囲まれました
ハイオーガを倒した後、俺は暗い中を進んでいた。まあ暗いとはいったものの、壁や天井に埋め込まれている光る石のおかげでちょっと暗いかな、という程度だ。つかなんで天井があるんだろうか? ここ谷のはずなんだけど。
俺はその手に握られている棍棒を軽く揺らしながら探索を進めた。
壁沿いに1分ほど歩くと、そこには2つの道があった。なんか入り口にずいぶんと古そうな骨が1本突き立っている右の道と、なにもない左の道。俺はためらわずに左の道を選んだ。骨なんか立ってるほうにだれが好き好んでいくもんか。
俺が左の道を歩いていると、広いドームみたいな場所に出た。そして奥のほうには何やら箱が置いてあった。その奥はまた通路があるらしい。俺はそれに近づいていき、おもむろに箱のふたを開けた。中には見慣れない草が6本束になって入っていた。それをつかんで目の前にかざして『鑑定』をしてみる。便利だよねこれ。
『毒けし草:
すりつぶして水に混ぜると毒をけすポーションになる』
『毒草:
どのように加工を加えても立派な毒となる』
見た目はなんの違いもないが、1本だけ毒草が混じっていた。毒けし草だと思って使うと毒になるってか? 鬼じゃねえか。俺は毒けし草だけを顔に近づけてにおいをかぐ。特に変なにおいはしない。すると、唐突に手から草の感触が消える。5本もあった草の感覚がいっぺんに消えたことで落としてしまったのかと思いあわてて下を見るも何もない。しかし、視界にこんな文字が浮かんだ。
『スキル:毒耐性Lv5を習得しました』
「……なんで喰ってんだよ!」
今回わかったこと、魔物じゃなくてもオッケー。においをかげるくらい近づけたら喰っちゃう。たくさん喰らうとその分レベルアップ。というか重要だと思うが、スキルにはレベルがあった。改めてよく見ると体術もレベルついてるな。前は気が付かなかったぜ。
「……ほんとこの世界ゲームじゃねえの? 職業にレベルにスキルとか」
そんなことを思いながら、せっかくなんでということで毒草の方も瞳に近づける。すると想像通り毒草も喰らった。
『スキル:毒耐性Lv8を習得しました
職業:薬剤師になりました』
なんか一気に『毒耐性』が3レベルも上がった。毒けしと毒そのものだと性能差があるみたいだ。というかそもそもレベルマックスっていくつなんだろう? それと新しい職業になりました。よくわからない勇者にビギナーに薬剤師。どんな人間だよ。
そして宝箱そのものはとりあえずアイテムボックスにしまっておき、奥の通路を進んだ。しかし、そこから20mほど進んだ先の角を曲がると、そこはただの行き止まりになっており結局戻ることになった。
しかし、この後俺は後悔することになった。
広場に戻ると、そこは先ほどまでとは様子が違っていた。
はい。オーガがうじゃうじゃいます。『鑑定』してみれば、中にはハイオーガや、少ないがオーガメイジ、オーガアーチャー、オーガナイト、オーガシーフとかいう武装してるのもいる。もしかしてさっき進んだ通路のどこかに隠しスイッチでもあったのかな?
唖然としていた俺に気づいたのか、オーガたちは一斉に俺のほうを見た。そして迫ってきた。
「ちょっ、ま、え? なんで?どうなってんのさこれは!」
とっさに棍棒をふるって、向かってきていたアーチャーの矢を砕く。そして棍棒をふるってくるオーガとハイオーガを棍棒で殴り、倒れたやつを一体つかんで通路に下がる。オーガたちはやられた仲間を無視して迫ってくる。しかし広いドームとは違って、狭い通路ではその体格のよさのせいであまり多くは入ってこれない。せいぜい横に2体くらいだ。
俺はつかんだオーガを喰って筋力上昇を手に入れる。まともに戦っても絶対勝てそうにない状況だからな。俺はスキル『威圧』を使った。もとがオーガの上位種であるハイオーガから得たスキルだからか、目の前に押し寄せる普通のオーガたちには有効なようで動きが少しの間だがとまった。その隙に一気に近づき、先頭のオーガの腕を瞳のあたりに押し付ける。するとその2体は瞳に喰われて筋力上昇へとかわった。心なしか、さっきより棍棒が軽くなった気がする。
しかし、次に行く前に『威圧』の効果も切れ、立ち止まっていたオーガたちは再び進んできた。俺はもう一度『威圧』をつかおうとするも発動しなかった。どうやらスキルは一度使うと少しの間は使えないようだ。クールタイムはやっぱ存在するのか。
それでも強くなった筋力で棍棒をふるい、オーガの腕をそれらの持つ棍棒ごとへし折る。腕を折られたオーガたちは叫び声をあげるが、気にせずにそいつらを喰らう。するといなくなった2体の後ろから棍棒が振り下ろされる。とっさに棍棒を殴りつけると、棍棒は普通に折れた。筋力上昇半端ないな。
その後も、棍棒を折り、オーガを倒して喰らうというのを繰り返していると、通路の中からオーガたちがいなくなった。というより、オーガとハイオーガがいなくなった。残るは広場に残っている武装オーガのみ。
「出てきたところを滅多打ちってわけか……。棍棒の残骸はたくさんあるし投擲ならいけるかな」
出てきたオーガたちの棍棒は根こそぎ折っていたので、まともなものは初めからあった2本と『威圧』が効いているうちに喰った2体の分であわせて4本。しかし、そのうち3本はひびが入っていた。
攻撃の時に折れても困るのでやむをえずそれらも投擲用にへし折った。そしてたくさんある残骸を全てアイテムボックスにしまう。アイテムボックスはこれと念じればすぐに出せるようで使い勝手がすごい良かった。
「さて、次のラウンドと行こうか」
たくさんいたオーガとハイオーガを喰らいつくしたことで、いつなったのかはわからないが『威圧』はレベルマックスになっており、筋力もかなり上昇した。棍棒が羽根のように軽い。
そして俺は通路から広場へと駆け出した。
広場にいたのはそれぞれが2体ずつ。
そんな中でも最初に反応してきたのはオーガアーチャーだった。即座に弓を引いてくる。しかもそのうしろからオーガメイジの放った火の玉も飛んできた。俺は棍棒の残骸を投擲して、その先にいるオーガアーチャーごとその火の玉を打ち抜いた。さらに奥のメイジにはかわされたが、オーガアーチャーには致命傷を与えられた。そこで喜ぶ暇もなくオーガナイトの剣が俺を切ろうと襲ってくる。それを棍棒で受け止めようとしたが、止めた棍棒ごと斬られてしまった。腕からは血が噴き出る。スキルのおかげで再生していくとはいえ、しばらく使えないうえに最後の近接武器が潰された。残すは体術と投擲しかない。
そこで、俺はオーガナイトの鉄の鎧の上から拳を叩き込んだ。さすがに鉄を殴ったことで手は痛くなったが、鎧は大きくへこみ、オーガナイトは後ろにいたシーフを巻き込んで飛んでいった。筋力上昇の効果がここでも出たな。
しかし、攻撃後の隙をオーガメイジに狙われた。すぐ目の前に火の玉が飛んでくる。1発はかわしたものの、もう1発が体に当たる。しかし痛みや熱さはなかった。
『スキル:ファイアLv1 火耐性Lv1を習得しました』
顔付近じゃなかったのにもかかわらずなんか喰らっていた。魔法はどうやら体のどこでもいいらしい。これはいいことを知った。
そこから先、オーガメイジの攻撃はかわさないことにした。だって別によけなくても平気ならよけなくていいじゃん。火の玉に合わせるように短剣を構えて迫りくるオーガシーフの腕をつかみ、顔につけてそれを喰らう。
『パラメータ:素早さ上昇を習得しました』
同じタイミングで来ていたオーガナイトも同じ運命をたどらせる。それを繰り返すうちに、残りはオーガメイジだけになった。オーガメイジだけなら攻撃を受けても問題ないので先に倒れているオーガアーチャーとオーガナイトを喰らうことにした。
オーガアーチャーは最初の投擲で完全に気絶しており、そのまま喰らった。
『パラメータ:器用さ上昇を習得しました』
楽だな。続いてオーガナイトのほうへ行く。オーガナイトは完全に死んでいた。そのため反撃とか起きることとかを想定せずに喰えた。が、その後ろに潜んでいたオーガシーフに気づかなかった。オーガナイトが消えた途端に短剣が俺の胸に刺さった。俺はオーガシーフの腕をつかむ。そしてそのままヘッドバットを喰らわせてオーガシーフを喰らった。胸から短剣を抜くと、心臓はなんとか避けていたようだが、血がどばどばと噴き出た。しかし、その傷もすぐに『再生』が発動しふさがった。血は回復してくれるかわからないがそうなることを祈ろう。
「さて、これで完全にメイジだけだな」
俺はなにやらもう魔法も撃てない様子のオーガメイジたちを見つめる。迎撃するつもりなのか杖を構えてこちらを睨んでいる。俺はそれを嘲笑うように棍棒の残骸を投げつけた。1発目で1体の杖が折れる。2発目は不発。3発、4発とオーガメイジの体にあたり骨を折る。それで1体は倒れた。5発目は外れた。6発目は残った方の足をとらえた。7発目で勝負はつき、オーガメイジは絶命した。
俺はそれらを喰らう。倒れ伏すオーガメイジに頭をつけ、瞳が喰らう。
『パラメータ:魔力上昇を習得しました』
これでオーガからは筋力、ナイトからは防御、シーフからは素早さ、アーチャーからは器用さ、メイジからは魔力を手に入れた。さらに『威圧』はレベルマックスになり、『ファイア』の魔法と『火耐性』も手に入れた。戦果としては十二分だと言えよう。
『職業:ビギナーがLvMAXになりました。
パラメータ:体力上昇(小)を習得しました。
3つの職業が解放されます。
『職業:格闘家になりました。
狙撃手になりました。
冒険者になりました 』
なんか職業が一気に増えた。この3つはビギナーがレベルマックスになるのが条件みたいだ。てなると他のもマックスにすれば新しい職業が解放されるのだろうか?
しかしそれだけが条件ではないだろう。おそらく今の戦いのなかでそれぞれの職業になるための条件を満たしたのだと考えられる。格闘家は素手の戦闘……これは初めの戦いかな。狙撃手は最後の投擲だろうか。うん、それっぽいな。冒険者はビギナーが条件だけだろう。それ以外なんも考え付かん。
自分の確認を終えた俺はあたりを見渡した。
辺りには武装オーガたちが着けていた装備が散らばっていた。穴の空いたローブや鎧、折れた杖や剣や弓、比較的無事なオーガメイジとオーガアーチャーの帽子とオーガナイトの兜、オーガシーフが巻いていたであろうバンダナ。
「俺でも使えそうなやつもいくつかあるな」
そっとメイジの帽子を被ってみる。
『パラメータ:防御上昇(極小)を習得しました』
「……え?」
帽子も喰われました。
どうもコクトーです
『刈谷鳴』
職業
『ビギナーLvMAX
薬剤師 Lv5
冒険者 Lv1
格闘家 Lv1
狙撃手 Lv1
????の勇者 Lv1』
薬剤師もさっきの戦闘でレベルは上がってます
基本戦闘で敵を倒したとき、すべての職業に経験値がいきます
ですので、本文に書かれていなくてもここの表記のレベルがあがっていることもあります
ではまた次回