第2話
昨日は怒るマイアをなだめるのに時間がかかり、話をすることが出来なかった。
うすうすマイアが僕に好意を抱いているのも気づいていた。ただ、マイアの事情を考えるとLoveではなくLike、恋愛ではなく友達としての好意なのじゃないかとも僕は思っていたが、昨日の様子を見るに恋愛のほうの好意だったようだ。僕もマイアに好意を抱いているが、僕としてはまだ関係を進める事が出来ない……マイアには悪いがしばらくこのまま待ってもらうしかない。
朝食を食べるとジャンヌと学校に行くためアリア達の家に向かう。
今日はアリア達が家の前で待っていた。
「おはよう、ジャック君とジャンヌちゃん」
「アリアお姉ちゃん、マイアお姉ちゃん、おはよう」
「アリアさんにマイア、おはよう」
「おはよう、ジャンヌちゃん……ついでにジャックも」
みんなが笑顔で挨拶するなかで、マイアは僕に挨拶するときだけ不機嫌そうな顔をしている。なんとか昨日はマイアの怒りを静めることができたと思っていたが、まだまだ尾を引いているようで、いつもなら僕の横を並んで歩くマイアが、挨拶が済んだ途端に一人で先頭を歩きだした。
アリア達もそんなマイアを見ると困った顔をして、僕の傍によってきてマイアに聞こえないように小声で話しかけてくる。
「……お兄ちゃん、昨日ちゃんとマイアお姉ちゃんに謝ったの? なんかマイアお姉ちゃん不機嫌っぽいよ」
「ああ、昨日は何度も謝って許してくれたと思ったんだけどなぁ」
「ん~そうねぇ……マイアは告白だと思ったのに誤解だったと分かって、すごーくがっかりしてたじゃない? きっと、ジャック君を許した後もその時のことを考えて、怒りがぶり返したのかもしれないわね」
「……」
たぶん、アリアの言ってることが正しいと思う。昨日、許してくれた後はいつものマイアに戻っていてた。告白は勘違い、告白と勘違いさせた、勘違いは私のせい、勘違いはジャックのせいと考えているうちに、怒りがふつふつと沸いてきたのだろう。
一人いつもより早いペースで歩いていたマイアが、後ろを歩く僕達三人が遅れているのに気づき後ろを向き声を掛けてくる。
「お姉ちゃんにジャンヌちゃん、早く歩かないと学校に遅れるよ……ついでにジャックも」
マイアの言葉にアリアは溜息をつくと僕の耳元で、
「……ジャック君、私もアドバイスしてあげたいけど、いいアドバイスが浮かばないの……ごめんね。それと、マイアを泣かせちゃだめよ」
と言いマイアの元に走っていく。
「マイアお姉ちゃんとちゃんと仲直りしてね」
「わかったよ、がんばってみるさ」
うん、と頷くとジャンヌもアリアを追って走って行った。
一人残され考えるがどうしたものか、機嫌を直す良い手が思いつかない。無難にお詫びの品を贈っても、逆に悪化する可能性もあるよな。お詫びの品を贈ろうにもマヨルカは田舎なので碌な物が無いしなぁ。食べ物以外の物を売っているのはマイアの家だけだから、家で母さんに教わってお菓子でも作るか?
「お兄ちゃん! 早くおいでよー!!」
「ジャック、急ぎなさいよ」
「今、行くよ」
ジャンヌとマイアの呼びかけに答えると、取りあえず考えるのは止めて僕は三人に追いつくため走り出した。
放課後マイアに昨日出来なかった話をするために自分の部屋に招き入れる。
マイアの機嫌はまだ良くない。朝から表情が硬いままだ。アリア達が僕に何とか仲直りしなさいと言っていたことを思い出してしまう。今日は授業中もずっと、どう仲直りするか考えていたが、いい手がさっぱり思いつかなかった。
いつもの笑顔の無いマイアの顔を見ると、そんなことばかり考えてしまって、つい溜息がでてしまう。
「はぁ……」
「なに? 用が無いなら帰っていい?」
僕の溜息を聞いたマイアの言葉に不機嫌さが滲んでいた。
「あ、いや……大事な話がある。取りあえず座ってくれ」
マイアがベッドに座るのを見て僕もイスに座る。
「それで、話って何なの?」
「僕が地震の後二日ぶりに目を覚ました時の事なんだけど」
「私、心配してたんだけどなー」
「うん、それはごめん。あの日、目を覚ました僕は男爵の所に話を聞きにいったんだ」
「起きてすぐに話を聞きにいったって何かあったの?」
不思議そうに聞いてくるマイアに頷き話を続ける。
「僕は目を覚ましたとき前世を思い出した。いや、違うな…僕の感覚では、異世界の知識を手に入れた。通常は魂に記録された前世の情報が現世の肉体へ書き込まれ、数年で前世と現世の情報が統合されるという。僕の場合は肉体への書き込み前後に起きたバグか何かで情報統合が行われていなかったみたいなんだ」
マイアは僕の話に目を見開き驚いているが、僕はそのまま話を続ける。
「そこにあの地震が起きた。たぶん仮死状態にあった僕は回復魔法で蘇生されたことで、新たに情報の書き込みと情報統合が行われた。まぁ、デバッグが上手くいかなかったのか、知識は手には入れたけど記憶は思い出せなかったんだけどね」
「ならジャックは……」
真剣な表情のなかにも期待感を滲ませるマイアを見つめながら僕は結論を言った。
「そう、僕はマイア同じ知創者だ」