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責任転嫁とヴァイスの良心

「残念やけど、お前らに彼女を渡すというんは聞けん話やな」


 穂高が癪な顔で研究所の宮下たちの要求を突っぱねる。村田もスッと絵美の前に立って我が身で彼女を守ろうとする。


「宮下さん、そういうことで諦めてください。彼女はいわゆる能力者とは違った、ほとんど一般人みたいなものなんですから、無理に研究しようとしても何も出てこないと思いますよ」


 その村田の前に弥生が回り、さらにその前に桐生が仁王立ちする。


「調べるだけなら俺たちだけでもできるしね。それに彼女は上の菓子屋で働いてもらおうと思っているんだ。勝手にそっちに連れて行かれてもこちらとしても困るっていうもんですよ」


 桐生と弥生はいつになく息の合った連携を見せる。出遅れた滋は、慌てて絵美の側に駆け寄って付き添う。結界の準備もする。能力者でもない研究所の面々は桐生たちを相手に力で絵美を奪うことなど不可能である。宮下は歯軋りをしている。


「あなた方はいつもそうだ! 我々の研究をなんと思っているのか! 人間の未知なる才能を広く開花させて世に役立たせることもUWの職務と忘れたわけではなかろうに! 自分たちの才能を自分たちの基地でのみ使おうというのはあまりにも身勝手なことではないか! 暴走と捉えられてもおかしくない行為だぞ! そっちがその気なら、当然我々としてもこのことは本部のほうに報告させてもらうぞ!」


 と、部下の研究員が吠えるように言うが、桐生たちはまったく動じない。


「でも、あんたたちに渡しても同じでしょ。いくら研究所は本部直轄といっても、それこそ自分たちで研究を進められれば自分たちの手柄となるわけなんだから。あたかも国のため、人類のため、『こちら側』のため、といった奉公のように見せかけて、結局は自分たちのためなんじゃない?」


「それにや、お前ら上に報告したら、わしらは勝手に基地に盗聴器を仕掛けておったことを報告するからな。それこそ暴走や。問題やぞ」


 穂高を睨む宮下は深く鼻息をつく。


「ことの重要さを考えれば、レアな才能を持った人材の研究を妨げることのほうがよほど問題だと思うのですが、今のあなた方にそれを言っても通用しませんな。埒があかないので我々としても引き下がってもいいですが、ただし条件がある。今回、ここにヴァイス・サイファーがいたことが我々としてもまだ幸いだった。彼に、『向こう側』への穴について一つ協力を頼んでもらえれば、そこの彼女のことをそちらに任せる形で済ませても構わない。どうですか?」


 これはまた妙な話へと傾いて行く。


「と、言っているけど?」


 桐生は、白々しくヴァイスに問う。


「俺かい? まったく関係ないと思うんだけどね、俺は。良いか嫌かを聞かれれば、正直、嫌だけど」


「おいおい、場の流れからいって、そこは引き受けて格好がつくってもんだろうに。空気を読まない奴だな、まったく」


「誠司、君も勝手だねぇ」


 そうぼやいても、顔を上げると皆、白眼視をヴァイスに向けている。まるで彼一人が悪い。しかもこの転嫁のしようは、基地内の面々も研究所の面々も同じである。普段では絶対に見られることのない、二施設の連携である。


「どうなんだ?」


「俺は今日、ここに来たこと自体が間違いだったのかな? 時間を戻してもらえるなら、ここに来る前に戻りたいものだよ」


「よし! なら決まりだな」


 部外者のヴァイスの良心で、とりあえずは一件落着である。


 彼は用件の詳細を聞きに研究所の面々と基地を出ていく。基地の面々は日野原絵美を囲う。


「それで、絵美をどうしようか?」


「ヴァイスの言う通り、上で雇ってもらうのが、一番都合がいいよな。それでも一度、所長に話してみないことには始まらないので、とりあえずは…」


 一斉に村田を見る。


「収まるところに収まるってことよね」


 二人の仲が戻ったのなら、また同棲を始めたほうが良い。仮にUWに組み込まなくとも、彼氏の眼下に置いておければ、問題は少ないからである。弥生も村田の甲斐性を期待する。村田もそのつもりで、絵美に戻ってくるように言った。ところが日野原本人は次のような返事をする。


「あたし、勝のアパートに戻るつもりはないわよ」


 それも、随分とあっさりとである。


「絵美、それは村田さんと別れるってことじゃないわよね?」


 弥生は恐る恐る訊ねた。絵美はニッコリとする。


「違うわよ。それはないわ。当初は出て行ったことをやり直したいと思っていたけど、弥生や桐生君たちにここまで連れてこられて、勝の本当の仕事を目にできて、自分も不思議な体験をして、やっぱり出て行ったことが全部悪かったって思えなくなってきちゃったのよ。色んな部分で自分も変わらなきゃっていう気持ちはいまでもあるし、ううん、前以上に強く思うようになったから、だからもう部屋に戻るつもりは、ないの」


「頑固と言うか、強い姉ちゃんやな~」


 穂高は腕組みをしながら感心する。ここでも絵美はニコリとする。そしてすぐに彼女の視線が村田に移る。


「俺は、それでも構わないよ。絵美が出ていった理由もわかった今、俺自身、同棲にそれほどこだわりもないからね。ただ、一緒に住まないとなると、場合によっては監視がつくことになるかもしれない。それがいやなら、冗談ではなく本当に上の和菓子屋で働いてみるのがいいと思う。働くといっても、絵美はまだ大学生だからバイトみたいなものになると思うけど」


「私、それについてさっきからずっと考えていたんだけど、本当にここで雇ってくれるっていうなら、私のほうからお願いしたいの。もうちょっとあなたたちの仕事について知ってみたいし、自分の変な能力について、もう少しスッキリとしたいから」


 二人見つめ合っていたと思うと、二人して俯く。語り合えたことが嬉しいのか、皆の前というのが恥ずかしいのか、桐生たちにはその「間」が歯痒い。歯痒いが、無理に壊したいとも思わない。沈着冷静との印象の村田も案外不器用である。桐生は親指を立てて入り口を指すと、


「ピサルモって不思議な生き物を捕まえてあるんだけど、それから見学してみる?」


 絵美は晴れた顔をして、


「…うん、よろしく」



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