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一歩目

菜々(なな)はまだ慣れない手つきで薬草を練っていた。

ここに来て、まだ二週間。

カモフラージュのためにはじめた修業とはいえ師匠は厳しかった。

もちろん生来のドジ気質も手伝ってなかなか上達しないからでもあるが。



菜々は本名を若姫わかひめ・菜々。

三級魔女に支配された宮ノ内国みやのうちこくのたった一人のお姫さまだ。

みかどは彼女をなんとか逃がすことができたが、何不自由ない生活をしてきた奈々にとって、外の世界は異質。

追っ手が来るのを怖れ、森であてもなく歩いているときに、偶然通りかかった今の師匠に出会った。

身を隠していつか国に戻るため、毎日修業を積んでいる…というわけ。


日課である朝の水汲みに歩き出す。川まではすぐ近く。

家の裏手の木陰にさらさらと流れている――その川の岸辺に誰かが倒れていた。


「え、あのっ…死んで、ます…か…?」


肩を揺らすと端正な顔つきがあらわになる。

肩口までのしなやかな髪、きれいな一重まぶた。

一瞬女性に見えるが長身の男。

浅いが息をしている。

菜々は得意の薬草練りを使い、気づけの練り餅を作る。←見習い

緑色をしたそれをちぎって男の口に入れた。 ←見習い






「国の伝令に迷い、果てはこの森へ…それは難儀なことじゃ」


師匠の治療の甲斐あって、なんとか危機一髪で助かった彼。

危うく菜々の失敗作で死の谷に突き落とされるところだった。


「国の伝令って、なぁに?」


師匠の横から顔を出す菜々。

男は暗い瞳になって、拳を握り締めた。


「実は魔女が帝の処刑にいよいよ期日を決めたのです」


帝の処刑…

つまり菜々の父母が殺されてしまう。

驚き、菜々は男の肩を揺らす。


「それはいつ!?

父様と母様は今どこにいるの?!」


身を隠していることをすっかり忘れ、口走る。

さとい男はあっさり気付いた。


「まさか、…そうか。若姫様でしたか!

そうとは知らず…数々のご無礼お許しください。


…このような形での謁見えっけんをお許しください」


腹を抑えながら起き上がり、男は一礼した。


「私は帝より伝令を賜った専属気象予報士、ユキラでございます」


ユキラと名乗った男は、その澄んだ瞳をまっすぐ菜々に向けた。






―――それが、ユキラとの二度目の出会いだった。

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