15層ボスです2
エンシェントキングアントはその巨体に見合わず、あっという間に距離を詰めて殴り掛かってきた。それを両手で魔剣ステュラを握りしめて受け止める。力が上がっているおかげか、なんとか受け止められたが少しばかり後ろにずらされる。
すっと手を引いてすぐさま反対の腕で殴り掛かってくるのを連続で受け止め続ける。受けるたびに少しずつ後ろにずらされているのと、手に来る感触からおそらく今まで使っていたような武器では簡単にへし折られるのだろうと想像できる。
俺が必死に受け止めていると急にやつが後ろに跳び退いた。
そして次の瞬間にはさっきまでいたところを多数の針が襲った。ヒツギの攻撃だ。ちらりと後ろを見て位置を確認すると、ヒツギはかわらずマナの前に陣取っていた。あの位置から山なりに針を発射したのだろう。
後ろに跳んだやつめがけてマジックソード・ノーブルが飛んでいく。俺もアイテムボックスからダンジョン内でたくさん手に入れた槍を取り出して投げつける。少しでもやつの気を引いてマジックソードが当たりやすくなればいいんだ。狙いはある程度雑でも構わない。
しかし、やつは槍には目もくれずにマジックソードを迎撃し始めた。マナの操作で動いているため突然止まって軌道を変えたりだとかあるいは高度を上げてかわしたりしてうまくうやつの攻撃を回避していた。その間にも俺の投げた槍がやつに迫るが見向きもしない。
俺自身もやつに向けて駆け出す。そして1本の槍がやつの腕に刺さった。それを皮切りにして2本3本と続々とやつの体に突き刺さっていく。それでもやつはマジックソードを攻撃していた。そして俺の投げた槍の最後の1本まで全て刺さりきった時、やつの腕がマジックソードを捉えた。パキリと音を立てて折れたマジックソードはそのまま霧散して消えた。それを確認したやつは近くまで迫っていた俺に目を向ける。
「一閃!」
やつの少し手前でジャンプすると剣を水平に払った。その一撃はやつの腕の表面に軽く傷をつけるだけになったが、通常状態の一閃で傷がつくなら鬼の一撃・付与での攻撃ならばダメージは入るだろう。それがわかっただけで十分な収穫だ。
空中にいる俺めがけてやつが殴ろうとしてきた。
それに対して俺はコンボをつなげて威力を高めた一閃で迎え撃つ。それによりなんとか軌道をずらすことに成功したが、風圧で結局少し飛ばされる。だが、体をひねって空中で体勢を整えると剣を構えた。
「『コンボ3』剣閃!」
遠距離からでも攻撃できるスキルで3コンボ目を決める。斬撃が剣から飛んでいき、先ほど軌道をずらした腕を半ばほどまで切り裂く。そこから黒い血が噴き出した。
それでもやつはまったく叫ぶことなく冷静に自らの腕を酸で焼いた。傷口の少し手前のところに口から吐き出した蟻酸がかかり、そこの部分を焼き切った。
切れたことで腕が地面にどすりと音を立てて落ち、俺の切った傷口から血があふれる。だが、焼いた部分からは血は出ていなかった。それは残った腕も同様で、焼いたことで傷口がふさがっている。腕1本犠牲にした止血といったところだろう。俺なら絶対やりたくないけど。
残った腕を軽く振って動くことを確認すると、そのときに体が揺れたことで刺さっていた槍が全て抜け落ちた。刺さっていた部分には傷はなく、まったくダメージが入っていないことがわかる。やっぱり効いてなかったのか。
そんなことを考えながら地面に着地すると同時に周囲にダークランスを10こ展開する。そして同時にやつの体の中心めがけて発射させた。それを追うようにしてマナのマジックハンマーも飛んでいく。
しかし、それらは全てやつが腕をクロスさせて防御したことで防がれた。1層のキングアントなら1発で終わってたんだけどな…。
改めて格の違いってやつを認識しながら、再び攻撃を仕掛けるために駆け出す。今度は先ほどとは違い、円を描くように走り、真横に攻撃を仕掛けようとした。おそらく俺の迎撃のためにこちらを向いてくるだろう。そうなればマナが自由に狙えるしこちらの思うつぼだ。
しかし、やつは俺のほうを向かなかった。俺を無視してマナたちに向かっていったのだ。
「マナ! ヒツギ! いったぞ!」
慌てて方向を変え、後ろからやつを追う形になった。後ろからエアロとファイアバレットのスピードの速い2つの魔法で攻撃するも、これらはスピードが速い代わりに威力が弱く、こちらに注意を引かせることはできなかった。
「クエイク!」
2人の目の前に壁ができ、やつはそれに突っ込んだ。壁を半壊させていたが壊すには至らなかったらしく、もう1度暴れて壁を壊したときにはもうすでに離れた場所にいた。
やつはそれを見た瞬間にまた駆け出した。今度もマナのクエイクが作られたが、今度は1撃で破壊した。かなり分厚い壁なんだぞそれ! 最悪なことに、まだ離れ切れていなかったヒツギにやつの腕が迫った。
そしてその太い腕が振りぬかれ、1つの影が壁まで吹き飛んだ。
「ヒツギ! マナ、ヒツギの回復を! 俺はこいつをコロス」
俺は一段と殺気を込めてやつをにらみつける。そしてこちらに向き直したやつの正面にゆっくりと歩いていき、立ち止まった。
「『怒り』『ためる』『鬼の一撃・付与』」
考えうる強化手段を全て行う。すべての力を右腕に集中させる。
やつが俺も吹き飛ばしてやろうと腕で殴ってきた。
「『不動明王』」
俺はそれを左手1本で受け止めた。やつはその様子に驚きながらも次々と攻撃を仕掛けてきた。だが、そのすべてを俺は左手1本だけで受け止めた。
「なあ、今、俺ってどう見えてんだ?」
うつむき、ぽつりとそう呟きながら1歩前に進む。
「俺は今非常に怒ってる」
1歩。
「お前にも怒ってるけど自分にも怒ってんだ」
1歩。
「ヒツギに怪我させちまったからな。もしこれでヒツギにもしものことがあったら」
1歩。
「タダデスムトオモウナヨ?」
「―――――――――――-----!!!」
顔を上げた。
その瞬間、やつは声にならない叫び声をあげた。
その顔に浮かんでいるのはどんな感情だろうか。わからないけどたぶんこれはあのときのプラチナコングと一緒だ。あのときのやつはたしか逃げ出したんだっけ? でもこいつは逃げないんだな。
やつの必死の攻撃を俺はすべて受け流した。単調に、力任せに繰り出してくる攻撃だ。たしかに威力は高そうだし、殺意も十二分に感じるが、なんとか流しきれる。不動明王は動きながらでは使えないため、俺にとって単調になったことは運が良かった。俺は1歩1歩、確実に前に進む。
そしてついに腕の届く位置までやってきた。
「吹き飛べ、ブレイクショット!」
全力の一撃を放った。
やつは吹き飛び、壁に激突した。ドォォォンというすさまじい轟音が響く。それと同時に、土煙がやつを覆いつくす。俺の目に映るのはやつの影だけだ。
俺は一時的にしまっていた魔剣ステュラを取り出して上段に構えた。まだやつは死んでない。
「グァアアァアアアアアアアアアアアア!」
影が飛び出してくる。全身の甲殻はヒビだらけで壁に打ったときになったのか、腕が数本変なほうに折れている。1撃でここまでできたことにも驚きだが、逆にさっきの攻撃を耐えきられたことにも驚いた。
「眠れ、一刀両断!」
やつとのすれ違いざま、俺は魔剣ステュラを振り下ろした。
一瞬の沈黙の後、エンシェントキングアントはその身を2つにしてこの場から消えていなくなった。
どうもコクトーです
『刈谷鳴』
職業
『ビギナーLvMAX
格闘家 LvMAX
冒険者 Lv57/99
狙撃手 Lv44/50
盗賊 Lv39/50
剣士 Lv39/50
武闘家 Lv36/60
戦士 Lv37/50
魔法使いLv43/50
薬剤師 Lv34/60
鬼人 Lv8/20
????の勇者Lv8/??
狙撃主 Lv15/70
獣人 Lv1/20
狂人 Lv1/50
魔術師 Lv1/60 』
レベル更新は次回します
今回はほとんど会話なしの戦闘のみの回でした
あまり使われなかったスキルも出てきました
『受け流し』スキルもあるんですよ?
ではまた次回