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日野原絵美とその友人

 基地を出たときには夜も更けて、見上げれば満天に星の輝き。以前のプラネタリウムでの戦闘以来、星に興味を持った滋はしばらく見上げていたくなるが、桐生が運転する車のヘッドライトでそれも挫かれ、すぐに乗り込めと催促される。寄り道もせずに村田の彼女のアパートへとひたすら向う。到着して部屋番号から部屋の位置を確認する。それは二階にある。どうやら留守なのか明かりが一つも点いていない。試しに玄関前まで足を運んで呼び鈴を鳴らしてみても、やはり応答がない。


「やっぱり明日、学校で探してみるのがいいと思うよ。多分、実家に帰っているんだよ」


「実家か、調べればすぐ分かりそうなものだけど、アパートと違って実家の呼び鈴を鳴らすのはちょっと勇気がいるな。結局、お前の思い通りになるところが口惜しいけど、まあ、仕方ないか」


 そう諦めがついて踵を返したとき、女性が二人このアパートに向って歩いてくるのが見える。両眼を凝らしてみると、


「あれ? 弥生だ」


「ねぇ、あの隣の人、村田さんの彼女さんじゃない? もらった写真と、ほら、同じだよ」


 しかも女性二人は、友人同士のように仲良く喋りながら歩いてくる。


「そういえば、あいつ、今日は友だちと会うとか言ってなかったか?」


「うん、言ってた」


「つまり…」


「…そういうことだよね」


 再び女性二人の顔へと振り返る。十中八九、間違いはない。


「ラッキー! これで話がしやすいってもんだ」


 桐生たちは玄関前で弥生たちが上がってくるのを待つ。玄関前で彼らの存在を目にした弥生は顔を引き攣らせた。


「ちょ… ちょっと、何であんたたちがそこにいるのよ!」


 弥生の反応も尤もである。


「お前のほうこそ、どうしてその人と一緒なんだ?」


 と、桐生が聞く。弥生はそこで一度勿怪な顔をした。


「友だちだからよ。今日は相談事を頼まれているからって言ったでしょ。なによあんたたち、この娘のこと知っているの? もしかして仕事がらみ?」


 そう言って今度は急に青白い顔をする。自分の友だちが、非現実的な業界の仕事に何かしらの理由で関わっているというのは、弥生にすれば気分のいいものではない。桐生は弥生の狼狽を性質悪くニヤニヤと面白がる。日頃から文句ばかり言い合っている二人だからこそ、心情心理の推し量りも、その隙を笑うことも手馴れている。


「弥生、この人、知り合い? あれ? でもこの人って、桐生君なんじゃないの?」


 女は口を丸くして指差してくる。初対面である桐生にはどうして自分の名前を彼女が知っているのか謎である。


「絵美、こいつのこと知っているの?」


「桐生君って、大学じゃ結構有名じゃない。むちゃくちゃ運動神経のいい人ってことで。バスケ部に顔を出しているって話だけど、でも、むかしからどうしてか公式の試合には出ない変わった人だってね。本当は改造人間なんじゃないかって」


 日野原絵美の声は弥生と比べてやや低い。二人並んでいると、弥生は美形で顔も小さくスタイルもいいが、その彼女が子供っぽく見えるほど日野原の顔はさっぱりとして垢抜けている。初対面の桐生にも物怖じせず、はしゃぐようにそう言う。


「改造人間って… 俺って、そんなに有名なんだね。初めて知った」


「弥生、桐生君と知り合いなの? もしかして前に話してた好きな人とか?」


 と、唐突に人の色恋に関わる事まで口にする。物怖じしないのも度が過ぎて遠慮がない。だが、この手の話を好んでいながら自分からは聞くに聞けずにいたムッツリな滋にすれば愉快である。それにしても日野原はえらく上機嫌に訊ねている。思い悩んでいた村田とは対照的に随分と元気である。さて、問われた弥生はといえば、しかし動揺する様子もない。


「全っ然、違うわよ。ただの仕事仲間」と声に力瘤を作って否定する。


「仕事って、弥生が前に話してくれた不思議な現象を調べたりする探偵だったかの、あれ?」


「うん、そう」


「へぇ、納得。桐生君って絶対普通じゃないと思っていたけど、なに、やっぱり弥生と同じでエスパーみたいなものなの?」


「うん、ちょっと違うけど、そんな感じ。あいつはもっと原始人みたいなものだから」


「原始人だと? 超細胞活性は原始的魔法力だっつうのに」


 日野原絵美の口振りだと、弥生は業界のことを以前より彼女に喋っている。


「ねぇ、一般の人に自分の能力のこと、こんな普通の会話のように話していいものなの?」


 滋は小声で桐生に訊ねる。


「うん? まあ、感づかれてしまっているっていうなら仕方がないんじゃない? マスコミ関係でもないし、友だちを裏切るような友だちでもないならね。いちいち記憶を消しても、どうせまた感づかれるだろうし、組織の重要なこととか、自分の能力の詳細とか喋らなければ問題ないと思うぜ。怖いのは下手にこの業界に首を突っ込んで事件に巻き込まれることだからな。下手に隠して詮索されて足を踏み込まれるよりいいかもね。他言しないにこしたことはないけど、仕方のないものは仕方がない。あまり深く考えなくてもいいと思うぜ。深く考えるのは、もっと上の人間がやることだからな」


「そういう、ものなの?」


 こう言葉を交わしていると、日野原が今度は滋のことを、目を細めて見つめる。


「あれ? こっちの彼は、もしかして佐久間君?」


「何よ、絵美。あんた滋君のことまで知っているの?」


「知っているも何も、この子も有名じゃない。あら、この子なんて言っちゃった。超美形で女の子みたいな男子がいるって、一部の女子にはファンまでいるくらいよ」


 一人活き活きと喋る絵美と比べて、UWの三人は間の抜けた顔をしてしまう。


「お前って、有名なんだな?」


「私もいま初めて知った。へぇ、この顔が」


 桐生と弥生も滋の顔を目にして軽い感心を口にする。


「ほら、弥生はどちらかというと女性顔より男性的で整った顔のほうが好きじゃない? だから興味がないのよ。私も好みじゃないけど、一部じゃほとんどアイドルなんだよ」


「性格、頼りないのにね」


「そこがツボだったりするんじゃないの?」


「滋君、知ってた? 自分がそんなにモテてたこと」


 滋にしたって何が何だか。褒められ慣れていないのもあって、恥ずかしさにやたらと顔を赤くする。


「いや、全然… そんなの知るわけないじゃないですか…」


「お前、何をそんなにドギマギしてんの?」


「あら、ホント、面白いわね」


 気が付けば自分一人が桐生たちに玩具にされているようで、滋は俯いてしまう。


「ねぇ、佐久間君とも知り合いってことは、佐久間君も弥生と同じ仕事仲間って、そういうこと?」と絵美がまた聞く。


「うん、そういうことよ」


「あなたたち、ホント何者? 探偵なんて言って、本当は芸能人の事務所とかに入ってるわけじゃないわよね。弥生も黙っていれば可愛いし」


「黙っていればって、失礼ね。でもそんなんじゃないわよ。滋君はともかく、誠司が芸能人になれる顔だと思う?」


 今度は桐生をまじまじと眺めて、


「微妙ね…」


 村田の彼女でなかったら川にでも放り投げてやりたい、と桐生は思ったとか。



続きます

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