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不肖桐生誠司も手助けします

「おや、こんなところにいた」


 突然開いた部屋の扉に滋と村田が振り返ると、隙間から首だけ出して桐生が覗いている。滋は、自分自身に疚しいことはなくとも、村田の話を聞き知った後では、いまだ何一つとして行動を共に取っていないにも拘らず、まるで自分も共犯者との心地がして落ち着きがない。早口にて、


「誠司どうしたの?」


「どうしたもこうしたも、後についてきていると思ったら、いつの間にかいなくなっていたのはお前のほうだろ。まあ、そんなのはどうでもいいんだけど。穂高のじいさんの催眠術セット、開発課をあちこち探したんだけど見つからなくってね。ほかの部屋に転がっていないかと思って探しに回っているんだよ。この部屋には… なさそうかな?」


 滋はチラリと村田を見る。再び桐生へと振り返ると、目を合わせるだけで粟が立つ。


「いや、ないと… 思うよ…」


 あきらかに歯切れが悪い。


「ふ~ん」


 桐生は鼻を鳴らしてズケズケと部屋の中へ入ってくる。イスを引いてみたり、デスクの下をのぞき込んだり、引き出しを開けてみたり、勝手に探し始める。無理に止めるのも却って疑われるので、滋も何もできない。そわそわしながら桐生の行動を見守る。村田のほうは、どう心を整えているのか涼しい顔をしている。


「気が済んだかい?」


「うん、この部屋にはなさそうだね。やっぱりないねぇ。ほんと、どこにいったのやら。とりあえず別のところを当たってみるよ。御邪魔さんでした」


 諦めついた顔をして部屋を出て行こうとする桐生は、その間際に滋に向って一瞥をくれる。一つ鼻で笑ってから部屋を後にする。何やら薄気味悪い。


「佐久間君、君は本当に素直だね。何もそこまでひた隠そうとする必要もないだろうに。俺自身、あのセットを勝手に持っていったこと、バレてしまったらバレてしまったで、すぐに観念する用意もあるよ。いくらでも言い訳もつけられるしね」


「そうなんですか? そんな、観念することも覚悟できているなら、いっそ記憶を変えるなんてことも、やらなくてもいいんじゃないかと思いますけど… もしや本当は、誰かに止めてもらいたいとか、そういうことじゃないですよね?」


「さあ、それはちょっと… いくら自分の心とはいえ、わからない、かな」


「あの… 催眠術セットはいまどこにあるんですか?」


「そこの俺のカバンの中だよ」


 指差した部屋の隅、ハンガーに吊るされたスーツの足元にチョコ色の革のリュックが見える。


「あの… 正直、僕には自信がないと言うか、村田さんと村田さんの彼女さんの仲介役なんて、僕には大役過ぎて出来そうにもありません。催眠術をかける手伝いならまだしも、こういうことは、僕なんかよりも誠司のほうが得意のような気がするんですが… 色々な方面で、対外的な交渉も慣れているみたいですし。隊長だけあって、まとめるのも、決して下手じゃないと思いますし…」


「誠司がかい? うん、君の指摘は間違ってはいないけど、だからといって、俺のこの件に関して彼が適任であるとはやはり思えないかな。彼は立場上の責任があるし、その責任を放棄するような男でもないからね。彼は、平塚君よりも頼みづらいよ」


「弥生は性格上、俺なんかよりもっと頼みづらいと思うよ~」


 いきなり割って入ったその声は桐生のものである。出ていったと思っていたのにこの不意打ち。


「あれ、誠司? ど、どうしたの?」


 この期に及んでも滋はまだ誤魔化そうとする。


「いや、ちょっと忘れ物をね」


 桐生も桐生で白々しい。


「え~と、何を?」


 それには答えず真っ直ぐ部屋の隅へとスタスタ歩いていく。


「村田さん、このバッグ、開けてみていい?」


 村田は鼻から嘆息を漏らして、


「いいよ」


「おお、あった、あった。ありゃ、でもあれだね、粉のほうは量がもうほとんど残っていないんだね。どうせ補充しなきゃいけないんなら、別に躍起になって探さなくてもよかったなぁ… さて…」


「何だい?」


「村田さん、これで何をしようとしていたんです? こんなの勝手に持ち出して、まあ、穂高のじいさんしか怒らないと思うけど… 側耳立てていたら、自分の記憶を何とかどうとか? 消したい記憶でもあるんですか?」


「まあ、そうだね。そこまで知られてしまったら、もう隠しても意味がないから白状するけれど、プライベートのことでね」


「恋人ですか?」


「そうだね」


 桐生はずっとニヤニヤしながら話を聞く。


「だったら、余計に弥生じゃ無理だな。俺のほうが絶対に適任。で? 何があったんです? じいさんには内緒にしておきますから、聞かせてくださいよ」


「誠司、君は冷やかし半分だな?」


「いやいや、いやいや、そんなことはないよ。心優しき人生の先輩で組織の大事な構成員のためと思えば、不肖ながら、この私めも手助け致したいと思うのが人の性。純粋な気持ちからですよ、ダンナ」


「なるほど、もう半分は遊び心か。それでも、そこまで知られて、セットも見つけ出された今となっては、断る理由も術もないか。わかったよ、お前にも相談に乗ってもらうよ。願わくば、俺の想像を超えた、とてつもない解決策を導き出してくれることを期待するよ。それができそうになかったら… 平塚君にも頼もうかなぁ」


「それはホント、やめたほうがいいよ。がさつなあいつに相談、しかも恋愛の相談なんてしても時間の無駄。そんなことする奴いるのか? っていうくらい。せいぜい血迷っている人だけだと思うよ。そんな奴がいるなら一度顔を拝んでみたいものだね」


「彼女も彼女でいい娘なんだけどね。ほどほどにしておかないと、またどこかで罰があたるかもしれないよ」


 二人がどこまで本気で、どこまで冗談でモノを言っているのか、滋にはその境が見えてこない。咎められる心配はとりあえず拭えたが、これで良いのか、悪いのか。



続きます

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