キャラビーとユウカの物語です6
今話もキャラビー視点です。ご注意ください。
「魔王がこの地に来た理由。その一つが封じられた記憶を呼び覚まし、ヒツギを、魔王軍幹部嫉妬として連れ戻すことだったのじゃ」
ヒツギ様が嫉妬になったあの瞬間。それを思い出しながら、私は自身の手をぎゅっと握りしめていました。
「記憶を封じて敵方にスパイとして送り込んでいたというわけか?」
「いや、スパイが目的ではなかったと思うのじゃ。先に言うた通りヒツギがおったのはメイが攻略したどことも知れぬダンジョンの最奥と聞いておる。そんなところにスパイを仕込んで何になるというのじゃ。いつの時代にどんな者が訪れるかわからん。もっと言ってしまえばその目覚めの時に魔王が、あるいは魔王軍という存在が残っておるのかもわからんのじゃぞ?」
「しかし、封じられていた記憶を取り戻して敵に回ったと言うのは事実なのだろう? それほど多くはないかもしれんが情報を抜かれたのは間違いない」
「アハト様は情報を抜かれたとおっしゃいましたがユウカ様、嫉妬になったヒツギさんは何か重要な情報を持っているので?」
「いや、はっきり言うがそんな機密になるような情報は持っておらんと思うぞ」
「ユウカ様のパーティメンバーではありますが高ランクの冒険者というわけでもなく、貴族のお気に入りとして屋敷に出入りしているとかもない。どこかの国で騎士として仕えていたりもないですし、『白き御旗』や他の方々のギルドメンバーというわけでもないですから、得られる情報というのは特別な物はないと思います」
「そこの嬢ちゃんと違ってユウカさんがこういう会合に連れてきたりしたわけでもないよね?」
「まあの。そういう機会がなかったのもあるのじゃが、なにより連れてくる理由がなかったからの。ゴールドやジョー、モモとは面識があるが、向こうからやってきただけじゃし」
「ユウカ殿がいなければ彼らが来ることはなかった、とは考えないのですか?」
「確かにそうかもしれんが、あやつらと知り合いになったからと言って何かあるわけでもなかろう? それに機密情報を持ってきたわけでもない。メイの奴がおるからのいずれは普通に知り合っていてもおかしくないじゃろうて」
「スパイじゃないとして、何が目的だったのかしら?」
「今考えると鳴が欲しかったんじゃろうな」
「というと?」
「ヒツギが呼ばれた900年前に何があったのかはわからんが、あやつの立場からしたら大切な家族、友人と引き離され、頼れる者もいないこの世界に連れてこられたのじゃ。どのような方法を使ったのかは検討もつかんが、魔王がヒツギの想い人として鳴をこの世界に連れてくることができるのであれば魔王軍についてもおかしくはあるまいよ」
「魔王には召喚の儀に干渉し、召喚される者を操作するような能力があると?」
「そんなピンポイントな力ではないでしょ。悪魔を操ると言うならそれこそ願いを叶える力なんじゃない?」
「ああ、代償を支払えば願いを叶えてやろうって悪魔の常套句と聞くわね」
「でも悪魔に世界を超えるほどの力があるのですか? たまにその力で悪事を働いて討伐対象となる悪魔憑きを見ますがそこまでの力があるようには……」
「悪魔というのはピンキリよ? 簡単に力に魅了され、溺れるような連中が呼べる悪魔なんて下っ端もいいところ。そんな下っ端にはできないでしょうね」
「上位の悪魔ならばできると?」
「それはわからないわ。だって悪魔の専門家でもなんでもないもの」
「魔王軍の幹部格は大罪の名を冠する大悪魔と言っておった。そんな悪魔を7体も従えられるとなれば魔王もそれ相応の悪魔を宿していると考えてしかるべきじゃろう」
「でも、世界を超えて特定の人物をいつ行われるかもわからない召喚の儀の対象にするなんてどれだけ高難易度なのよ」
「わからないけど、少なくとも大罪の名を冠する悪魔が7体は敵にいることが確定しているし、魔王がその悪魔を利用して何かしらの願いを叶える代償として魔王軍に仕えている可能性が高いと見ていいだろうな。あいや、魔王を神と崇めている狂信者もいたんだったか?」
「そうじゃな。あともう一つ、大罪の悪魔の一柱である暴食はわしが入る前に『マツノキ』が討伐しておる。そしてメイがその権能を奪ったそうでな。ヒツギを仲間に引き入れに来たと話したと思うが、もう一つ理由があって、それがその暴食の権能を奪ったメイを魔王軍に誘いに来たのじゃ。断っておったがの」
「900年前も含めて異世界から召喚された4名のうち2名が幹部として魔王の手に落ち、残る2人が魔王軍の攻撃で行方不明。勇者につけた護衛の一人はそもそも魔王軍で、王の懐刀とも言える騎士団長も敵に死体を使われる始末。国は、我々は何をやっているのだろうな?」
「魔王軍がそれだけ脅威というわけじゃ」
「まあそれはユウカさんが神威開放を使った上で一幹部に負けたって聞いた時点でわかっていることだよ。何か少しでも対策を考えられればと思っていたからこうして集まっているわけだしね」
「一応対策を考えるとしたらユウカ様が戦った龍人には剣聖センガ様に戦っていただく。渦の転移魔法の対策のためにトーチ様に協力を仰ぐ。強欲、サラ・ファルシマーは光魔法を扱うでしょうから高位の使い出てあるアーカイブ様か対となる闇魔法のスペシャリストとしてドレアム様にあたっていただくのがよさそうであるということでしょうか?」
「あとヒツギちゃん、嫉妬を相手にするのは武器が棺桶という質量兵器となるとロイド君がいいかな? リエーフ殿もよさそうだけど」
「すまぬが嫉妬のことはわしら『マツノキ』に任せてもらうのじゃ。メイもマナもきっと仲間を取り戻すことを諦めておらんはずじゃからな。もちろんわしらも」
ユウカ様がちらりとこちらに視線を向けました。私も力強くうなずきます。
「ご主人様は必ず生きておられます。今はこうしてつながりは切れてしまっていますが、私は信じません。そして、ヒツギ様を必ずや取り戻します」
ご主人様もマナ様も必ず生きている。今私にできることはご主人様が戻ってくるまであのお屋敷を守り続けること。そして、一日も早くご主人様たちの隣で戦えるようにユウカ様の下で鍛え続けること。はるかに格上たる目の前のSランク冒険者のお三方を前に、私は改めてその決意を強めました。
どうもコクトーです。
今回もキャラビー視点なので職業レベルは無しです。
先週はすみませんでした。全然思うように話が進まず…悩んで書き直してまた悩んでとしてたら書ききれませんでした。
ではまた次回