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裏道二つ

ユキラは、魔法使いだった。


魔女が敵としてやってきた今、ユキラの存在は周囲には敵として映る。

キコや破壊屋には、その姿を見せていないので…すぐさまその事実はユキラを追い詰めた。


「…魔法使いだったのか、貴様」


横になったまま、首筋に刃物を突き付けられている。

猫のようににやにやしながら、ユキラは自分の周りにいる男たちを見やった。

まるで、こんな刃物の圧力など、なんてことないかのようで、男たちは唾を飲み込む。


「いいね、この変わり身の早さ。家臣として優秀だ」


ガミューオとキコに護られつつ、菜々はユキラを見ている。

悲しいような、怖がるような、瞳。

正直言うと菜々は困惑していた。

ユキラなしではこの計画は破綻していたに違いなかった。

菜々だけの力ではない。


でも、そのユキラが魔法使いだった…少なくとも、あの魔女と関係が一切なかったとは言いにくい。

笑っているユキラに、キコが歩み寄る。


「ユキラ、お前の目的は何だ。

菜々姫様に力を貸し、家族でもあったあの魔女を退けたのには、何故か」


刃物を突き付けているにもかかわらず、ユキラはゆっくりと体を起こす。

そして―――菜々を見ながら、目を細める。


「我ら魔力を持つ魔女界の人間は、女性が特権を握っている」


ユキラは語る。


「俺の一族はその中でも力を持った生まれが多く、次の魔女を待ち焦がれていて―――生まれたのが、この俺。

男は魔力が弱いため、魔女界ではすぐに追放されるか殺されるかどちらか。

もちろん俺はすぐに殺されそうになったが、当時の魔女界に存在していた最強の魔女である白と黒と灰色の魔女を恐れさせるほどの力を持っていた、らしい」


男の魔法使い。

それは魔女界の崩壊を意味するような存在だった。

後に生まれた彼の妹も、相当な力を持っていたらしいが、ユキラほどではなかった。


「ユキラってのは…魔女界の詞で『罪ある者』。

そーゆーわけで、物心つくまで地下に封じられたまま過ごした。

けど…見張りを仲間につけて抜け出し、白と黒の魔女をたぶらかして、白と黒の魔法を両方修得した。

灰色の魔女にバレて、あやうく殺されそうになったところでとびきりの魔法を使って、この人間界に逃げたわけ。

影になって逃げてきたところを、ガミューオに見られて少し身を寄せたのさ」


そして気象予報士として、自然界の法則と精霊魔術を『ついでで』覚えた。

ユキラは簡単に語るが、そんなことがあの若さでできることが奇跡。

魔法使いとして十分すぎる、才能を持っていたのだ。


「そーいうわけで天才だった俺が目指したのは、人間界の支配!

魔女界が俺の手に入らないのであれば、俺がきっちり素敵な世界を作ってやろうと、そう考えたんだよ。

だから―――『俺の妹』がやろうとしていたことを、横取りしたのさ」


そう、あの魔女は、ユキラの妹。

全員が息をのむ。なぜなら彼らはあの魔女の力を知っていた。

三級魔女である、あの力を退けるほどのユキラの存在。

…彼にとって、刃物など紙切れにしか見えないだろう。


「世界征服。それが目的。

…謎解き終わり」


菜々を見るユキラの瞳は、愉快そうに笑う。

対する菜々は、涙ぐんでいた。


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