キャラビーとユウカの物語です16
今回もキャラビー視点です。ご注意ください。
ゴールド様、モモ様、そしてアハト様が来られ、『ヤカリ森国』侵攻に対しての意見交換会は始まりました。
Sランクの会合として一人共として連れてきても構わないという話でしたが、実際にお供としてやってきたのはこのばにいらっしゃるSランク冒険者の半分の人数でした。そもそもフリーの冒険者であるモモ様、カラカリ様は言うに及びませんが、『ガルチア』を率いるジョー様と『青き空』のスカイ様が誰も連れてきていないと言うのは少し意外ですね。
会議室の全員が席につき、資料が配られて2つおかれた魔道具に魔力が注がれて起動してすぐ、アハト様が口を開きました。
「初めに今回集めさせてもらった趣旨を改めて話しておく。戦闘のスペシャリストである君たちの意見を聞かせてもらい、その意見をまとめて今後必要となってくる対策について各国に連携させてもらうためだ。誰の意見かってのは記載するつもりはないが、今日の内容は基本的には冒険者ギルドを通じて各国に展開させてもらうのでそのつもりでいてほしい」
「ふむふむ。まあたしかに冒険者ギルドだけが情報を持っていても自由に動けなかったら無駄になっちゃうからね。でも、そのあたりがセンガ殿やリエーフがいない理由と考えても?」
「センガ殿についてはその通りだな。王国にも籍があり、今回の件でも対応にあたっているため不参加だと連絡を受けている。こちらとしても無理を言ってあのわからずやに今度こそ冒険者ギルドを脱退させると言われてしまってはお互いに困るからな。強権振るって何とかしそうな辺り少し怖いが」
「センガさんが国王様のお気に入りなのは今に始まった話じゃねえが、悪化してねえか?」
「ジョーちゃんの言う通りねぇ。でも、それだけカシュマ王も今の魔王軍を恐れているということじゃなくて? 次期Sランク入りが目されている王都所属の冒険者『レーザー』ちゃんたちの壊滅。Sランク冒険者の会合への襲撃。他にも有名冒険者のパーティが魔族の襲撃に遭って壊滅したって話もあるしねぇ」
「先日のユウカさんたちが受けた宣戦布告に今回の『ヤカリ森国』への侵攻。『アーディア』との国境沿いは以前よりもピリピリしていると聞く。王が心配になるのも無理はないよ」
「そうですね。でも、他のお二人はどうなんですの?」
「二人はまた別件だな。『ベスティア獣神国』の未攻略ダンジョンが2つ、同時に氾濫の兆候が見られたと連絡があった。そのダンジョンの攻略と近くの村の防衛のため離れられないとのことだ」
「いやいやいや、こないなことしとる暇ないやないかい! むしろこの戦力連れてダンジョン落とした方がええんやない?」
「既に『ベスティア獣神国』の国軍が対応を始めており、冒険者ギルドとしてもいくつかのパーティに指名依頼を出す形で支援を送っている。今のところは魔王軍との関係性はつかめていないが、意図的に引き起こされたものであった場合これだけでは終わらない可能性が高い。今半端に人員を追加したとしても迷惑になるだけだろう」
「カラカリよ、こんな個性の塊みたいな集団をダンジョンに放り込んだところで邪魔になるだけじゃろ? 連携できずにゆっくりとしか進まんよ。送るなら普段からダンジョンに挑んどるパーティ単位じゃな」
「防衛のために配置するならばともかく攻略ならたしかにそうだわな。そんで一カ所に集中させてて他のところがってなったらたしかにやべえ」
「そうねぇ。私たちにできることと言えば氾濫される前に今挑んでいるダンジョンの攻略を進めることくらいかしら」
「調査隊を派遣はしているがすべてのダンジョンを見られるわけではない。もし各ギルドで挑んでいる未攻略ダンジョンで同じように氾濫の兆候が見られた場合はすぐにでも最寄りの冒険者ギルドに報告を入れてほしい。攻略してコアを回収できればそれが一番ではあるが、無理な攻略をして死なれてしまっては元も子もない。そこだけは肝に銘じておいてくれ」
アハト様の言葉を受けてこれ以上は無粋だと判断したようで、カラカリ様は引き下がりました。
ダンジョンの氾濫を止める一番の方法はダンジョンを攻略すること。それは間違いありません。名もなき物語でも氾濫したダンジョンの魔物を殲滅し、そのまま最奥まで攻略した英雄のお話もありました。ただ、ダンジョン攻略というのは簡単にできることではありません。
『マツノキ』が攻略中の4つの第二段階のダンジョンもトップパーティである『怒涛のティラノス』が無理をした結果壊滅したそうですし、Sランクの冒険者たちと言えど同じ結末をたどる可能性が0ではないのがダンジョンという場所です。
「とりあえず会議を始めさせてくれ。と、その前に……トーチ殿、クリステラ卿、通信の魔道具の調子はどうだ? 特にクリステラ卿の方が不調となると今日の重要度が下がってしまうが」
『私の方は問題なく聞こえております。……映像は私の魔力ではずっとは厳しいですね。こちらの音声も聞こえていますでしょうか?』
机の上に置かれた水晶からはクリステラ卿の姿が映像として壁に映し出されています。話す時だけ映し出されるその映像には緊張した様子のクリステラ卿が映っていました。こちらが見えていないというのは反応が見られないわけですし、善し悪しがありそうですね。
「こちらは大丈夫だ。無理をさせてすまないな」
「クリステラ、後でボーナスは弾むから頑張ってくれよー」
ゴールド様の本気かどうかわからないちゃちゃが入って少し緊張がほどけた様子が見えるクリステラ卿ですが、本当に大変なのはここからでしょう。がんばってください!
『私の方は好調だよー。ブイブイ!』
もう一つ置かれた水晶から映し出されているのは『魔法学園』のトーチ様。魔法のスペシャリストである彼女にはこの通信の魔道具による消費程度であれば大した負担でもないのかもしれませんね。
『いやー、私もそっちに行ければよかったんだけど、今研究がいいとこで……。アハトさんごめんねー』
「その分低い依頼料で転移魔法使いを借りているのだから文句は言わん。この場にいないことで多少会話に混ざりにくいかもしれんが意見があれば遠慮なく頼んだ」
『はいはーい!』
クリステラ卿とは打って変わって明るい様子で話すトーチ様。そんな様子がかすんでしまうほど、私の視線はトーチ様の背後に向かっていました。
「……ユウカ様、あの」
こっそりとユウカ様の耳元に顔を近づけて話しかけます。別にこの魔道具自体は珍しいものでもなく、ユウカ様としても見慣れた物というのもあって早々に資料の方に視線を落としていたユウカ様は気が付いていない様子。
「トーチ様の背後の壁のところを見てください」
「壁? どこぞの研究室じゃろうな。本棚にしか見えんが……む?」
アハト様と話を続けるトーチ様の背後に目を向けたユウカ様もそれに気が付いたご様子。
「……あれ、マナ様のローブでは?」
壁際のハンガーにかけられた白とピンクが基調の特徴的なローブ。それは紛れもなく現在行方不明の私たちの探し人の一人、マナ様の着ていた物でした。
どうもコクトーです。
今回もキャラビー視点のため職業レベルは無です。
またも遅れてすみません。年内の残りは遅れないように頑張りますので何卒…
しかし先週書いてた分はどこにいってしまったのだろう…
ではまた次回