マインドプレッシャー(後編)
「絵美、本当に大丈夫? 私にもどうなるかわらからないよ」
「弥生、大丈夫。もう、ここまできたらやってみないと気が済まない」
「話が決まったね。なら、攻撃するよ」と改めてヴァイスの目付きも鋭くなる。
「おっと、その前にトランプだ。日野原さん、俺がいま引いたカード、ヴァイスに攻撃されたら当ててみて」
「うん」
「なるべく君の彼氏のことを考えていてね。じゃ、いくよ」
「お願いします」
翳したヴァイスの掌の指の間隔がさらに開く。直後、日野原の瞳孔が開く。直立不動から前のめりになると、その場で震え出す。
「絵美! 大丈夫か!」
村田の声が荒々しい。
「日野原さん、どう? 俺が引いたカード、わかる?」と桐生は聞き取りやすいようにゆっくり大きな声を出す。
「気持ち悪い… 何度やっても泣きたくなってくるけど… そのカード、『スペードの3』ね」
引いたカードを晒してみると、確かにスペードの3。絵美は心的プレシャーに苦しみながらもニヤリとする。
「ヴァイスさん、日野原さんにかけた攻撃を解除してやることはできないんですか?」
滋が斜めに見上げながら訊ねる。
「ちょっと、それは無理かな。一度植えつけてしまった罪悪感は、その人の精神が勝手に膨らませるからね。それに、そういった心的プレッシャーに打ち勝つのもその人の気持ち次第だから。そう案ずるよりも、彼女の気持ちの強さを信じてあげたほうがいいと思うよ」
そのうち、ヴァイスの言葉どおり絵美の全身の震えも落ち着いてくる。
「絵美、体のほうはなんともない?」
「弥生、ありがとう。うん、体のほうは大丈夫。気持ちはまだモヤモヤとして不愉快な感じだけど、でも、だいぶ割り切れてきた。それに、また過去に戻れたわけだし。自分のこの体験が本当に自分の身で起こしているんだって、なにか実感も持てたから」
「過去に戻る前の世界では、俺は君に何発くらい攻撃したかな?」
「二回よ。二回目は本当にきつかった。殺されるっていうか、自分なんか死んでしまいたいなんて思ったんだから」
「それは失礼。でも、なかなか強いね。そんな状況から戻ってくるなんて常人とは思えない」
「気持ちが回復したっていうより、その前に過去に戻っちゃったから… 戻った先が一発目を放たれるほんと直前だった。おかげで合計三発放たれた訳だけど…」
「なるほどね。いまの答弁で、確信はないにしても、君の能力が本物だろうと思えてきたよ。それにしても特殊な才能だ。自分自身で出し入れできないが時間を超えられる。いろんな意味でレアだよ」
より確証を得るため、ヴァイスは今の実験をもう二、三度繰り返すことを提案するが、絵美本人がさすがに拒否する。彼女曰く、自殺を考えるほど自分に自信がなくなって自分自身が嫌になったそうだ。ヴァイスのマインドプレッシャーを受けたことのない弥生や滋でも想像しただけで不愉快になる。
「勝には本当に悪いことをしたなって、そう改めて反省させられた点では、ある意味あり難いことだったんだけどね」
「絵美、あんた、強いわね」
「でも、そう反省できたことで、あの罪悪感のドツボから抜け出せた」
滋も一入に感心して、
「前向きですね。でもそれで気持ちが強固になったのなら結果オーライかもしれないですよね。いっそ村田さんも攻撃してもらって立ち直ってもらえば、二人の仲がもっと強く結ばれるかもしれませんね」
と、悪気も無く言う。弥生も絵美も、その手があったかと村田へと振り返るので、冷静な男が珍しく血相を変えて遠慮した。
「男女の仲って難しいね。一方的に愛情を注いでも、相手のプライドも育てないと駄目なんだろうね」
ヴァイスの口から恋愛の弁が漏れる。それは何も恋人関係に限らず、上司と部下にも当てはまると付け足して桐生を見る。
「面倒くさい」
「誠司って、あんまり女の人にもてないだろ?」
「うるさいよ」
続きます




