二歩目
ユキラから話を聞いた菜々は、すっかりやる気になっていた。
処刑日は二ヵ月後の三回目の満月の夜。
まだ時間はある。
「菜々や、お前一人で乗り込む気か?
城内がどんなに広いか、お前なら知っているだろう」
広い敷地内を見つからず一人で乗り込んで、誰にも見つからず無事に家族を救出…。
―――そんなこと、できるのだろうか?
菜々は事の次第に気付いて肩を落とした。
いくら知っている将軍がいたとて、今は魔女の配下。
行きはいいとして、帰りはどこに逃げれば?
見兼ねたユキラが口火を切る。
「修業時代のツテを頼って協力者を募ってみましょう。
姫様なら、きっといい人が見つかりますよ!」
菜々がうつむけた顔を上げる。
三級とて、魔女は魔女。
残酷で人外の力を持つ、天災のような存在。
もし反乱の意思を示せば、一族根絶やしとなるという。
ユキラは苦笑していた。
「ご安心下さい。私に家族はいません。
狙われるかも知れませんが、卑しい身の上、根無し草のようなものです。
お力にならせてください。
…殿下は私の一番の理解者でありました。
姫様の力に、ならせていただきたいのです」
ユキラの真摯な言葉に師匠も頷き、二人は仲間を探す旅にでることになった。
「ユキラ、どこに行くの?」
師匠に別れを告げ、森を歩く。
菜々の足腰は以前より強くなっていた。これも修業の賜物。
ユキラは薬が効いてすっかりよくなっていた。
晴れ晴れとした顔で、やわらかな木漏れ日を浴びる。
「そうですね…ここから、国外れに住むキコに当たってみますか」
菜々は首を傾げる。
「それはどんな人なの?」
ユキラは満面の笑みを浮かべる。
「浪人です、ちょっと癖がありますが。
腕は確かですし、話の分かる奴ですよ」
国の外れに住む浪人、キコ。
一見するとどこにでもいそうな着流しに後ろ結びという髪型。
だがその瞳の色は黄色だった。
満月のような、瞳がこちらをちろりと見る。
「国の王族を助ける、ね…」
彼はつぶやきながら愛刀を布で拭いていた。
「汚れる仕事は、好きじゃない、ね」
浪人キコは、かなりの潔癖症。
汚れ役はやらない主義だった。




