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五歩目

「はいはーい、悪いけれど通してくれないかなー?

この国の次期帝王に謁見願いたいものでねー」


砂漠を飛ぶのはあっという間だった。

前と同じように気球で向かったのだが、今まではさほど風が吹かなかったのに。

城門に着くなり、ユキラは威圧的な態度で門兵に話しかけた。

当たり前だがこの態度では門兵も頭に来てしまう。

しかも見ず知らずの者が、次期帝王に直接謁見を賜りたいなどと。


もちろん不敬罪で牢に入れられた。


「…えと、ユキラ…

王様にお会いしたい時にあんな態度じゃ捕まるのも仕方がないよ…?」


がっかりと肩を落とした菜々の背を、ユキラは軽く叩く。


「もちろん。これは計算ってやつです。

次期帝王に会うためには城内へ入らなければいけないですからね。


………よし、抜けた」


かつん、と鉄格子の一つをくり抜いて見せ、

あっさりとユキラは牢を抜けた。

驚く菜々。脱獄などして無事に済むのか、しかもこんな緊張状態の国で。

いつにもなく頭が冴えていたが、この時ばかりはユキラの行動の意図も掴めなかった。


「ユキラ、ねぇ…この中知ってるの?

城内ってどこもかなり広いんだよ?」


さくさくと見知ったように歩くユキラ。

手を引かれながら菜々は歩くが、もう牢への道をすっかり見失ってしまった。

そもそも場内が広いのは、侵入者を逃がさないためでもあるのだ。

初めて入った者ならば、すぐに迷ってしまうだろう。


「ええ、実は昔、短い間ですが、ここに雇われてました。

ですので、多少は勘で動けますよ。

……む、ここっぽいな」


ある一つの堅牢な扉の前で立ち止まる。

菜々は先ほどから衛兵に全く会わないことを不思議に思っていた。

今、この国は戦争状態。

多くの兵士が戦場に行き、場内の半数の者が留守にしている。

城内の衛兵も主要な一角にしか集中していないのだ。

たとえばここのような…王族の間のような。


だがなぜかこの扉の前には誰もいなかった。

ちょうど時間の隙が幸運にもあったのだろうか。

ユキラと菜々はすぐに扉を開け、中に転がり込んだ。


「…お・王子!

ししし…侵入者です!!!」


一人の衛兵と側仕えの少年が、目の前に座っていた。

悲鳴を上げる少年をよそに、衛兵はすらりと剣を抜く。


「ここは次期帝王ガミューオ様の寝室である。

早々に立ち去らねばお前たちを斬る」


思わず声を上げそうになる菜々だが、ユキラの堂々とした表情を見て、震えながら剣に対峙する。

菜々の少し前に立ち、ユキラは剣など見えていないかのように鼻を鳴らした。


「あー、下っぱくん。ガミューオ陛下はどこにいます?

ユキラがお会いしに来たと伝えてください」


「な…なんだ貴様、その態度は!!

それにまだガミューオ様は即位してはおらぬ!」


かっと赤くなる衛兵

小物を見るかのような目で、ユキラは一瞥いちべつし、 きょろきょろとあたりを見回す。


「あのー陛下ぁ?

ちょっとお尋ねしたいことがありましてねぇー」


挑発しているとしか見えないその態度。

菜々もさすがに冷や汗が垂れる。

衛兵は頭に来たのか、王の間だということを忘れて剣を振り上げた。


「き…きさまぁっ!」




「これ、フチや。我の間で殺生は許さぬ」


静かだが、強い声。

一瞬にして空気が冷たくなる。


――――これが、この国の次期王の圧力。

奥の御簾みすがするすると上がり、その姿を現した。


白い雪のような肌。

金の日差しのような髪は短く揃えられている。

あどけないが、きりりとした緑の瞳。


菜々にとって、初めての他の王族。

自分とは、まったく違う雰囲気。


次期王に、ユキラは軽く会釈をする。


「どーも、ご無沙汰してます。陛下」


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