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恋人同士の再会

 すでに夜も遅い。日野原絵美を連れて基地に向うことも明日にすればいいものを、善は急げで思い立ったら吉日の桐生の一声ですぐに車を走らせている。車内、四人満杯のその中で、彼女の能力云々よりも、今頃もまだまだ働いていると思われる絵美の彼氏こと村田について話す。どう引き合わせるか、どう説明するか、当の彼女を前にUWの三人は頭を悩ます。絵美も、不思議な現象を追いかける組織の基地に行くということへの覚悟は出来ていても、自分から部屋を出て行ってしまった彼氏と再会することまで臍を固めていない。一人緊張に身を縮ませている。そのうち車はあっさりと和菓子屋の前まで到着するが、彼女の心の中は未だ落ち着かない。


「ついてしまったけど、さて、どうする?」


「どうするも何も、基地に連れて行こうって言ったのはあんたなんだから、しっかりプランを立てなさいよ」


「俺のプランでいいなら、先ほどから何度も言うように、村田さんに会わせて、その情報量から彼女の能力を推測してもらおうじゃないかと、これだ。穂高のじいさんだって間違いなくいるんだ、あの人も呼んで、俺たちだけで彼女の能力を解き明かす実験をやるぞ」


 桐生は他の誰の返事を待たず、そのまま車を降りて、照明が落ちて暗くなった和菓子屋の裏口へと回る。弥生は桐生の案に概ね賛成だが、村田と会わせるという件だけ受け入れ難い。さっさと先行する桐生の態度に苛立ちながら、かといって車の中に居たって仕方はない。


「とりあえず訓練所に連れて行くわよ。村田さんを呼ぶかどうかはその後に決めるわ。滋君、君が絵美を連れて行ってあげて。私は誠司の勝手を止めてくる」


 弥生も急いで車を降りて走って桐生を追いかける。車内に残された二人は顔を見合わせて、慌てるでもなく、すぐに降りようともしない。


「あの二人、仲いいわよね」


「あ、わかります? 口喧嘩ばかりしてますけど、相手のことをわかっていないとできないことだったりするんですよね」


「実はすでに付き合っていたりだとか?」


「いや、わかりませんけど、多分違うと思いますよ。弥生さん、他に好きな人いるようですからね。何となく、それが誰なのか想像はつくんですけど」


「ちょっと、それ誰よ。教えなさいよ」


「いや、まだ確信があるわけじゃないですから… 日野原さんの知らない人ですよ」


「あの娘、自分の恋愛の話になると上手くはぐらかすから、こっちとしてはいつも歯がゆい感じがするのよね。それにしても佐久間君、君もこういう話、嫌いじゃないわね」


「そういう日野原さんこそ」


「うん、そうね。ああ、いまの話で、少しは落ち着いてきたわ。覚悟も出来た。とりあえず、あの二人の仲を見極めてあげるわ」


「目的が変わってきましたね」


「それぐらいじゃないと、私だって普通じゃいられないの」


 彼らも裏口から和菓子屋に入り、基地のある地下へと下りる。絵美は滋の後について興味津々に壁や天井に目を配って落ち着きがない。訓練所につくと穂高がすでに待機している。


「なんか、ようわからんが、レアな能力者の卵が見つかったって?」


 紹介も済む前に穂高は難しい顔をして絵美を下から上へなめるように見る。絵美は眉間に皺を寄せるが、それは初めて穂高を前にすれば誰だってそういう態度になる。


「この人の雰囲気、小学校のときの図画工作の先生に似てる。やっぱり変わり者として児童の間で見られていたけど」


 日野原は逆に穂高の人品を見定めて滋に耳打ちしてくる。滋は苦笑いをする。


「時間を戻せるとか聞いたんやけど、さっそく見せてくれんか」


「できます?」


「ううん、いきなり戻ったりするから、自分の意思ではちょっと…」


「と、いうことです」


「なんや、本当に卵やな。あるいは気のせいか。それでももし本当に時間関係やったら、研究所に渡すのは勿体ないわな」


 穂高もようやくニヤリとする。そこに弥生もやって来る。


「絵美。いま、村田さんも下りてくるから。気持ちの準備はいい? 誠司の奴、さっさと村田さんに絵美が来てること話してしまって、本人も会う気でいるの」


「え? あ、そうなの? うん、とりあえず、いつでも、いいわよ… 多分…」


 まだまだ動揺は打ち消せない。すぐに桐生も中に入って来る。その後ろには村田の姿もある。


 まだ恋人同士であろうに、いまも互いに好きでいるはずだろうに、約一週間ぶりに対面しても絵美と村田は前のようにくだけた表情を見せ合えない。絵美にしてその自覚があって硬い顔を解そうと頭で言い聞かせているのだが、体が反応しないのである。共に澄ました顔をしていれば喜怒の判別もつかず、妙な空気が二人の間を漂う。


 同棲していた部屋を自分から、特に理由も言わずに出ていって、久しぶりに会ったその相手が実はそれまで聞かされていた仕事とは違うことをしている。それが常識的な範囲内で違うならまだしも、常識では捉えられない非日常的な事象を扱う仕事をし、そして自分自身もまた非現実的な体験をして、その繋がりのもと再開するこの運命を奇妙と呼ばずして何と呼ぶか。絵美は、村田との再会によっていかなる心の苦痛をも覚悟していたが、実際に目の前に立つと二人の思い出ばかりが走馬灯のように過ぎっていく。まだ一言も交わしていないというのに、その目まぐるしさに眩暈をおこして真っ直ぐ立っていられなくなる。あの日、コップを床の上に落としてしまったときも、先ほど弥生たちと村田のことを話していたときも、彼氏のことが頭を過ぎって目が回りそうになり、そして時間が戻っていた。今この時も…


 ハッと気が付いた次には、彼女は訓練所へと向う廊下を滋の後について歩いている。やはり、また戻っている。先ほどは落ち着きなく周囲を見回しながら歩いていたが、一度見てしまったものに新鮮味もない。今度は滋の後頭部を見つめながら歩き、男子のくせに羨ましいほど髪がサラサラとしてボリュームもあるので、将来白髪になることはあっても禿げることはないだろう、などと考える。次には佐久間滋の体つきに注目して、華奢なつくりから、正面から見る以上に後ろ姿が女子のそれと見えてしまう。そのまま訓練所に入って穂高に会うと、こちらは何度見ても、どう見ても変人であろうと思えてならない。彼女は、戻っていながら戻ったことを誰にも示さない。弥生もやってくる。心は準備万端。桐生もやってきて、そして村田の姿を目にする。面と向き合うと、


「お久し、ぶり」


 歯切れは悪いが自分から声を掛ける。それが一つのけじめであるかのように彼女には思えた。表情も自然と柔らかくなる。一方の村田も、持ち前の人の良さと優しさで微笑んでくれる。彼女が出ていったことの憤りも口惜しさも露と見せない。こうやってまた再会できることを、あたかも信じ切っていたかのような顔である。


「なんじゃい、お前ら。二人だけの世界に入って、仕事やないんか?」


 事情を知らなければ水を差すのも仕方ない。


「そうだ、仕事だった。不思議な力を身につけたんだって?」


 村田も我に返っている。


「うん、自分でもよくわからないけど、そうらしいの。時間が戻るというか… 実は、さっきも戻ったばかり…」


「詳しく聞くよ。それが俺の仕事だから」



続きます

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