差と理解と傲慢
彼の口調をどうするかまだ決めてない。
警備を突破した彼は、聳え立つ巨大な屋敷の中に足を踏み入れる。
もとより彼が攻めてきた事は分かっていた為、屋敷に中には武装した兵や
術師たちがここぞとばかりに佇んでいた。
兵士たちは前に、術師は後ろに。基本的な陣形だが、一番やりやすく、強い
だが彼はそれを気にすることも無くゆっくりと、確実に歩を進める。
兵士の中でも上等な装備をした者が声を上げた。
「待ってくれ!!」
彼が止まり、その視線を兵士に向ける。
「なんだ。」
「館の主から、伝言だ。」
「何だ。」
別段気にした様子も無く、彼は問いかける。
それに対して兵士は少し驚きつつも、用件を伝えるべく口を開いた。
「仲間に加われば、それ相応の地位と生活を保障してやる、だそうだ。」
感情のこもっていないような声で、間を空けて彼が問いかけた。
「・・・・・・本気で、それを言っているのか?」
ニュアンス的には、正気を疑っている、というような感じだった。
兵士は少し表情を硬くして、再度口に出す。
「ああ、どうやら本当らしい。」
「さっきまで私を殺そうとしていたのにか」
「そうだ」
「自分の仲間が私に殺されたことを、分かっていっているのか」
「くだらないな・・・・・・心底くだらない」
彼が敵の前で、本当の意味で初めて感情を出した。
その感情は─────軽蔑
「そもそも私は、攻撃されなければ何もするつもりは無かった。
この組織のことも知らなかったし、知っていても興味など無いだろうし、どうでもいい。だが、先に手を出してきたのはそっちだ。こっちは何もしていないのな」
彼は吐き捨てるように言った。
先にもあげたが、彼は自分から何かをするつもりは無い。面倒事を自分から起こすほど、彼は愚かではない。
兵士は言葉に詰まった。館の主から説得するように言われたが、無理なのは分かっていた。今更過ぎる。だが、雇い主に文句を言うなどということはできない。
だから渋々従ったものの、これでは相手の気を悪くしただけだ。雇い主のために死にたくは無いし、こんなことで死ぬのは、無念どころの騒ぎではない。
ふと、兵士の一人が気がついたように彼に問いかける。
「・・・・ひ、ひとつ質問していいか?」
「なんだ」
「こっちが攻撃を仕掛けたのに、なんであんたは俺たちに『今』、攻撃を仕掛けてないんだ?・・・・・あ、あんたなら俺たちを殺すことなんて・・・・簡単だろ」
兵士たちの陣営で、ざわめきが起こる。
仮にも戦闘をしてきて、場数を踏んだ彼らだ。当然プライドもあるし、目の前の男が自分たちを殺せると思っていない輩が、少ないながらもいた。
「貴様、我々を侮辱するか!いくら見方といえど、許さんぞ!!」
一人が声を荒げたが、上等な装備をした兵がそれを止める。
「落ち着け!今争っては、勝てるものも勝てなくなる。」
その一言で喧騒が収まり、静寂が訪れる。見た目どうり、立場も上等なのだろう。
少しして、彼が口を開く。
「単純だ。そっちの主は、間接的でも私に危害を加えた。だが、君達は私に何もしていない。それだけだ。」
質問した兵士が口を開く。
「な、なら、俺がこのままあんたに危害を加えなければ、あんたは俺を見逃してくれるのか?」
兵士たちがまたざわつく。
客観的にみれば、兵士たちが彼の言葉に怒っていると見えるだろうが、
そうではない。一部を除いた大多数が、その質問に希望を持っていた。
彼らもまた、少なくない戦を生き残ってきたのだ。一部を除いて、相手の力量くらいは見抜けるのだ。
彼らは、分かっていた。
眼前の『ソレ』は、自分たちが束になろうとどうにかできる相手ではない、と。
彼が口を開いた。
「ああ。私がやっているのは、安全の確保、とでも思ってくれればいい。危険があれば、誰でも避けるだろう?」
「・・・・・・ああ、そうだな。」
場が、静まる。
質問した兵士が、少し大きな声で言った。
「だ、そうだ。俺はこんな形で死にたくない。俺は・・・・降りる。」
そう言って、彼は武器を納める。
手を上に挙げ、陣営から出て行く。
それを皮切りに、次々と兵が抜けていった。それを見過ごせないものが居る。
古くからこの主に仕えている兵士だ。
「貴様らァッ!!!恥ずかしくないのか!!」
「恥でも誇りでも、命の前には軽いん。少なくとも、今はそう思っている。」
彼が少し驚いたような顔をして言う。
「驚いたな。てっきり攻撃してくるのかと思った。」
「さっきも言っただろ?命は何よりも重い。無駄死にもごめんだしな。」
『男』は、苦笑しながらそう言った。
「そうか。」
彼がそう言った直後、残った兵士たちが襲ってくる。
「危ない!!」
そう男が叫んだが、彼はさして気にした様子も無く言った。
「残念だ。では、その誇り共々、命とともに━━━」
「消えろ。」
彼から濃密な殺気が放たれ、直後に兵士たちの足元に、赤黒い陣が浮かぶ。
魔術。彼は魔術を使った。詠唱も、トリガーとなる行為も無しに。
瞬間、陣から白い焔が音を上げて放出される。
「!?」
残っている兵士、術師たちは、発動に気づいただけで、反応はできなかったようだ
彼が放った言葉のまま、彼らは骨も残さず消滅した。
術の熱の余波のせいか、発動した周囲が黒焦げになっていた。
「この術式だと余波があるのか・・・・・・難しいな、魔術とは。」
芝居がかった様子で(実際に彼の口調はもう少し雑だが)かれはぼやく。
先ほどまでの殺気が、嘘の様に消えていた。
生き残った彼らの中には、失神していたり、腰が抜けているものまでいる。
彼はその後、何を言うことなく奥に進んでいった。
更新早くしたいけど、書き溜めがHDDごと飛んだから
何ともいえない。