会話
俺、麻城結城は困惑していた。
視界には学校一の美女が橋の真ん中で空を見上げている。
「麻城君・・・・・・結城君はこの世界のことどう思ってる?」
名前呼びという不意打ちに頬を赤らめながらも俺は言った。
「不公平・・・・・・かな?」
「そうだよね、ほんとにそう」
明菜は橋の柵に手をかけたまま顔だけをこちらに向けている。
あぁ、留萌さん本当に可愛いなぁ。
結城は声にならない声で感嘆の叫びを心の中であげた。
「でも、君はこの世界で充実した人生贈ってるんじゃないの? 可愛いし、実際にモテてるし」
彼女は少し頬を赤らめながらまた、雲ひとつない快晴を見上げた。
風に靡く髪はどこか幻想的に舞を散らし、瞳は煌びやかに輝きを放ち、吐息を吐くようにそっと呟いた。
「でも、本当に振り向いて欲しい人を振り向かせられないんじゃ意味ないよ」
結城は浮かない表情を浮かべた。
「留萌さんにも好きな人が居るんだね」
「あ、明菜って呼んでって言ったのに」
明菜は怪訝そうな顔で結城を見つめる。
「ごめん、俺にはハードル高いし、ってなんで学校抜け出したの?」
照れながらお茶を濁す。
「私が抜け出した理由は自由が欲しかったから、かな?」
俺には少なからず分かる気がした。留萌さんの家はお金持ちで通っている。
ふと彼女の方を見ると流れる風が長い髪を揺らし、その目はどこか遠いところを見つめていた。
「明菜・・・・・・ちゃんはこれからどうするの?」
「行きたいところがあるの!」
明菜は笑った。そしてその笑顔を独占してる自分に優越感に内心高笑いを発した。
人生のロウソクに初めて火が灯った瞬間だった。
「着替えなきゃならないし。2時にまたここで待ち合わせしよ」
彼女はそう言い残すと長い黒髪をハラハラと風になびかせ走り去っていった。