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マインドプレッシャー(前編)

「いったい、何をされるの?」と絵美は不安そうな顔をする。


「結構、簡単なことでね、日野原さんだっけ? これから君を俺の能力で攻撃しようと思う。大丈夫かい?」


 ヴァイスは物騒なことを訊ね返す。絵美にはどう答えてよいものかわからない。彼氏である村田が代りに、


「確認したいが、攻撃というと、例の衝撃波のことかい? 誠司ならともかく、普通の人間がアレをまともに受けてはタダでは済まないだろう」と聞く。


「俺のプレッシャーは二つあってね。物理的に衝撃波を与えるものと、人の精神に罪悪感にも似たプレッシャーを与えるもの。彼女に仕掛けるのは、もちろん二つ目の方だけど。どう?」


「実際、その精神への衝撃を与えられた人間というのはどうなるんだ?」


 共に冷静に客観的に物事を捉え、論理的に話そうとする為か、ヴァイスと村田は話し方が似ている。


「こちらの力の加減にもよるけれど、いわゆる精神的に弱い人だと苦しいかな。そのあたり、実際に喰らったことのある誠司に聞くと詳しいと思うよ」


「俺か? おう、まあ、何せ吐き気がするくらい追い込まれたような嫌な気分になるね。気持ちがロウのときなんかは一日寝込みたくなるくらい。ついでに言うと、俺に対しては物理的な衝撃波と同時にマインドプレッシャーも混ぜて放ってくるから、ホント、性質が悪いね」


「なるほど、人為的に絵美の精神を追い込むとはそういうことか。それによって過去に戻してしまうと… うん、俺の見解からすると、それはそれでやはり危険かな。軽々しく許可できるものじゃないよ。誠司の性格でもそれくらい精神的に追い込まれるなら、下手をして彼女の精神が崩壊することだって考えられるからね。それに、彼女の能力は、俺との間に関わるひどい罪悪感に見舞われた際に限って発動するという可能性が高いんだ。ただプレッシャーを与えればいいという話でもないのなら、そのやり方では効果のほうも薄そうだよ。初めから可能性が低いとわかっていることにしてはリスクのほうが大きすぎる」


「優しい彼氏だね。誠司とは大違い。俺としても、どんな精神的プレッシャーを与えられるかコントロールできるわけでもない。その人のそのときの精神状態、気持ちの傾注、過去の罪悪感などで、受ける精神的苦痛が違うようだからね。村田さん、確かにあなたの言うとおりだよ」


 ヴァイスもまた許可が下りなければ無理にでも実験を行うつもりはない。自分の足労も省みず、被験者のことも考える姿勢や優しさなども村田と似ている。滋の目には彼らはどこかフェミニストにも映る。さて、このままヴァイスの出番はないかと思われたが、許可できないとする村田の心配を余所に、ズイッと絵美がヴァイスの前に立つ。


「私は、一度ならやってみたい。あなたたちが何を話しているのか、何となくしかわからないけど、でも、何もしないで終わるというのも、なんだかアパートを出る前の自分と何も変わらない気がしてちょっとイヤ。それに自分の気持ちの強さもどれくらいなのか知りたい。この人や桐生君が言うようなら、逆に気持ちが強ければ耐えられるということよね? それで、もし私の過去に戻れるっていう現象がまた起こせたら、儲けた話じゃない。私自身は攻撃というのをされても構わないわ」


 予想に反して根性がある娘である。村田はもちろん、桐生も弥生も滋も穂高も、ヴァイスでさえも瞠目して、少しの間、返事も忘れる。


「女の子に、攻撃をされても構わないなんてなかなか言われるものでもないね。俺の人生で、そんな経験あったかな? とにかくその気持ちの強さはなかなか能力者っぽいね。彼女からは魔法力をほとんど感じないけど、条件付能力者といった、ちょっと変わったタイプなのかもしれない。俺としても試したくなってきたよ」


 ヴァイスは絵美の顔の前で掌を翳す。


「冗談ではなくて、本当にやるの?」


 村田は珍しく焦る。だが、絵美の意思は変わらない。無言で頷くその目に熱意がある。すでに村田の許可など必要としていない。



続きます

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