基地に仕掛けられた盗聴器(後編)
穂高たちを余所にヴァイスが俯きながら黙して耳を澄ましている。何かに集中しているように滋には見えた。
「あの、どうしたんですか?」と聞く。
「うん? いや、いま誰か、この基地に入ってきたんじゃないかな、と思ってね」
「何、本当か? こんな時間に基地に残る人なんて、通常なら穂高のじいさんか村田さんくらいしかいないはずだぜ。それとも所長か?」と桐生もすぐに反応する。
「どうかな。俺の感覚が確かなら、一人じゃないな」
「レーダーとか機械じゃなくて、感覚ですか?」
滋には意外だったようで口を丸くしている。
「うん、感覚」
そうヴァイスは微笑するが、すぐに味気のない顔をする。その顔を、この訓練所の入り口の方へ向ける。つられて滋もそちらへ振り返ると、白衣を着た男が三人、横に並んで立っている。どの顔にも見覚えがある。
「おわ! なんや、お前ら何しにやってきたんや?」
白衣の男たちの正体は、穂高が毛嫌いする研究所の面々である。真ん中の男が三人のうち最も背が低い。皺の具合から歳にして五十後半か六十歳程。黒い角渕のメガネに七三に分けたゴマ塩髪のこの男を、穂高は特に嫌っているようである。他の白衣の男たちは共に三十歳くらいか。どれもメガネをかけて見るからに研究者といった気真面目そうな顔をしている。
「誠司、あれ、僕の力を調べていた皆さんだよね?」
「そうか、お前もここに来る前にあの人らに結界について一度調べられたんだったな。それにしてもなんであの人たちが… 俺たちが研究所に行くことはあっても、あの人たちがこの基地に来るなんてなかなかないんだけどな」
真ん中の研究員が半歩前に出る。
「穂高さん、貴重な才能を持った人材を見つけながら我々に報告しないというのはあなたの悪い癖です。時間を跨げるなんて能力はこの世界でも『あちら側』でも貴重なのは、あなたもご存知でしょう。もし『あちら側』の住人に知られて向こうに連れて行かれでもしたらどうするつもりなんです?」
これには穂高も煽られて、
「ちょっと待てや、宮下。お前らどうしてそのことを知っとるんや?」
宮下と呼ばれた真ん中の男は咳払いを一つしてその質問を聞き流そうとする。滋や弥生は桐生の持つ盗聴器に視線を落とす。
「ああ、なるほど、こいつを設置したのはあんたたちってことか…」
「お前ら、いつにこんなもんを取り付けたんや?」
宮下の咳払いがまた一つ飛び出る。
「バレてしまっては仕方がないですが、先月にここのエレベーター等を修理したときにつけてもらっておいたんですよ。最近のあなた方の組織ぐるみでの奔放な動きは目に余るものがありましたからね」
「なんや、上からの命令か?」
「いえ、我々の独自の判断です」
「お前、それこそ勝手な行動やろうに。わしらの会話が別の人間に傍受されていたらどうするつもりやったんや?」
宮下は何とも答えない。相手に返事がないと穂高は睨み続ける。すると向こうも怯まず睨み返してくる。二人、よほど仲が悪い。年寄り同士の意地の張り合いなどみっともないものだが、それでも毎度のことだと、滋を抜いたUWの面々は、呆れて面倒がって割って入ろうともしない。ヴァイスはニヤニヤとし、滋はそわそわとする。絵美にいたっては何が何やら。
続きます




