂になってるんだよ。お前が変わったって。まあ、その噂を流したのは俺だけど」
「はあ?」
「だって、メチャクチャだったのが、普通になったんだぜ。この不可思議な現象を誰かと分かち合いたかったんだ」
「おいおい」
「なんだかボスも気になってるらしいし」
「なんだって?」
「その噂を確かめるために、お前の出番を増やしたんじゃないかな」
「勘弁してくれ」
普通に生きたいと決めた途端、どんどんハードになるってなんだよ。
「・・・やっぱり変わったな。いつもなら喜びそうなのに」
「変わったら、ダメか?」
「俺的には大歓迎だ。仕事が楽でいい。本当にキスしなくていいのか?」
「しなくていい。したら殺す」
「ハハッ、怖い怖い」
掃除屋の笑った顔を見たのが、これが初めてだった。