キャラビーとユウカの物語です5
今回もキャラビー視点です。ご注意ください。
「『マツノキ』の他のメンバーたちは皆渦に呑まれたと言うのは見ていた。どこに飛ばされたのかは今の発言を聞く限りわからんのだろうな。だが、なぜだ? なぜ敵は彼らを転移させたのだ? 殺すのではなく。俺はそこに何か重要な手掛かりがありそうだと見ている」
アハト様の視線はまっすぐにユウカ様を貫いていました。
「なぜ、ときたか」
「そうだ。お前に聞くのはなんだが、あの場でお前たち全員、殺しきれたと思うだろう?」
「まあ時間さえかければ可能だったじゃろうな。しかし、殺せなかったのではなく殺さなかった理由がわからんというわけか。であれば簡単じゃよ。やつらの話を聞く限り、確実に殺したかったのはマナだけだったようじゃ」
「他のやつらはオマケだったと?」
「そうは言うておらん。むしろマナを殺す方がオマケじゃよ」
「言っていることが矛盾してないかい? 確実に殺したいと言いながらそれがオマケだなんて」
「説明が悪くてすまんの。マナを殺したいと言うのは最後の最後で出てきた話なのじゃ。そもそもなぜ魔王が自ら幹部を引き連れてあの地にやってきたのかというところに起因する」
「たしかに幹部連中がどんな相手かってことがかなり衝撃的すぎてなんでってのはまだ聞いてなかったわね」
「……その前にじゃが、メイについてはこのメンバーはどこまで知っておる? 場合によってはそこから始めんといかんが、わしにそのつもりはない。悪いことは言わんからわしに話させるのであれば知らん者はすべて外に出よ」
「おいおいユウカさんよ、そんな我儘言ってる場合じゃないぜ?」
「こればかりは譲れんところじゃの。冒険者であればその素性を明らかにせん理由はわかるじゃろう?」
ユウカ様は有無を言わさぬ圧を発しながら周囲の様子を伺います。主にユウカ様の視線が向けられているのは各自の背後に控える方々です。この場での主要メンバーと呼べる方々は皆さまご主人様のことを知っているようです。Sランクの方々はバラーガ様とのことまでは知らないでしょうが、もしかしたら残るお二人は知っているかもしれないですね。
「ユウカ、話せ」
「断る」
「……全員部下を外させろ。話が進まない」
ユウカ様の折れるつもりはないという意思が伝わったのか、アハト様の指示のもと背後に控えていた方々が皆部屋の外に出ていかれました。私もその流れで出た方がよいかユウカ様に小声で尋ねましたが、参考人の一人として話をしてもらうからと止められてしまいました。私はご主人様の意思をくんだアンナの部下の手によって意識を失っておりましたから話せることはほとんどないのですが……。
「ユウカ、これでいいな?」
「ついでに俺も手を加えようか。『囲め』」
スカイ様がぱちんと指を鳴らすと部屋の壁付近で風が渦巻くようになりました。風魔法のスペシャリストであるスカイ様による結界の一種なのでしょうか。
「遮音風結界。これで万が一にも彼らに伝わることもない。安心して話すといい」
「助かるのじゃ。さて、知っての通り、メイはこことは異なる地より召喚された者である」
「闇落ちした勇者と彼。それからマナちゃんが召喚の儀で呼ばれた人間よね?」
「一緒に呼ばれた3人のうち、2人だけが国を出て、ただの冒険者としてパーティを組んでいるというところに思うところがないわけではないけどまあ出自については知っているとも」
「では聞くがこの中でヒツギのことを知っておる者はおるか?」
「棺桶を武器にするなかなかおもしろい子よね。今聞きたいのはそういうことではないのでしょうけど」
「俺もあまり話は聞いたことないかな。でも、この流れでわざわざ名前を挙げるってことはそういうことか?」
「私もあまり存じ上げておりません」
お三方の視線が事情を知っているであろうアハト様の方へ向けられました。アハト様は苦々しい表情を浮かべ、軽く首を横に振りながら答えます。
「……明確な証拠があるわけじゃないが、彼らの同郷。それも親しい間柄だろう? 2人が姉と呼び慕う程度には交流があったと我々は見てる」
「てっきり話を聞いておると思っておったがあやつらもそこまでお主を信用しておらなんだな。ヒツギはまさしくメイの姉なんだそうじゃ。小さい頃から3人でおったからマナも姉の様に慕っておったと聞いた」
「親しいどころじゃなかったわけか」
「まあ血のつながった弟を本気で狙う変わり種ではあるがの」
「姉という存在は下の子がかわいくて仕方ないものよ。私も妹たちを食べてしまいたいと思うことがあるわ」
「ドレアム殿、そういう話じゃないさ。その出自が確かであればどうして彼女はこの地にいる? 彼らの世界で神隠しにあった2人を追って命を絶ったらたまたまこの世界で生まれ変わったとでも言うつもりか?」
「それであれば姉弟などと言わぬよ。ヒツギもまたこの世界に呼ばれた召喚者というだけの話じゃ」
「王家の伝手でも、俺のギルドマスターとしての伝手でも把握できていない召喚が密かに行われ、そこから脱走。そして彼らと奇跡的に合流したと? どこのバカだ」
「そんな複雑な話ではないわい。ヒツギもまたデルフィナ王家によって召喚された存在だそうじゃ」
「そんなはずはない! 召喚の儀にどれだけの費用が、時間が、人手がかかると思っているんだ!? ましてあんな時の運に任せるしかない大博打をそう何度も行えてたまるものか!」
「落ち着くのじゃ。別にわしはあの王がやったなどと一言も言うておらんじゃろう?」
「ユウカ様、お言葉ですがカシュマ王以外にそれほどの大儀式を行うための一式を揃えられる王族などアハト様くらいなのでは?」
「俺はやってねえよ」
「お主でも他の王位継承権を持つ王族でもないのじゃ。わしも初めは信じられんかったが、ヒツギがこの世界に呼ばれたのは実に900年も昔の話。本人曰く、魔王がいない時代に行われた召喚の儀によって呼び出され、知らぬうちにメイが単身攻略したどこかのダンジョンの最奥で眠りについておったそうじゃ」
荒唐無稽な話を真剣に語るユウカ様に対し、周りの方々は真実か否か探りかねるといった様子で、ぽかんとされていました。
「そ、んな昔の人間、生きているはずないだろう?」
「本人も半年ほど前にメイに見つかるまではずっと寝ておったそうじゃからな。しかもなぜそこで眠りについておったのか最後の記憶も無し。特殊なモンスターかと思わんでもないがそういうわけでもなく、完全に人間じゃ」
「どうしてそう言い切れるのですか?」
「わしの瞳でも人間としか出ん。それが一番の理由じゃな」
「ユウカ様のお力で見たのであれば間違いなく人なのでしょうが、900年云々の話はどうして信じたのですか?」
「嘘をついているようには見えんかったし、その当時の貨幣なども見せてもらったからの。まあその辺は一旦よいから話を戻すのじゃ。魔王がこの地に来た理由。その一つが封じられた記憶を呼び覚まし、ヒツギを、魔王軍幹部嫉妬として連れ戻すことだったのじゃ」
ヒツギ様が嫉妬になったあの瞬間。それを思い出しながら、私は自身の手をぎゅっと握りしめていました。
どうもコクトーです。
今回もキャラビー視点なので職業レベルは無しです。
3連休なので月曜更新!来週は夜勤があるの嫌だなぁ…
ではまた次回