真那の力です
「ぐす……鳴……鳴……ぐす……」
場所は変わり、とある宿のとある部屋。そこで真那は布団にくるまり、涙を流していた。
ほんの数時間前、鳴は橋から谷に落ちた。それをその場にいた全員が助けられなかった。一番近くにいた騎士団の隊長さんでさえも。
あのとき、私は鳴を追って橋から降りようとした。それは騎士の人たちに止められたけどもし止めていなかったら今頃私も鳴と一緒に谷底だろう。今はそれはそれでよかったかもと考えていた。
私だけが生きている。これまでの人生、なにをするのもほとんど鳴と一緒だった。それなのに今、鳴の近くにいられない。そもそも生きているのかさえわからない。谷は見るからに深く、底は見えそうになかった。そこに落ちてしまった鳴はもう生きていないのではないか。そんなことも頭によぎる。その度に全力で否定しようとしてもその材料がない。それがますます私を苦しませた。
「鳴……」
「あら、ずいぶんとひどい顔よ。鳴君が見たら何て言うかしら?」
「!!?」
突如話しかけられた。
部屋の鍵は閉めてあったし、窓ももちろん閉めた。この女性はいったいなんなのか。大きな胸に、それを強調するような服装。若干いらっとする。よく見ると、背中には黒い羽が生えていた。
「どうも、私は悪魔のラフォーレ。あなたは高坂真那さんね。あなたに説明をしに来たわ」
悪魔。そう名乗った女性が言うにはなにかを説明しにきたらしい。いったいなにを?
「まず始めにあなたのその顔を変えちゃいましょう。あなたの騎士さんの、たしか刈谷鳴君だったかしら? 生きてるわよ」
「詳しく教えて!」
鳴が生きている。そう聞いた瞬間に私は彼女に詰め寄った。布団が床に落ちるけど、なりふりなんて構っていられない。それが嘘だったとしたら彼女を殺すくらいの気持ちだった。
「まずは落ち着きなさいな。そこのとこもふまえてしっかりと説明してあげるから」
「ご、ごめんなさい」
少し離れてベッドに座る。それでもいつでもつかみかかれるように完全に力は抜かなかった。
「まず、私は悪魔のラフォーレ……ってこれは言ったわね。説明っていうのはあなたたちに与えられた『力』のことよ。召喚の儀によって呼び出された者は3つの『力』を受けとる。例外なくね。ちなみに、この説明が終わるか、説明にいく予定の悪魔になにかが起こらない限り基本的に無事よ。だから彼も生きている。今は、だけどね」
「あなたたちが私たちを守ってるってこと?」
「あー違うわよ。守ってるのは『力』そのもの。あなたの説明の前に少し話しましょうか。私たちはあなたたち『勇者』にダンジョンを終わらせてほしいの」
「ダンジョンを終わらせる?」
「ええ。この世界には主要ダンジョンが4つとそれ以外が無数にあるわ。そのなかには魔王とか呼ばれてるモンスターもいる。主要ダンジョン4つを攻略すると、ラストダンジョンが現れる。それをクリアしてほしいのよ。前回までは説明とかしてなかったんだけど、それだと無数にあるダンジョンまでしか行ってくれないのよ。この王国が『勇者』として無理矢理にとめてね。それでも何人かの勇者は主要ダンジョンの方にも挑もうとしてたんだけど失敗していたわ。無数にあるダンジョンだけに『勇者』はもぐる。それで結局主要ダンジョンには気づかない。だからいつまでたってもなくならないのよ」
「つまり、枝は切っても幹には見向きもしてないってこと?」
「そういうことよ。実はね、今回はイレギュラーなのよ。そもそも召喚の儀で二人出てくるのがおかしいし、二回も続けてやったのもイレギュラー。私たちも忙しいのよ……。っと戻すわ。私たち悪魔は今回3人にそれぞれ説明役がいったわ。悪魔自体はそこそこ数がいるんだけど、そのほぼすべての意見は三人目の男が終わらせるっていってる。能力も戦闘向きのものばかりだし、強力なものばかりだもの。でも」
そこでラフォーレは話を切る。そして驚いたような顔をして、それから笑みを浮かべる。
「おもしろいことになったわね。あなたの友達のところにはちょっと厄介なやつが行ってたのよね」
「どういうこと?」
「そこにいった悪魔なんだけど、以前死にかけてた勇者から『力』を奪ったのよ。しかもそれで強くなったからって調子に乗っちゃってね。今回も奪おうとしてたのよ」
「そんな! じゃあ鳴は……」
「大丈夫よ。今、他の二人の悪魔の反応が完全に消滅した。つまり鳴君は生きていて何らかの方法で悪魔を殺したってことね。話を戻すけど、私はさ、みんなとは違う意見なの。私は三人目が終わらせるとは思っていない。私は鳴君こそが終わらせる存在だと思ってる。それで、そのために必要なのがあなたなのよ」
「……私?」
「そう。ここであなたの『力』が出てくるわ。あなたの力は、魔法の才能、スキルの習得、能力隠蔽よ。魔法の才能は効果がいくつかあるの。魔力の大幅な上昇。見た魔法が使用可能になる。魔法の威力の上昇。他にもいくつかあるから自分で見つけてね。あ、あくまで使えるだけで使いこなすのは別よ? そこは努力次第。スキルの習得に関してだけど、この世界には数えきれないくらいの『スキル』があるの。これは『力』とは別だからね。あなたの力はスキルに沿った動きをすることでそのスキルを得ることができる力。最後のは戦闘用ではないけど便利なものよ。他人の使う『解析』によって自分の能力がばれるのを阻止できる。もちろん任意の対象のもね♪まあ『鑑定』はさすがに防げないけどほぼ使える人はいないし問題ないわ。あなたがこれらを使いこなせれば彼の手助けになる」
「私が……鳴を……」
「ただ問題があるのよ」
「なに?」
「彼は今4つの主要ダンジョンのうちの1つ、『パイフー』にむかっている」
「どうして!?」
「あの谷の底にダンジョンの入り口があったのよ。そこのダンジョンの最下層にパイフーへの入り口がある。パイフーは主要ダンジョンの中では比較的簡単な部類だけどそれでも他のダンジョンに比べたら段違い。私は彼の力を詳しくは知らないから何とも言えないし、今はまだパイフーに入ってすらいないから大丈夫だけど今どのあたりにいるのか見当もつかないわ」
「そんな……すぐに助けに行かないと!!」
「だめよ」
「どうして!?」
「今のあなたがいったら間違いなく死ぬだけ。それよりもあなたがすべきことは一つでも多くの魔法を覚えて、ほかのダンジョンに潜って一種類でも多くのモンスターを倒して彼に再会すること。今は我慢の時よ。彼はあなたが死ぬことを望んでない。強くなって、彼の隣に立ってあげなさい」
「……わかった。一日でも早く強くなるわ」
「その意気よ。もし彼がパイフーを攻略したらたぶん他の主要ダンジョンにも向かうことになるわ。その間に多くのダンジョンに行くかもしれないけど。だから少なくとも『チンロン』『チューチエ』『ショワンウー』の三つの主要ダンジョンでまともに戦えるようになりなさい。まあ上級ダンジョンのボスクラスと一人で戦えるようになるのが最低ラインかしら? そこら辺は実際に行かないとわからないわ。じゃあ私は行くわ。彼を射止めなさいよ♪」
こうしてラフォーレは去って行った。部屋に残されたのは私一人。でももう涙はなかった。今は強くなる。そして鳴の力になる。そう心に刻んで部屋を出た。部屋の外では騎士の人が一人いた。見張りだと思う。
その人に私ははっきりとこう告げた。
「ねえ騎士さん、この国にいる魔法使いを全員集めてくれない? 魔法を習いたいの。ダンジョンを攻略するために」
この国をつかわせてもらおう。私が、また鳴と会うために……。
どうもコクトーです
今回は今の真那の状況を書いたものです
ちなみに
一人目…刈谷鳴
二人目…高坂真那
三人目…天上院古里
です
ではまた次回