出会い
明日なんて来なければいい。
俺は何度もそう思った。
理不尽なこの世の中に産み落とされ。
俺は負け組として生きている。
*
「おい、パシリ。ジュース買ってこい」
俺のあだ名はパシリ。昼時になるといつもこうやってパシリに使われる。
「・・・・・・うん」
〜数分後〜
「買ってきたよ」
「おせーよ、何分待たせんだよ」
「ごめん」
俺をパシリに使うこいつは浅間剛、クラスを統率するリーダー的存在だ。こいつに逆らうとロクな事が無い。
「おい、俺が頼んだやつと違うじゃねーか」
「え?」
そう言うと剛は俺を蹴り飛ばして俺の体を跨ぐようにして言った。
「ちゃんと頼んだやつと買ってこい。これは罰だ」
剛はその岩のような拳を俺の頰にぶつける。頰は赤く染まり、唇は切れて血が滲んでいた。
「剛、面白そうな事やってんな。俺たちも混ぜてよ」
そういって剛のグループのメンバーが四人ほど俺の周りを囲む。当然俺は抵抗も虚しく叫びをあげ、足蹴にされた。
クラスメイトは傍観者と化し、昼休みなので先生は通らない。
あー死にたい。
剛のせいで友達も消えたし、楽しいこと全部消え去った。ほんとに俺って生きてる意味あんの?
静かな教室に叫びだけが上がる、次第に俺の喉は枯れ果てようかとしたその時だった。
「複数で1人を虐めるなんてバッカじゃない!?」
可愛らしい声と裏腹に戒めるような荒んだ言葉が剛を刺した。
「なんだと、クソ」
その声の主は学年でも、トップの容姿を持つ留萌明菜。
「あ、明菜ちゃーん」
剛は俺に乗せていた足を退かすと表情を裏返したかのように好青年を取り繕った。
しかし明菜は剛には目もくれず俺の方に駆け寄ってきてその色素の薄い綺麗な手を差し伸べる。
「大丈夫? 立てる?」
「あ、ああ」
俺は目をパチクリさせながら手をとった。
無理もないだろう。パシリの俺が学校のアイドルに助けられてるのだから。
柔らかくサラサラとしたその手は美しく、自分に触れていいものなのか嫌悪しながらも温かい熱を感じとった。
「明菜ちゃん、そんなクソの相手してないで俺と遊んでよ」
明菜は俺の手を握ると教室を飛び出し廊下を駆けた。
流れる汗、吐く息。
「まっ、まってよ。どこ行くの?」
ひ弱な声とともにヨレヨレの体は足首から崩れた。
「麻城くんは本当にひ弱だね。フフ」
「ん? なんで俺の名前を?」
「さーて、いまから何しますか」
「聞いてないし」
明菜は俺の方をじっと見ると口を綻ばせて言った。
「私は留萌明菜。明菜って呼んで」
「いや、知ってるし・・・・・・。それより何かお礼させてよ」
「お礼?」
「さっき俺を助けてくれたろ?」
「あ、なら。いまから私一緒にこの学校から抜け出そっか」